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米国民主党が復活を模索する「イヤーマーク」(利益誘導)法案

 2021年2月23日、米国において「イヤーマーク」復活阻止を求める書簡が連邦議会に提出された。この「イヤーマーク」を巡る問題は地味なものではあるものの、今後の米国政治の政局運営を分析するにあたって極めて重要な意味を持つ。

早稲田大学招聘研究員 渡瀬裕哉氏

早稲田大学招聘研究員 渡瀬裕哉氏

 「イヤーマーク」とは豚などの家畜の耳に付けられる目印のことであり、米国政治の隠語として「利益誘導」を意味する言葉である。この言葉は具体的には特定のプロジェクトまたはプログラムに使用される資金を各種法案の条項に下院議員が潜り込ませる行為を指すものだ。

 米国の場合、日本と違って連邦議会での投票に際して政党による党議拘束が存在していないため、法案内容に味付けを加えることによって個別の議員の法案に対する賛否について翻意させることができる。

 「イヤーマーク」(利益誘導)条項には下院議員の選挙区に特定の利益をもたらすものが多く、議員による事実上の選挙区買収と引き換えに、本来は本法案全体に反対している下院議員の投票行為を賛成に転じさせるように機能する。

 Citizens Against Government WasteのCongressional Pig Bookによると、1991年以来、納税者に3757億ドルの費用がかかる11万1417個のイヤーマークが存在してきたとされている。

 最も悪名高いイヤーマークの事例は「Bridge to Nowhere」(どこにも繋がらない橋)である。これは利益誘導に動機づけられた無駄な公共事業支出の総称であり、そのシンボリックな事例として、2005年にアラスカ州で開始されたグラビーナ島橋プロジェクトがある。これはフェリーで既に往来可能な人口9000人未満の沿岸の町と僅か人口50人のグラビーナ島を繋ぐ橋の建設に3億2000万ドルを使用するというトンデモ計画であった。同橋は大きな社会問題を引き起こし、結果として2015年に建設は正式に中止されたが、それまでに橋に繋がるはずであった無駄な道路は建設されることになってしまった。

 「イヤーマーク」は度々議会で問題視された結果、2011年に連邦議会はイヤーマーク行為全般を凍結することを採択している。この採択によって一部の利益誘導は残っているものの、その後は露骨なイヤーマークが行われることは極めて困難になったと言えるだろう。この凍結の採択は、納税者の声を代表し利益誘導政治を拒否する共和党保守派がイヤーマークを激しく糾弾した結果であった。

 しかし、民主党が上院下院で多数を取り戻した現在、下院歳出委員会委員長のロサ・デラウロと上院歳出委員会委員長のパトリック・リーヒが与野党の議席が伯仲する厳しい議会運営を乗り切るため、「イヤーマーク」を復活させる動きを見せている。バイデン政権と民主党指導部はイヤーマークを復活させることで、共和党・民主党の中道派を事実上買収して切り崩し、本来は通るはずのない不人気な法案が成立する状況を創り出そうとしているのだ。

 そのため、冒頭のように全米税制改革協議会が主導する17の組織の連合が2011年に禁止されたイヤーマークの復元を拒否するよう議会に求める書簡を送付する事態となっている。この露骨な腐敗の仕組みが公に復活するか否かは、今後バイデン政権の政局運営に大きな影響を与えていくことになるだろう。

 筆者は日本の納税者として米国の納税者らが政治腐敗との闘いで勝利することに期待している。今後ともこの動きについて注意深く見守っていきたい。

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