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トランプ米大統領が恫喝外交で中露を脅す意味

■トランプ大統領の恫喝

 トランプ米大統領は米中貿易で利益を得ようとしているが、中国共産党の対応が悪く方針を変えたようだ。米中の断交を公言したかと思えば、香港の一国二制度維持・ウイグル人への人権弾圧で中国共産党を批判。

 さらにトランプ大統領は、オープンスカイ(領空開放)条約から脱退する方針を決めた。そして1992年から行われていない核実験実施を協議すると公言。トランプ大統領は矢継ぎ早に中露を脅すことを連発。

■トランプ大統領は損切覚悟

 トランプ大統領は米中貿易協定に関して協議している。この交渉で初期段階は、チベット・ウイグル・香港などの人権問題は後回しにされた。理由は中国共産党が交渉カードに使い、チベット・ウイグル・香港の人権カードをトランプ大統領から放棄するよう仕向けたからだ。

 トランプ大統領はアメリカ第一主義だから、初期段階は人権カードを放棄。これで米中貿易協議を進めていたが、何処かで中国共産党に不信感を持った。そこでトランプ大統領は人権カードを使い、中国共産党に対して米中貿易協議で交渉カードに変えた。

 トランプ大統領は何処かで中国共産党との関係を諦め、これまで築いた米中関係を断交する決意をしている。断交とは損切だから、これまでの時間・金を捨てる行為。同時にトランプ大統領を利用していた中国共産党には悪夢の世界。

 何故ならトランプ大統領と交渉もできないし利用することもできない。そうなれば共産党内のライバル派閥から、習近平主席の指導力不足が批判される。最悪の場合は権力闘争で敗北しかねない。

■ロシアに恫喝外交

 東西冷戦が終わると新たな秩序が生まれた。新たな不安定が生まれないように、当時の米露を含む約30カ国がオープンスカイ条約に加盟。これはお互いに軍事行動の透明性を高め、非武装の偵察機を用いた監視・査察飛行を認めた。

 互いに偵察活動を行い、相手国を攻撃する意思がないことを示す。常に悪意がないことを示すから、理屈では世界平和に繋がる行為になる。そこで北大西洋条約機構(NATO)と旧ワルシャワ条約機構の加盟国が1992年にオープンスカイ条約を締結し、2002年に発効した。しかし現実は時代と共に変化する。

 ロシアは年数経過と共に経済を復活させ、同時に軍事力も復活させている。その結果として、ロシアの覇権拡大がオープンスカイの価値を低下させた。トランプ大統領は、この様に見えていると思われる。むしろロシアは、オープンスカイを悪用して違法な偵察活動をしていると見ているのだ。

 トランプ大統領は5月21日に、オープンスカイから脱退することを決定。翌22日に加盟国に通告すると、6カ月後に正式に脱退となる。これは明らかにロシア向けの恫喝。アメリカ軍は積極的に動く姿勢を見せ、ロシアの覇権拡大に脅しを仕掛けている。

■中露とトランプ大統領の脅し合戦

 トランプ大統領は5月15日に、核実験の再開を協議した。核爆発の実験は1992年から行われていないが、中露が低出力の核実験を行う徴候があるので、アメリカも核実験を行うべきだと考えたのだ。この低出力とは、1キロトンから2キロトンの戦術核だと思われる。

核兵器の区分
戦略核:敵国本土・核基地と市民が目標
戦域核:戦域・軍事基地が目標
戦術核:戦場・軍隊が目標

 核兵器の区分では、低出力の核弾頭は戦術核に区分されている。戦略核は政治家をお互いに攻撃するので削減で合意。これは平和的な考えではなく、政治家が死にたくないから合意した。戦域核は交渉カードで、中距離核戦力全廃条約(INF)のように成立したり放棄したりを繰り返す。

 問題は戦術核。戦術核は通常戦力で戦争に勝てる場合にのみ放棄する。だから中露のようにアメリカ軍と正面から戦争できない国には放棄できない。中露が低出力の核実験を匂わせるのは、アメリカに対して恫喝を行っている証。

 「核爆発を受けた戦場は大規模な破壊・火災と残留放射能による障害地帯になる。この戦場で戦闘を続けるには地形踏破機動力と放射能防護力が不可欠である。それに欠ければ戦術核は使えない」(トルーマン論文/英ブラッセイ年鑑)

 この事実は軍人たちが戦術核兵器を使用する図上演習ですでに常識になっていて、戦場においても対兵力打撃よりも機動障害の構成に活用する案が常識になっていた。戦術核は攻撃火器ではなく防御火器であるという認識である。(松村劭 陸将補)

 低出力の戦術核だとしても、残留放射能やフォールアウト(いわゆる「死の灰」)で、攻撃側も弾着地帯を使えない障害地帯にするから軍事的合理性はない。さらに双方が100発を超える戦術核を撃ち合えば、結果的に戦略核の被害と同じになる。

 核弾道ミサイルは過剰な破壊力を有する攻撃兵器であって、防御の手段・方法がない。冷戦期は核弾道ミサイルを戦略核と戦術核に分離し、戦場で使う運用理論を樹立しようとしたが無理な話であった。

 「戦略核戦争論と戦術核戦争論を分離するのは無理。所詮、核弾道ミサイルは使えない兵器だ」(リデル・ハート)

■脅しの意味

 この様に戦術核すら戦場での使用は不可能。行き着いた先は、政治で脅しに使う恫喝兵器。トランプ大統領は、中露に脅されるなら逆に脅すことで対応している。核実験開始は恫喝外交であり、実験・製造・配備の階段の第一歩。だから核保有国同士で交渉材料にされる。トランプ大統領は強引に交渉材料を作り出した。これは中露を交渉テーブルに着かせることが目的。トランプ大統領の行動は荒く見えるが、これが政治家の姿。

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