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建国の父の銅像がトランプに南部接戦州での勝利をもたらす理由

 米国の街中には様々な銅像が立ち並んでいる。それらは街の風景と調和し、米国や地域の歴史、その文化を象徴する存在として人々によって慈しまれる対象となっている。

早稲田大学招聘研究員 渡瀬裕哉氏

早稲田大学招聘研究員 渡瀬裕哉氏

 しかし、そのような銅像に対する社会的な撤去圧力が強まっていることも事実だ。特にこれらの銅像が、ミネソタ州ミネアポリスで白人警官がジョージ・フロイド氏を殺した事件に端を発する5月末からの暴動の的となったことから、大きな社会問題として注目されつつある。

 トランプ政権になってから米国の偉人の銅像が攻撃の対象となり、それが大事件に発展することは今回で2度目である。最初の事案は2017年に発生したバージニア州シャーロッツビルで発生した南軍のリー将軍銅像の撤去を巡る問題であった。

 シャーロッツビルでは過激な左派グループであるアンティファを含む撤去派と、それを妨害しようとする白人至上主義者との間で衝突があり、死傷者が出る事件にまでなった。当時、その衝突をしたグループに対し、トランプ大統領が「どっちもどっち」という趣旨のコメントをした。しかし、白人至上主義団体側に反ユダヤ主義のネオナチが混ざっていたこともあり、ユダヤ社会から激しい抗議を受けることになり、スティーブ・バノン主席戦略官が実質的に引責辞任する事態を引き起こすことに繋がった。

 米国では南軍の司令官であったリー将軍の銅像を撤去しようとするリベラルの運動が盛んになってきている。奴隷制を肯定する南軍は米国では社会的否定の対象であり、その象徴であるリー将軍を奉る銅像等を憎悪する過激なリベラルも多い。(実際にはリー将軍自体は奴隷制度に肯定的ではないのだが)

 背景には、2015年にサウスカロライナ州チャールストンで発生した南部連合旗を掲げた白人至上主義者によるアフリカ系教会での乱射事件の影響もあり、その後、南軍を象徴するものは全て差別にあたると考える過激なリベラル思想が流布され続けていることがある。北軍中心の歴史観に対して、連邦政府に対抗した南軍の主張に配慮した歴史的な見直しも行われているが、リベラル色が強い現代の米国社会では受け入れられることもないだろう。

 現在、このような銅像を撤去する計画、しかも実力行使によって実施しようとする計画は、ジェファーソン、ワシントン、果ては奴隷解放を実現したリンカーンの像撤去に至るまで難癖をつける形で拡大している。過激派はもはや一般の米国人から見ても「やりすぎ」だと思うレベルにまで行動が暴走しつつあり、実はこれはトランプ大統領にとっては反転攻勢の契機となる可能性もある。

 ジョージ・フロイド氏が亡くなった白人警官の横暴に対する抗議については米国内では一定の支持が存在している。これは現代の問題でもあり、そのこと自体に異論を唱えることは難しい。だが、その派生問題として歴史問題について過度に南部の歴史を貶める行為が蔓延した場合、表立って声には出さないものの、南部住民のサイレントマジョリティの憤りは増加していくことになる。

 それは今回の大統領選挙で接戦州化している南部のサンベルト、そして上院議員選挙があるバイブルベルト各州で、共和党への投票に繋がっていくことになるだろう。

 多くの米国市民は過激な暴徒が語るリベラルの大義名分に反論することは更なる分断を招くことと理解しており、公共の場における銅像や南部連合旗は撤去されることになるかもしれない。しかし、心の中の本音の部分では理不尽な過激派の主張に決して納得していないことは明らかだ。

 アフリカ系の人々の命の大切さを訴えかける運動が過激な暴徒に乗っ取られていくことで、米国の分断はより一層拡大していくことになる。

(サムネイル画像:JamesDeMersによるPixabayからの画像)

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