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戦争に備えているアメリカ海軍

■南シナ海の演習

 7月になると南シナ海で米中両軍の演習が開始された。アメリカ海軍の空母(ロナルド・レーガンとニミッツ)2隻が南シナ海で演習を開始したが、人民解放軍もパラセル諸島付近で演習開始。双方が通常の演習だと主張するが、米中関係から双方を威嚇している形になっている。

戦争学研究家 上岡龍次氏

戦争学研究家 上岡龍次氏

■演習の目的

 演習は敵がいないだけの戦争。だから戦闘部隊の行動は実戦と同じ。戦闘から後方支援まで実際の手順と同じだから、部隊の練度を上げることが可能。それに実際の戦闘で何をすれば良いかを確認できる。

 しかも想定された空間での演習であれば、自然環境・地形に合わせた経験を蓄積できる。何も知らないよりも、事前に地形や自然環境を知ることは有利になる。だから各国の軍隊は、定期的に演習を行う。

 演習の裏の意味は、仮想敵国を恫喝する道具。人民解放軍はパラセル諸島付近で演習を行うが、これは香港に近い海域。しかも南シナ海の海上交通路を遮断する位置だから、アメリカを威嚇する演習になる。

 アメリカ海軍の南シナ海進入は海上交通路を守るため。だから台湾・香港・南シナ海の広範囲が想定された戦場。だが南シナ海まで進入するなら、それは香港・南シナ海防衛が目的。時期的に、中国共産党を威嚇することが目的。

 中国共産党とアメリカは、未来の戦争に備えた演習を行っている。そしてお互いに政治的な威嚇として演習を用いている。お互いに一石二鳥だから、戦争に備えた演習。もしお互いに戦争回避を望むなら、見た目が派手な威嚇はしない。

■接近阻止戦略は無価値

 人民解放軍はアメリカ軍に対抗する接近阻止戦略を持っている。戦略に従い、中国本土からグアムまで届く長射程の対艦弾道ミサイルを持っているとされる。アメリカ軍を上回る長射程の兵器を用い、来航するアメリカ海軍を段階的に撃破する。そして中国本土まで来た時には消耗しているから、人民解放軍艦隊・戦闘機隊・地対艦ミサイルで撃破する構想。

 だがアメリカ海軍が南シナ海・日本に展開していればどうか。グアムまで届く長射程の対艦弾道ミサイルは無意味になる。何故なら近くを撃つことはできない。人民解放軍は段階的にアメリカ海軍を消耗させるはずが、最初から中国本土にいれば接近阻止戦略は機能しない。

■対艦弾道ミサイルはブラフ?

 人民解放軍は中国本土からグアムまで届く対艦弾道ミサイルを持っているとされる。だが太平洋上で動く標的に命中させた動画は公開されていない。中国本土に来航するアメリカ海軍を段階的に消耗させるなら、移動する目標に命中させなければ無意味。

ミサイル評価基準の3要素

1:弾頭(破壊力)
2:射程
3:命中精度

 人民解放軍の弾道ミサイルで判っているのは射程だけ。弾頭は通常弾頭なのか核弾頭なのか不明。しかも命中精度に関しては謎の世界。弾頭と命中精度は連動しており、例えば核弾頭は命中精度の悪さを補うことが目的。

 目標から3000m離れて弾着するならメガトンクラスの核威力になり、300m離れるなら300キロトンクラスになる。仮に10m以内なら通常弾頭。これは目標が動かない静止目標だから、洋上で動く軍艦に命中させる技術は疑問視されている。

 人民解放軍は24時間アメリカ海軍を探知し、リアルタイムで目標の移動を把握しなければならない。そしてリアルタイムで対艦弾道ミサイルに目標の移動情報を送信し、対艦弾道ミサイルは常に軌道修正できなければならない。さらに落下する時の摩擦熱と速度に耐えて目標探知、さらに軌道修正をすることは認知されていない。人民解放軍が不確な対艦弾道ミサイルを持ち出しても、現段階ではブラフと言える。

■現実路線のアメリカ海軍

 アメリカ海軍は行儀良く、ハワイ・グアムから中国本土を目指すのか。結論から言えば、それはない。戦争前は戦力を分散し戦争に備えるのが基本。しかも世界各地に基地ネットワークを持つアメリカ軍は、陸・海・空・海兵隊を常に世界各地に配置している。

 これでアメリカ軍は世界各地に展開可能。同時に仮に仮想敵国から攻撃を受けても、被害を最小限にすることができる。世界各地に展開してれば、無傷の部隊が戦場に集結できる。その一つとして、アメリカ海軍は日本に基地を置いている。

 この段階でアメリカ海軍は、人民解放軍の対艦弾道ミサイルを無力化している。何故なら米ソ冷戦時に、ソ連軍は核弾頭でアメリカ空母艦隊を攻撃する構想を持っていた。これは現代の対艦弾道ミサイルに相当する。アメリカ海軍はソ連軍の攻撃に対抗し、一つの大きな空母艦隊を分割し、小さな複数の空母艦隊で運用することにした。

 一つの空母艦隊が核攻撃を受けても、他の空母艦隊が生き残る。これは偶然にも戦後の地域紛争にも対応できた。この延長として、現代の運用がある。つまり人民解放軍の対艦弾道ミサイルは、冷戦期に使えなくなった兵器。人民解放軍がブラフで用いているとしても、アメリカ海軍には無意味な兵器になっている。

■開戦を待つ

 アメリカ海軍は人民解放軍を恐れず、常に中国大陸近くで活動している。これは人民解放軍の戦闘機隊・艦隊・地対艦ミサイルを恐れていない証。人民解放軍は必ず地対艦ミサイルの飽和攻撃を行うが、アメリカ海軍には対抗できる自信があるようだ。そうでなければ沿岸部で活動しない。

 同時にアメリカ海軍は人民解放軍に攻撃しやすい環境を与え、人民解放軍から攻撃する様に仕向けている。既に政治のレベルで中国共産党から開戦させる動きになっている。ならばアメリカ軍は既に戦争に備えている。

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