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トランプ大統領弾劾がもたらす政局上の地殻変動

 民主党のナンシー・ペロシ下院議長がトランプ大統領の弾劾に関する調査を開始することを宣言し、米国の政界は大きく揺れている状態となっている。一見してトランプ大統領にとって、かつてない危機が発生したように見えるが、実はこの弾劾騒ぎは同大統領にとってはプラスに働く可能性も十分にある。

 筆者は疑惑内容の信憑性は完全に政局マターとなっているため、それを問うことは取るに足らない議論だと思っている。むしろ、本当に重要なことは「弾劾」がもたらす政局上の地殻変動を見極めていくことだ。

 この弾劾騒ぎで最も大きなダメージを受ける人物は、トランプ大統領ではなく、民主党の本命対抗馬であるバイデン元副大統領である。彼の次男がウクライナのガス会社の取締役を務めていたこと、そして毎月550万円の給与を得ていた事実は、副大統領の子どもとして政治的な地位を利用したビジネスを行っていたことを示唆している。

 当時のウクライナ政権は、親ロシア派のヤヌコビッチ大統領を追い出す政変を起こしたところだった。新政権が米国の後ろ盾を必要としていたことは明らかであり、バイデンの次男はそのための取引材料であった可能性が高い。そして、バイデンが同ガス会社をめぐる不正疑惑の捜査にあたっていた検事総長の辞職を当時のウクライナ政権に要望したことなどは腐臭が漂う話だ。その前検事総長はバイデン次男のからみを否定はしているが、共和党支持者でそれを信じる人はほとんどいないだろうし、圧力や不正が事実でなくても、外形的にはバイデンによる政治腐敗そのものである。

 一方、弾劾によって明確にメリットを得る勢力は実は2つ存在している。

 1つ目はエリザベス・ウォーレンら民主党左派勢力である。バイデンのイメージダウンによって、党内闘争において左派の勢いが増し、民主党の大統領候補予備選挙で常に一歩リードしてきたバイデンを倒せる可能性が出てきた。特に予備選候補者として最も早い段階でトランプ弾劾に言及したウォーレンの立場は一層強くなっていくだろう。

 2つ目は共和党下院勢力である。トランプ弾劾は穏健な有権者には「やりすぎ」の印象を与えることになる。特に2016年にトランプがヒラリーに勝利した選挙区において、下院民主党議員が賛成することは自滅行為になるかもしれない。それにも関わらず、今回の弾劾には接戦選挙区の民主党下院議員が20人ほど賛成しており、共和党対抗馬がそれらの全ての議席をひっくり返すと仮定すると、共和党は下院過半数を奪還することになる。

 一方、トランプ大統領はメリット・デメリットの板挟みとなることだろう。トランプ大統領にとってエリザベス・ウォーレンら左派系候補者はバイデンよりも大統領選挙で戦いやすい相手だ。特に民主党左派系候補者は過激な環境政策であるグリーン・ニューディールに深くコミットしており、2016年に勝敗を分けたラストベルトなどの製造業・エネルギー産業州で総スカンを食らっている。

 デメリットはトランプ弾劾を阻止できる共和党上院議員らに頭が上がらなくなること、そして民主党の協力を必要とする景気対策であるインフラ投資政策の実現が困難になることだろう。その結果として、トランプ大統領の政局上の持ち札の選択余地は狭まることになる。インフラ投資による景気刺激が難しくなることは、米中貿易協議の行方にも一定の影響を与える側面もあるだろう。

 以上のように、突然の内部告発者による弾劾騒ぎは、米国の政局の動きを変える結果をもたらすことになる。しかし、それは必ずしもトランプ大統領に不利になることばかりではなく、むしろ同大統領を追い詰めているはずの民主党側が自らの首を絞めることになりかねない、という奇妙な現象が起きることもあり得る。今後の展開を注意して見守っていきたい。

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