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黒人社会は「被害者意識」からの脱却を

《 記 者 の 視 点 》

米国の黒人経済学者ウォルター・ウィリアムズ氏の“遺言” 

 新聞記者をしていると、「忘れられないインタビュー」が時々ある。取材した相手の人柄に惹(ひ)かれたり、発言内容に大きな刺激を受けたときなどがそうだ。

 またいつか取材したいと思っているうちに、その人の訃報が流れてくることがある。なぜもっと早くもう一度アポを取らなかったのか。そう悔やんでも、後悔先に立たず、である。

 最近もそのようなことがあった。米国の黒人経済学者ウォルター・ウィリアムズ氏にインタビューしたのは3年前のこと。以来、もう一度話を聞きたいとずっと思っていた。だが、先月2日に急死したというニュースが飛び込んできた。84歳だった。

 人種問題という敏感なテーマについて話を聞いたが、ウィリアムズ氏の穏やかな語り口から出てくる言葉は、米社会のタブーを一切気にしない刺激的なものばかりだった。

 筆者が「人種差別は今なお大きな問題だと思うか」と尋ねると、「思わない」と即答。新たに生まれてくる黒人の子供の4分の3が婚外子という事実を挙げながら、家庭崩壊の方がはるかに深刻な問題であるとし、黒人はそれを「人種差別のせいにはできない」と言い切るのだった。

 昨年5月にミネソタ州で起きた黒人男性ジョージ・フロイドさん暴行死事件をきっかけに、黒人を抑圧する米国の社会構造そのものを断罪する風潮が広がり、全米各地で建国の偉人の銅像などが破壊される事例が相次いだ。

 黒人は今も抑圧の犠牲者なのか。ウィリアムズ氏はこれについても、「ナンセンスな主張だ」とばっさり。米国の黒人社会を一つの国家と仮定して試算したところ、その国内総生産(GDP)は2008年の統計で、ベルギーやスイス、スウェーデンより上の世界18位に相当したという。ウィリアムズ氏は「このような進展は米国だからこそ可能だった」と述べ、黒人社会を豊かにした米国の建国の理念や社会構造がいかに優れているかを堂々と語るのだった。

 母子家庭で育ったウィリアムズ氏は、フィラデルフィアの低所得者向け公営住宅で暮らし、貧しい黒人が集まる地域の悲惨な実態を肌身で体験してきた。そんな極貧生活を送っていた黒人少年が著名な大学教授になり、裕福になった自らの人生こそが、「米国の偉大さを示すものだ」と、ウィリアムズ氏は誇らしげに語っていた。

 ウィリアムズ氏が語る内容はどれも刺激に満ちていたが、最も印象に残った発言は以下の一言だ。

 「黒人にとって何より重要なのは、左翼の反米アジェンダのツールとして利用されるのをやめることだ」

 左翼勢力は黒人に米社会の被害者、犠牲者だという意識を植え付けることで、黒人を取り込み、政治運動に利用してきた。黒人社会が人種対立と国家への憎悪を煽(あお)る左翼勢力の政治戦略を見抜き、拒否しなければ、米社会の調和は遠のくばかりである。

 被害者意識から抜け出してほしい――。ウィリアムズ氏の“遺言”が黒人社会に届くことを願うばかりである。

 編集委員 早川 俊行

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