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米国で薬物乱用が深刻化

 米国で社会問題となっているオピオイド(麻薬性鎮痛薬)の乱用が深刻化している。トランプ前政権が対応に本腰を入れて取り組んだが、中国からメキシコを経由した流入が続いており、公衆衛生だけでなく、国家安全保障上の問題として対応することが急務となっている。(ワシントン・山崎洋介)

オピオイド関連死が約7万人
中国からメキシコ経由で流入

 先月、米国で薬物中毒による2020年の死者が過去最悪の約9万3000人に上ったことが、疾病対策センター(CDC)の暫定集計で明らかになった。前年と比べ約29%増で、中でもフェンタニルをはじめとするオピオイド関連の薬物過剰摂取による死亡者は、7万人近くに上った。新型コロナウイルスの感染拡大に伴うストレスなどがその理由として挙げられている。

薬物中毒による死者の急増に危機感を示した米国立薬物乱用研究所(NIDA)のノラ・ボルコウ所長(UPI)

薬物中毒による死者の急増に危機感を示した米国立薬物乱用研究所(NIDA)のノラ・ボルコウ所長(UPI)

 「これらのデータには寒気を覚える。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は米国で健康危機への壊滅的な打撃を引き起こした」。米国立薬物乱用研究所(NIDA)のノラ・ボルコウ所長は、声明で薬物中毒による死者の急増に強い危機感を表明した。

 フェンタニルは、モルヒネの50~100倍の効果があるとされ、たった2㍉㌘の投与量でも死に至る可能性がある。これが「ヘロイン」として密売され、本人も気付かないまま投与してしまうケースも多いという。

 オピオイド問題をめぐっては、トランプ前大統領が17年10月に「公衆衛生上の非常事態宣言」を発表。中毒患者の治療や違法薬物の取り締まりなど、対策に本腰を入れて取り組んだ。

 中でもトランプ氏が特に問題視したのが、フェンタニルの主要な供給源である中国だ。大量のフェンタニルが国際郵便などを通して中国から米国に流入していたことから、同氏は中国側に対応を迫った。

 18年12月の米中首脳会談でトランプ氏と習近平国家主席は、フェンタニルの規制を含む麻薬の取り締まりで協力することに合意。これを受け、中国は翌年5月から、25種のフェンタニル類物質と2種の原料物質を規制の対象とした。

 だが、その後も中国の業者が規制対象となっていない原料物質や打錠機をメキシコの麻薬密売組織に販売。これらを用いて、密売組織はフェンタニルを製造し、それが南部国境を越えて、大量に米国内に流入しているとみられている。

 米大手シンクタンク、ブルッキングス研究所のバンダ・フェルバブ・ブラウン上級研究員は「現在米国に到着しているフェンタニルのほとんどは、メキシコを経由したもの」だと指摘。メキシコ軍によると、20年に押収したフェンタニルの量が前年の5倍近くに増加した。同国のフェンタニルの多くは、米国に密輸されているとされ、メキシコ国境からの流入が急激に増加していることがうかがえる。

 バイデン氏が大統領就任以来、トランプ前政権による厳格な国境政策を撤廃したことに伴い、南部国境を越える不法移民が急増していることも、状況を悪化させている。国境警備隊が不法移民への対応に忙殺されることで、違法麻薬への取り締まりがおろそかになるほか、不法移民自体が「運び屋」となるケースもあるからだ。

 中国が米国に代わる超大国となることを目指す中、中国共産党が麻薬関連物質の輸出を戦略的に黙認もしくは後押ししている可能性も指摘される。

 米大手シンクタンク、ハドソン研究所所長のジョン・ウォルターズ元ホワイトハウス麻薬統制政策室長らは、4月に発表した論考で、「中国共産党は違法薬物の供給が米国に及ぼす力を理解している。米国は手遅れになる前に公衆衛生と国家安全保障の両方の脅威に立ち向かうための手段を講じることが不可欠だ」と訴えた。

 バイデン氏は先月21日、薬物中毒問題が深刻な中西部オハイオ州で開かれたCNNテレビの対話集会で、中国からメキシコを通してフェンタニルが流入していると指摘した上で、「中国との対決を継続する」と強調。司法省の職員数を大幅に増やすことで、問題に対処すると訴えた。

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