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米次期政権 気候問題を外交の中心に

 バイデン次期米大統領は、新設する気候変動問題の大統領特使に上院議員時代からの盟友、ジョン・ケリー元国務長官を充てる。気候変動を国家安全保障や外交政策の中心に据える意思を示した人事だが、同盟国との連携を強めて中国に対峙(たいじ)するという次期政権の取り組みの障害になることも懸念される。(ワシントン・山崎洋介)

対中政策で譲歩の懸念も
ケリー大統領特使の交渉手腕に疑問の声

 ケリー氏は、閣僚レベルのポストである大統領特使として、内外の政策に幅広い影響を与える気候変動問題を担当。国家安全保障会議(NSC)の一員ともなる。しかし、ケリー氏の権限の範囲は、明確にされていない。

2016年9月、ニューヨークの国連本部で地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」について講演した当時のジョン・ケリー米国務長官(UPI)

2016年9月、ニューヨークの国連本部で地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」について講演した当時のジョン・ケリー米国務長官(UPI)

 米シンクタンク、ブルッキングズ研究所のトーマス・ライト上級研究員によると、バイデン氏の顧問の間では、国務長官に指名されたアントニー・ブリンケン元国務副長官の対中政策の妨げになることへの懸念が広がっている。

 ライト氏は、ケリー氏の考えに精通している3人の話として、同氏が気候変動問題を米中関係の最重要課題と信じており、「中国との地政学的競争を含め、他のすべては二次的なもの」と見なしていると指摘。その上、偏執的なところがあり、「国務長官時代、あまりホワイトハウスからの指示を仰ぐことなく、自らが優先する政策を推進するために本能的直観に従って行動する傾向があった」と伝えた。

 中国は気候変動問題への「協力」の見返りとして、米国から南シナ海や香港、それに台湾などに関して譲歩を引き出そうとする可能性がある。こうした中、ケリー氏が単独で行動することで、中国を交渉上、優位に立たせることが警戒されている。

 特に、オバマ政権時代、ケリー氏はブリンケン氏のかつての上司であったことも、こうした懸念を強めている。ABCニュースも「ケリー氏は気候変動問題を米中関係の他の問題よりも重要視しているようだ。このため、中国による経済スパイや人権問題に対処するブリンケン氏の取り組みを損なう可能性がある」と指摘した。

 トランプ政権は、貿易不均衡やハイテク、人権、安全保障など幅広い分野で中国がもたらす脅威に全面的に対抗する政策を実行してきた。これに対して、バイデン次期政権は、特にウイグル人弾圧などの人権問題で厳しい姿勢を見せるものの、共通の課題である気候変動問題などでは協調を模索する方針だ。

 こうした考えの下、新政権が地政学的な現実を踏まえた明確な対中政策を打ち出せるかが問われている。

 著名な国際政治学者、ウォルター・ラッセル・ミード氏は先月、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙で、トランプ政権の2017年国家安全保障戦略で、中国とロシアとの「大国間競争」を外交政策の中心に据えたことについて、「次期大統領周辺の多くは、これが悲劇的な誤りであると信じている」と指摘。その理由として「気候変動やパンデミックを、大国間の対立よりも恐ろしく差し迫った危険と見なしているためだ」と説明した。

 同氏は、気候変動問題や公衆衛生でグローバル・ガバナンス(多国間統治)を推進するのは良いことだが、「厳しい現実は地政学が最優先ということ」だと強調。両者のバランスを取ることがバイデン外交の成否のカギを握るとの見解を示した。

 こうした問題に加え、ケリー氏の交渉手腕を疑問視する声も大きい。

 ケリー氏は、オバマ前政権時代に国務長官として、イラン核合意の実現を主導した。だが、ウラン濃縮活動の制限期間が10~15年で終了することに加え、弾道ミサイル開発を断念することが合意に含まれていないことなどが問題視された。

 WSJ紙は先月19日の社説で「ケリー氏の経歴は、米国の敵対勢力への譲歩によって特徴付けられている」と指摘。中国は気候変動問題への協力と引き換えに、周辺地域への侵略行為や香港への統制強化について米国を沈黙させようとしているとした上で、「習近平中国国家主席は、イランが2015年の核合意で行ったようにケリー氏を手玉に取ろうとするだろう」と警戒感を示した。

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