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ブーテジェッジは、トランプを倒せるか?

 ブーテジェッジとは誰か? 37歳。インディアナ州サウスベンド市市長。2020年大統領選挙の民主党候補者選びに参加している「無名の新人」の一人だった。

 その彼がCNNやボストン・グローブが11月に発表した世論調査の結果、最初に党員集会と予備選挙の行われるアイオワとニューハンプシャーで、圧倒的に1位の支持を得た。バイデンは4位。ウオーレンとサンダースが、2位と3位。この趨勢は実は5月に行われたReal Clear Politicsの調査以来、繰り返し観察されて来た現象だった。

 しかしバイデン陣営は大きな脅威を感じてはいない。その次に行われるサウスカロライナの予備選挙では、バイデンは例えばCBSの調査で、2位のウオーレンに30%前後の大差を付けている。その理由は、同州の人口の約6割が黒人であり、オバマの後継者と思われているバイデンは、今のところ彼らの46%の支持を得ているからであるという。

 それに対してブティジーグに対する黒人の支持率は24%。白人の支持率は60%。これでは黒人の支持が重要と言われる民主党大統領になるには不利である。

 だがアイオワもニューハンプシャーも白人中心の州なのと、ベテラン政治家への幻滅が、ブーテジェッジの高い支持率の原因だろう。

 だが今までアイオワやニューハンプシャーの予備選で大勝利した無名の新人が、そのまま大統領になる現象は、特に民主党では良く見られた。ケネディ、カーター、クリントン、オバマー皆そう言って良いように思う。

 同じように勢いでブーテジェッジがサウスカロライナの予備選に勝ってしまう可能性もゼロではない。バイデンは穏健派の立場なので、大統領になってもトランプ氏の行っている不法移民強制退去を完全には停止しないと表明している。

 それは2020年はサウスカロライナ以前に予備選挙の行われるネヴァダにおける民主党の大票田である移民の多い外食産業組合を敵に回しかねないものである。しかも同組合は、バイデンの民主党内の宿敵リード元上院議員の強い影響下にある。

 少なくとも今世紀に入ってから、サウスカロライナ以前に予備選の行われた州の全てで敗北した候補者は、サウスカロライナで勝てても大統領候補にはなれなかった。2004年のエドワーズ、2012年のギングリッヂが良い例だろう。逆にアイオワかニューハンプシャーの、どちらかで勝って、サウスカロライナでも勝てれば、大統領になれる可能性は高まる。ブッシュ二世もトランプ氏も同様だった。

 サウスカロライナは確かに全米の縮図で、中堅都市もあれば充実した大学もあり、州民の所得の平均は全米の8割ほどである。それに対してアイオワとニューハンプシャーは人口の少ない貧しい州ではある。そのためかアイオワには宗教保守派が多いと言われている。だがニューハンプシャーは、人口は少なくとも週内の高校生の成績の平均は全米2位である。

 このように米国の地域差を代表するようなアイオワ、ニューハンプシャー、(ネヴァダ)、サウスカロライナの内、サウスカロライナを含む幾つかの州を取ることによって、アメリカという複雑な国を統治できる人物であることを証明できた人が、アメリカ大統領になれる。

 特に今まで大統領になった人は殆どサウスカロライナの予備選で勝っている。全米の縮図であるだけではない。アイオワやニューハンプシャーは、地方の小さな州であるため、その存在を4年に一度は誇示するために、党員集会や予備選挙を全米の他の州に先駆けて行うのである。そのため州民も全米を驚かせるような候補者を選ぶことが多い。先に述べた民主党の大統領達が良い例だろう。ブーテジェッジも、そうかも知れない。

 しかしサウスカロライナは3ないし4番目である。州の規模も大きい。冷静な投票が期待できる。

 そこにバイデンは賭けているようである。特に初戦でブーテジェッジが勝利し、彼以外の若手で黒人の支持を集めている候補者が脱落すれば、その支持は自分に来ると考えている。

 だが先に述べた不法移民問題やワシントン政治のベテランへの反感等を思う時、意外にブーテジェッジがサウスカロライナでも勝利し、民主党の大統領候補になる可能性はあるようにも思われる。

 そもそも何故ブーテジェッジは黒人から忌避されているのか?それはサウスベンドの再開発を巡って市警察の黒人に対する差別的な問題を積極的に解決しようとしなかったことが大きい。だが、それは市の再開発の中で起きた出来事の一つとして、これから説明可能かも知れない。

 再開発自体は、そのために必要な資金を集める債権を起債したりして、上手くやっている。彼は元々マッキンゼーで働いていた金融・経済コンサルタントである。ワシントン政治にも、2004年と2008年の大統領選挙のスタッフとして以外は、あまり深い関係はない。

 そういう意味では不動産ビジネスで財をなし、ワシントン政治には2016年まで関わって来なかったトランプ氏とは似ているのである。

 トランプ氏の当選は、既存のワシントン政治に対する、アメリカの草の根の反感の表れだった。2020年には同じ風が、ブーテジェッジを大統領にするかも知れない。

 だが二人の間には大きな違いがある。一つは年齢。もう一つ。ブーテジェッジは同性愛者なのである。そのことを、むしろ誇示している。

 トランプ政治には「ワシントン既成政治の打破」と、もう一つ重要な柱がある。それはアイデンティティ政治―“白人ピューリタンの共同体としてのアメリカの復活”である。

 聖書を厳格に解釈するピューリタニズムとは、普通はプロテスタントの一種なのだが、アメリカではカトリックの一部もピューリタンの強い影響下にある。バノン氏が代表例だろう。

 私は繰り返し「アメリカでは移民による表面上の若年人口増加のため、若者の政治的ニーズが多様化し、それを二大政党が吸収できず、若者の棄権等が増えている」現象を指摘して来た。それに対してトランプ氏も、バイデンその他の民主党の有力候補者達も、70歳代の白人で、何らかの意味で“ピューリタン”と言えるかも知れない。

 すると、それに対する「逆アイデンティティ」として、若者世代が、ピューリタンが絶対的に嫌う同性愛者であることを誇示しているブーテジェッジの下に糾合するという可能性も、ないわけではないように思う。

 しかし今の米国の若者世代は、ピューリタンとは別の意味で、同性愛に批判的な、カトリック教徒であるヒスパニック系移民が多い。しかも格差拡大等に対する不安からか、カトリックの原点回帰を目指す傾向も見られる。プロテスタント系でもピューリタンより狂信的ともいうべき福音派が増える傾向も見られる。

 「グローバルな金融ビジネス等で自由に生きたい。しかし結果としての格差拡大からは守られたい。」―そのような米国の若者世代のニーズに、金融ビジネスマンで、その才能を生かしてスラム街の再開発に成功したりしたブーテジェッジは、うまく応えられるかも知れない。

 しかし、それは非常に複雑なパズルである。更に前述したような宗教的価値観の問題もある。

 そのためか今のところブーテジェッジは、黒人だけではなく、若者の支持も得ていない。彼の有力な支持者は、むしろトランプやバイデンと同年代の人が多いと言われている。同性愛者にも関わらず熱心に教会に通い、アフガンで海軍軍人として闘った経験のある彼は、理想の孫に見られているようだ。それだけではなく年金制度の充実を主張する「グレー・ニューディール」政策も、高齢者向けの政策である。

 なお彼の都市再開発計画には、待遇を良くすることで優秀な人材を警察や学校教員に集めることも含まれるのだが、なぜかサウスベンドでは今、警察や学校教員の志望者が少なくて困っている。彼には目下の人を引き付ける何かが不足しているのかも知れない。

 そう考えるとブーテジェッジが若者世代の支持を糾合して大統領になるのは、やはり容易いことではない。もし、なれたとする。トランプ氏とは「アイデンティティ政治」以外の点で大きく違う政治を行わないのではないか?

 彼は年金や医療保険その他の国内の格差問題を重視し、アフガンで戦った海軍軍人でもあることから、アフガンその他からの米軍の撤退論者である。そのためにはイスラエルやサウジの力を借りるべきといった「現実主義」の部分までトランプ氏に似ている。対中強攻論者なのは言うまでもない。

 要するに2020年にトランプ氏が再選されても、ブーテジェッジのような人物が当選しても、日本としては今までと同様に米国を頼ることが出来ず、独自の安全保障政策を取る必要に迫られることに大きな違いはないかも知れない。

 そうであれば次第に交渉の仕方が分かって来たトランプ氏の方が望ましいように思う。指導力もある。それだけではない。

 同性愛者であることを誇示するような「逆アイデンティティ」でニーズの複雑な若者の票を集めて出来た政権は、トランプ政権の数千倍も不安定で危険な政権になるように思われてならない。同性愛は直さなければならない病気であるーそういう人知を超えた秩序を否定する過去約20年の米国中心の人類の社会の変化は、その精神を蝕み破壊する極めて危険なものである。

 実はインディアナ州は、同性愛者と健常者を区別する法律を作って、州内が激しく二分されたことがある。二分した過激派の一人がブーテジェッジ氏であり、この法律を作ったのは当時の州知事で今の副大統領ペンス氏だった。

つまりトランプ共和党は、人間の精神と社会を破壊しようとする勢力と戦っているのである。これからも頑張ってもらいたい。

(当記事のサムネイルはWikipediaから引用いたしました)


「GII REPORT」より転載
https://ameblo.jp/gii-report

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