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インフラ投資法案のプロセスで分かる現代アメリカ連邦議会

 バイデン政権の目玉公約であるインフラ投資法案の議論が佳境を迎えつつある。インフラ投資法案は老朽化する米国の社会インフラの更新等を巡り、民主党政権でも共和党政権でも常に議論の的となってきた政策だ。トランプ大統領も2016年大統領選挙の公約で巨額のインフラ投資を約束していたが、結局は公約を実現できずに頓挫した経緯がある。

 では、一体何故米国においてインフラ投資法案の成立が困難であり、現在のように多くの議論が集中する問題となっているのか。それは米国の政治的分断と深くかかわる問題だと言えるだろう。

7月22日、ホワイトハウスで超党派によるインフラ投資法案について議論するバイデン大統領(UPI)

7月22日、ホワイトハウスで超党派によるインフラ投資法案について議論するバイデン大統領(UPI)

インフラ投資(公共事業)が利権誘導の代名詞となっている国は日本だけではない。米国においても連邦議会議員は自らの選挙区に対して利益誘導することは至上命題であり、それらの利権誘導は「Earmark」と呼ばれて過去に大きな社会問題・政治問題となってきた。そして、代表的な事例として「Bridge to Nowhere」(どこにも繋がらない橋)と呼ばれる公共事業を巡る事件が発生し、Earmarkは連邦議会で禁止されることになった。

 この際、Earmarkを禁止するために積極的に動いた政治勢力が共和党内保守派である。彼らは小さな政府を標榜し、連邦政府主導の公共事業の在り方を拒否し、州単位で民間資本を活用するインフラ整備を好む傾向がある。したがって、共和党保守派に推されて大統領に就任したトランプ前大統領が連邦政府主導の巨額のインフラ法案を全く進めることができず、公共事業に関する許認可の簡素化等に終始したことは必然であった。

 一方、民主党左派のサンダースらは、連邦政府主体のインフラ投資法案の成立を望んでいる。その内容は従来までの物理的なインフラを対象とするだけでなく、教育なども含めた人的なインフラまで支出対象に含めたものとなっている。必然的に予算額は膨れ上がるとともに、一旦は禁止したEarmarkが堂々と復活する兆しすら見せている。木を隠すには森、個別の利益誘導を隠すには巨額予算、と言ったところだ。

 連邦上院では民主党VS共和党が50対50で拮抗しており、可否同数でも自党の政策をゴリ押しできる財政調整措置を使用しない場合、民主党は共和党による議事妨害を回避するため、共和党から10票の造反票を得ることが必要となる。

超党派案と民主案の二本立て

 現在のインフラ投資に関する法案は、超党派法案と民主党独自案の二本立てで策定されることになっている。前者の超党派法案は問題解決議連と呼ばれる民主党・共和党両党の上院議員によって策定されており、主に物理的なインフラ投資に絞った内容にまとめられた。こちらの法案は上院での審議入りの合意がなされており、今後成立に向けて前進していく様相となっている。一方、民主党独自案は民主党上院議員が財政調整措置を利用して一丸となって法案成立に賛成することが必要である。しかし、民主党の中には党内左派が主導する人的インフラ投資などに懐疑的な意見などもあって見通しが不透明な状況にある。

 そこで、サンダースら党内左派は民主党独自案も一体でなければ法案に賛成しないことを表明するなどの政治的な圧力を強めつつある。これは超党派法案の成立に向けた協力を人質として民主党独自案を成立させようとする交渉術である。

7月12日、バイデン大統領との会談後、記者団の質問に答えるバーニー・サンダース議員(UPI)

7月12日、バイデン大統領との会談後、記者団の質問に答えるバーニー・サンダース議員(UPI)

 更に政局状況を複雑にしているのは連邦下院の状況だ。連邦下院では民主党が共和党に対して僅かな議席の優位を保っている。ペロシ下院議長は上院で合意が得られた案について下院を通過または修正する権力を事実上有している。そのため、サンダースら党内左派の議員は、上院から下院のペロシに対して単独では超党派法案に賛同しないように要請している。

 本来であれば上院と下院は別物であるため、ペロシがサンダースの要請を全面的に受け入れる義理はないが、最近の政治情勢の変化はペロシの独断を許さないようになりつつある。その主な原因は民主党連邦議員の懐を支える左派系有権者からの個人献金だ。個人献金プラットフォームであるAct
Blueを通じて民主党連邦議員に注ぎ込まれる左派系マネーは膨張を継続しており、民主党の連邦下院議員の多くは、左派の個人献金が無ければ自身の選挙活動を十分に行うことが困難となっている。仮に超党派法案に内心で賛成している下院議員がいても、党内予備選挙で多額の個人献金を背景とした左派系挑戦者に向き合うことは回避したいと思うはずだ。

 したがって、民主党も共和党も上院・下院両院までも含めた雁字搦めの構造の中にあると言えるだろう。特にインフラ投資法案の綱引きが激しすぎるため、その見通しは常にブラックボックスと言っても過言ではない。そして、この構造はインフラ投資法案ほどではないにしても、他の党派的な法案の大半にも当てはまるものであり、現在の米国議会の状況を分析する前提として理解しておくべきこととなっている。今後、インフラ投資法案がどのような顛末を迎えることになるのか、同法案を通じて米国の今を知る上で極めて興味深い結果が得られることになる。

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