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トランプ大統領の手のひらの上で転がされる米国政局

 米国下院本会議は、7月25日にトランプ大統領が指示する超党派予算・債務上限合意案を可決し、同案は上院に送付されて早々に可決する見通しとなっている。予算は政治そのものであり、この出来事はトランプ大統領の政局運営手腕の辣腕ぶりを示す「取引の芸術」が披露されたものと言える。

 今回下院を通過した予算案は、既存の予算上限を裁量的支出が約3200億円上回るものであり、債務上限引き上げに反対する共和党下院議員らから強烈な反対に直面した。実際、共和党議員197人中132人が反対票を投じており、予算が成立した理由は野党民主党の多くの議員が賛成に回ったからである。トランプ政権の野党との表面的な対立を眺めているだけでは理解できない現象だ。では、なぜこのようなことが可能だったのだろうか。

 トランプ政権の行動目標はそれほど複雑なものではない。その達成すべき目標は「公約」である。トランプ大統領の公約、特に内政に関するものは2種類に分かれている。それは共和党保守派受けする党派的公約と共和党保守派が懐疑的な超党派的公約である。

 米共和党は保守派・主流派の2つの派閥に大別される。保守派はイデオロギー性が強い非妥協的な政策を志向し、主流派は野党民主党とも相容れる幅の広い政策を選択する傾向がある。下院・上院の選出方法の影響を受けて、連邦下院は保守派、連邦上院は主流派の影響力が強くなっている。

 トランプ大統領が大統領に就任した当初、連邦上下両院は共和党が過半数を占有していた。特に下院共和党保守派の力が大きく、トランプ政権は矢継ぎ早に保守派が望む政策を大統領として断行し、更にオバマケアの一部見直しとレーガン政権を超える大減税政策という快挙を実現した。これらは共和党保守派の影響力が強い議会環境の中でしか実現し得ないものだった。政権支持率の浮揚だけを考えた場合、本来は超党派的政策を押しだす形で党派性を薄めた方が良かったが、政局上そのような要素を無視した政権運営がなされていたと言える。

 一方、2018年中間選挙によって、共和党は、上院は数議席増加したものの、下院は過半数割れすることになった。トランプ政権は政権発足以来党派色が強い政策を断行してきていたため、その揺り戻しとして下院過半数を失うことはある程度必然的なことだったように思う。既に中間選挙までに行われた補選の数字が結果を暗示しているほどに酷かったが、トランプ政権は軌道修正を拒否してイデオロギー性の強い政策をごり押ししたのだった。

 中間選挙による議席変動の結果として、共和党保守派の連邦議会における影響力が低下し、棚上げされてきた超党派的政策が実現しやすい環境が整備された。その状況を利用し、今回の予算交渉でトランプ政権は保守派が反対する歳出拡大・債務上限引き下げを伴う予算案をそれに賛成する民主党下院と合意する形で実現することに漕ぎつけた。今後、トランプ政権はインフラ投資や薬価引き下げなどの共和党保守派が好ましいと思っていない民主党寄りの超党派政策を更に前面に打ち出すようになることが予測される。

 実際、トランプ政権が任期中に首尾よく全ての公約を達成しようとした場合、上記のような順番で政策実現を図っていく必要があることは確かなことだった。しかし、それを実際に実現してしまうトランプ政権の政治センスには驚きを禁じ得ない。

 トランプ政権がこれから実現をしていく超党派政策は、下院共和党保守派の強い反発を招く(実際に予算案に多くの共和党下院議員が反対している)ことになり、結果として2020年の連邦議会議員選挙で下院過半数奪還のためのマグマを支持者の間に形成することに繋がる。共和党支持者がトランプ政権を保守的軌道に戻すために、熱心な選挙運動を行うことが目に浮かぶようだ。

 米国の政局展開はトランプ大統領の手のひらの上で遊ばれているかのような状況であり、マッコーネル上院院内総務やペロシ下院議長らも同政権の意向の枠内の行動をしている。一見滅茶苦茶のように見えるが、その実際の結果は妥当なものに落ち着いており、トランプ政権の真の姿が巧みな国内政局運営に現れていると見るべきだろう。

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