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コロナ後の世界—米中に分割のシナリオ

 トランプ大統領は5月14日、コロナ問題での中国との関係において、最も強いコメントの1 つをした。トランプ政権はウイルスに関する情報を控えているとして中国に罰金を科したり金銭的補償を求めたりする手段を検討している。しかし「関係全体を断ち切るならば5000億ドルを節約できる。」

 この後半部分は1月15日に締結された米中貿易合意第一段階への不満を示唆するものと思われる。というか2年以上に亘った貿易戦争を以てしても、中国中心になってしまった世界のサプライチェーンの切断は十分ではなかった。そのため同合意が出来た直後に、既に問題になって来ていたコロナウイルスのお陰で、このサプライチェーンの切断が進むのではないか?—という発言を、トランプ氏の貿易顧問ナヴァロ氏がしているほどである。

トランプ大統領と習近平主席

 

 ナヴァロ氏は4月19日にも中国がコロナウイルスの発生中に個人用保護具(PPE)市場を「支配」し、「利益を上げている」と語った。中国は世界最大の医療機材生産拠点の一つでありながら、コロナが流行ってから必要な医療機材の輸出を行わず、むしろ20億ドル以上を輸入して世界の人々を苦しめている。これは「政治戦争」と言って良いのではないか? 実際、2018年のワシントンの個人用保護具(PPE)の輸入の48%、イブプロフェン輸入の95%、ヒドロコルチゾン(91%)、アセトアミノフェン(70%)。3月上旬の新華社は、中国がそのような薬物の輸出を禁止すると「米国は新しいコロナウイルスの流行の地獄に陥る」と警告した。  また米国は戦略的兵器とハイテク消費製品の製造に不可欠な18種類の鉱物に完全に輸入依存している。最も重要なのはリチウムとレアアース。中国はリチウムと希土類の両方の市場を支配している。中国または中国の企業は、世界中の主要な鉱物資源を管理している。

 コスト面から中国を重要物資のサプライチェーンのハブにしたのが良かったか?また中国の世界経済への取り込みは同国を穏健化したか?中国は穏健化しなかった。米供給管理協会(ISM)の春季調査では、米国企業の約4分の3が、中国国内のサプライチェーンが途絶したと回答した。

そこで米国政府は経済破壊とコロナで死者が出たことにより米国の生産とサプライチェーンを中国から遠ざけようとしている。商務省その他の機関は企業に調達と製造を中国から移転させる方法を模索し税制優遇と再雇用補助金は変更促進のために検討されている措置の1つである。

 実際、中国の対米輸出は19年に600億ドル落ち込んだが他国向け輸出は約700億ドル増加。日本やオーストラリア、インド、韓国、ベトナムなど友好国の支援でサプライチェーン再構築の必要がある。

 日本は22億ドルを工場のシフト支援に充てているがEUは中国のサプライヤーへの依存を削減する計画を立てている。そのための投資増加はインドにコロナ抑制で打撃を受けた経済を強化し製造セクターを25%成長させる目標達成に役立つ。

 このサプライチェーンの問題は、一帯一路構想にも繋がって行く。アフリカでのコロナの問題は公式統計では5月4日段階で感染者44000名。死者は1701名。殆どのアフリカ諸国は中国の「一帯一路」計画で多額の債務を抱えているが、この計画の本質がアフリカ諸国援助ではなく収奪目的の新植民地主義と批判されている。アンゴラ、ザンビア、スーダン、コンゴが、コロナ対策で借金の清算を中国に要請した。中国は二国間協議を拒否しリスケには応じる方針。各国の対外債務はアンゴラが854億ドル、ケニア89億ドル、ザンビア86億ドル、スーダン65億ドル。二国間交渉では無理だと認識したアフリカ諸国は、IMFに対して1000億ドルの救済パケッジを要請する一方440億ドルの債務借換えを申し出た。中国はアフリカの49ヶ国に合計1430億ドルの債務がある。

 中国はコロナによる世界的経済危機を利用し一帯一路を拡大することに熱心で、この既に約束された数千億ドルの契約では、サプライチェーンが今後数年間に渡り回復に苦労するにつれ中国が拡大する可能性も高い。

 一帯一路ローンではインフラ整備に特定の中国業者を使う必要がある。ファーウエイやCRBC等が含まれ大量の担保を要求し貧困国に「罠」を作り出す。2017年、スリランカは戦略的港を奪われた。このような中国の戦略に対し米国はUSAID等を駆使して、中国の世界覇権から途上国を守ろうとしている。

 米中の何が正義とは少なくとも経済的には言えないのかも知れない。だが一つだけ間違いのないことがある。それは中国の共産主義当局は、中国での流行とウイルスの被害について嘘をついたということである。中国当局は6日間、新型コロナウイルスに直面している可能性を国民に警告しなかった。その時期に、武漢市は数万人のための大規模な宴会を主催し、数百万人が旧正月のために旅行を始めた。中国政府が3週間早く行動した場合、感染者は95%減少した可能性がある。2月中旬に中国でコロナ疾患の人から人への感染が発生したと述べているが、共産主義政権はウイルスが動物から人へのみ感染したと米国と世界に告げた。これが世界的感染拡大の原因であるとトランプ政権コロナ対策本部のファーチ博士は言った。

 その結果、米商務省が発表した、1-3月期の実質GDP(速報値)は前期比年率換算で4.8%減少し実際には1-3月期に1.2%落ち込んだ。だが消費者支出は2月までに1.1%のマイナスだが、1-3月のGDP統計では、消費者支出は7.6%減。これは3月だけで6.7%減少したことを示唆。

 1-3月がどんなに悪くても都市封鎖や事業閉鎖、失業などの影響が反映される4-6月期の方がはるかに厳しくなる。 4-6月のGDPは年率38%のマイナスになると予想。これはGNPとしてデータの集計を行っていた1930年代における過去最大の四半期ベースでの落ち込みに匹敵する。

 実際、労働省は5月14日、先週、298万人以上のアメリカ人が失業を申し立てたと 報じた。コロナウイルスの発生により引き起こされた閉鎖以来2か月の合計損失を3,600万件以上に押し上げた。過去10年間に創出された全雇用は一掃され大恐慌以来この規模の失業は記録されていない。

 ミズーリ州はコロナウイルスで失われた数十億ドルを中国に返済要求する訴訟を起こした。州検事総長シュミットは、中国は発生の詳細を隠し武漢ウイルス学研究所からウイルスを漏洩した可能性がある。中国政府は、危険なウイルスの研究が大災害の元であることを知っていた筈だ。その後、更に8件の同様の訴訟が起こされている。「私たちは命を失う必要も経済を停止させる必要もなかった。これらの過ちのいくつかを正す必要がある」 米国での死亡者は5月中旬には7万人を超えた。

 ピューリサーチセンターが発表した3月実施の調査では、米国民の約3分の2が、中国に対する不利な見方をしている。これはピューが2005年にこの質問をし始めて以来の最高の否定的な評価である。  5月13日に発表されたYouGovの世論調査でも69%は中国がコロナに責任があると考えている。更に67%が中国を競争相手または敵と見なしている。 同時期にFTIコンサルティングが実施した調査によると、アメリカ人の約40%が中国から製品を購入しないと回答。

 このように米国民の対中報復感情は高まるばかりなのだが、トランプ政権は意外に慎重姿勢である。報復案の中には中国製品に追加の関税を課すことや中国の電気通信会社を厳しく取り締まることが含まる。

 実際、5月15日にはファーウエイ社への制裁強化が発表されている。新型コロナは米国で医薬品等のサプライチェーンが中国に依存している不安を引き起こしたが、中国側も同様だった。昨年の半導体輸入額は3000億ドル超。その多くは輸出用の製品に組み込まれファーウェイをめぐる騒動は、中国の輸入半導体への依存が不都合なものであることが明らかにした。

 ファーウェイは貿易摩擦により、米国の技術入手を禁じられ、グーグルのアプリがなくなった今、同社のスマホ市場の位置も揺らいでいる。新型コロナ問題もあり1-3月期はファーウェイのスマホ出荷台数(中国を除く)は35%落ち込み、韓国サムスン電子の倍以上、アップルの4倍の減少幅となっていた。

 そこへ今回は米国以外の国で作られた半導体でも米国製の機械を使って作られた半導体のファーウエイへの輸出を禁止する措置を取られた。 製造業サプライチェーン関連に働く労働者は1億14000万人である。輸出激減により、この部門でも今まで以上の失業がでることは明らかである。

 今年に入ってからも中国国家統計局は2020年第一四半期のGDPをマイナス6・8%としたが、実態はそんな低いはずがない。米中貿易戦争で対米輸出は20%前後のマイナス。対日も16%減、頼みの綱だった欧州向けスマホとパソコンの落ち込みは20%のマイナス。倒産、廃業が46万社。銀行の破綻は遼寧省の錦州銀行(8459億元)、営口沿海銀行(880億元)、吉林銀行(3618億元)、恒豊銀行(1兆4195億元)、河南伊河農村商業銀行(626億元)中国の失業率は一部の中国人の経済学者が二億人と見積もっている。

 中国は次第に、戦争にまで追い込まれて行くのかも知れない。

 しかしトランプ政権関係者は、じわじわと中国を追い詰めて行く方針のようである。例えば5月中旬に元上級顧問のバノン氏は、中国共産党指導者たちの米国における数百億ドルの資産を凍結し、世界的な伝染病の犠牲者を補償することを提案した。トランプ大統領も同時期、米国公務員年金の中国金融市場での運用停止を発表。また中国企業が米国の証券取引所に上場するために米国の会計規則に従うことを要求するかどうか検討していると述べた。それは5月下旬には米国議会の決議によって具体化した。しかし、そのような動きが中国企業を米国以外での上場に連れて行く可能性があるとトランプ氏は懸念も表明。やはり慎重姿勢なのである。

 それは米中の経済が製造業サプライチェーン以外にも複雑に絡み合ってしまっているからである。

 米国はコロナ被害弁済のため1兆1000億ドルの中国が保有する米国債をキャンセルする計画もあるが、そんなことをしたら長期金利上昇で米国の企業等も困る。中国は輸出のため3兆ドルの外貨準備が必要で、その約3分の1は米国債だった。 しかし2013年11月の1.32兆ドルから、2020年2月には1.09兆ドルに下落。米ドル資産自体が、2014年末の中国の総準備高の58%を占め、2005年の79%から減少している。つまり中国としては米国の影響から脱したいのである。

 これは逆に米国が米国債をキャンセルした場合の影響を減らしているとも考えられる。またキャンセルする国債の償還期限を調整する(短期国債を中心にキャンセルし長期国債は温存する)ことで長期金利上昇を抑える方法もある。しかし逆に少なくとも金融上の米国の中国への影響を低下させることにも繋がる。 何れにしても中国の米国経済からの分離=米中対立は時間の問題。中国も最悪は米国債を人民元で売却することを考えているようだ。そんなことをすればドルとのペッグ性のお陰で価値を保持している人民元が崩壊し中国自体が崩壊するかも知れない。サプライチェーンの分断による中国(製造業)経済の困窮もある。

だが一帯一路で中国寄り途上国を人民元と自国中心のサプライチェーンで囲い込むことに成功するかも知れない。それは今後の北京の出方と米国の切断作戦が成功するかによって来る。もし北京の方が成功すれば世界は米中で完全に二分されることになる。 例えばシリコン・チップの世界最大の委託製造業者である台湾のTSMCは、それが米国で重要な技術のアジアへの依存について懸念が成長するにつれて、アリゾナ州でのチップ工場を建設するため12億ドルを投資すると5月中旬に述べた。すると中国の国家支援資金は、アメリカによる前述のファーウエイ社への半導体輸出規制強化とも相まって、22億5000万ドルを自国の会社SMIC社のウェーハ工場に投入し高度なチップ製造を支援。SMICの登録資本金は投資後に35億ドルから65億ドルに増資する。

 つまり半導体製造を巡っての米中による世界分割の始まりである。このトレンドは今後、加速されて行くだろう。
 
 それが最近いわゆるコロナ後の世界の基本的姿かも知れない。


「GII REPORT」より転載
https://ameblo.jp/gii-report

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