ワシントン・タイムズ・ジャパン

阻止された「リベラル革命」/米大統領選

日本に問われる総合外交力

 「まさか」が現実になり、全世界に衝撃を与えている。過激な発言を繰り返し、何をするか分からない共和党のドナルド・トランプ氏が、米国の舵取りを担うことに不安を抱かない人はほとんどいないだろう。だが、米国民がトランプ氏を選んだ意味を冷静に考ええてみる必要がある。

 まず、見落としてならないのは、トランプ氏が「リベラル革命」の継続を阻止したことだ。医療保険制度改革(オバマケア)などリベラルな政策の数々を1980年代の「レーガン革命」に匹敵すると自画自賛するオバマ大統領は、その継承をヒラリー・クリントン前国務長官に託そうとした。

 オバマ氏とクリントン氏のリベラル思想の源流には決定的な共通点がある。共に若い頃、米国を漸進的に社会主義化していく理論を体系化したシカゴの左翼活動家、故ソウル・アリンスキー氏の思想に傾倒していたことだ。

 つまり、クリントン氏が当選していたら、米最高権力者のバトンはアリンスキー氏の弟子から弟子に引き継がれていた。「米国を根本的につくりかえる」と宣言し、米社会の左傾化・世俗化を推し進めたオバマ氏のリベラル革命に、トランプ氏が歯止めを掛けた意味は極めて大きい。

 トランプ氏が保守派であるかどうかは議論の分かれるところだ。それでも、政府の役割や規制を減らし、民間活力で経済成長を目指す同氏の方向性は、「小さな政府」を大原則とする保守主義と合致する。保守的な論調のウォール・ストリート・ジャーナル紙も「トランプ氏が最優先課題にする成長こそ、この10年間、進歩主義者たちが所得の再配分にこだわり、過去70年で最悪の経済回復を経験した米国にとって、何よりも必要なものだ」と高く評価していた。

 伝説的な保守派活動家、故フィリス・シュラフリー女史は、今年9月に92歳で他界する直前に出版した著書で「トランプ氏はレーガン氏以来、最も保守的な大統領になる」と遺言のように予言している。トランプ氏がレーガン氏のような確たる保守哲学の持ち主には見えないが、米国内にはこうした評価があることも見過ごすことはできない。

 一番の不安は、やはり外交政策だ。「米国第一」を掲げる孤立主義的な対外姿勢は、世界の警察官の役割を否定したオバマ氏の内向きで消極的な外交政策に通じるものがある。

 だが、オバマ氏との明確な違いは、米軍再建を強調していることだ。オバマ政権下で進められた急激な国防費削減に伴う米軍の戦力低下は、中国の急速な軍拡と合わせ、アジア太平洋の軍事バランスに暗い影を落としていた。国防費増額による「強い米国」が復活することは、大いに歓迎すべきことだ。

 それでも、米国との同盟関係を外交・安全保障政策の柱にする日本にとって、試練の時期になることは避けられない。日本に求められるのは、あらゆるルートを通じて新政権に影響を与えていく総合外交力だ。また、日米同盟を基軸としつつも、過度な対米依存を見直し、自主防衛力を高める好機にできるかどうかも大きく問われるところだ。
(ワシントン・早川俊行)

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