ワシントン・タイムズ・ジャパン

予測的中!―米国の対中関税強化政策の影に何があるか?

 米国トランプ政権は5月10日、中国からの2000億ドル分の輸入品に従来の10%を上回る25%の関税を掛け世界に衝撃を与えた。しかし、それは拙著『救世主トランプー“世界の終末”は来るか?』(近代消防社)の中で予測した通りだった。その問題に関して詳述し今後に関して考えて見たい。

 確かにFOXが5月11日に配信した“For Trump, the China trade war began long ago □ and this is a war he’s determined not to lose”によれば、アメリカの対中貿易赤字は、WTOに中国が加盟した2001年には1180億ドルだったのが2018年には4190億ドル。しかしカナダの年間アメリカからの輸入額は2980億ドルなのに対し中国は1200億ドル。中国はカナダの30倍の人口であるにも関わらず…。これは中国が国内での米国企業の活動に制限を設けているためである。これが“不公正”なことは言うまでもない。

 しかしNYTが5月9日に配信した“What Happens if Trade Talks With China Fall Apart”によれば、その結果として米中のGDPは世界の40%を占める極めて相互依存性の高いものになってしまっている。そのためトランプ政権の昨年来の10%関税のお陰で、アメリカの消費者は数十億ドルの損失を被り、また中国の報復関税のため米国の農民は10億ドルの損失を被ったと言う。

 だが同記事によれば、アメリカのGDPが受けたマイナスは0.6%。それに対して中国は1.5%。

 その理由はCNNが5月11日に配信した“Trump just raised tariffs on Chinese goods.”によれば、少なくとも今まで高い関税を米国が課してきた中国からの輸入品は、アメリカの一般消費者の生活を直撃しないものが少なくなかったからだと言う。また対中関税の結果として米国企業が中国に展開した生産拠点を部分的にでも撤収したこともある。但し今となっては中国より労働賃金の安い他のアジア諸国等に移動したケースが多く、アメリカの製造業は利潤を増やしたものの、それと同じだけ国内雇用が増えたわけではない。もちろん米国内の消費者への影響も今後の制裁関税強化次第によっては、さらに大きくなることが予想される。

 これはトランプ氏の再選には非常に不利なことの筈である。そのためか米中協議はギリギリまで続けられ妥結の手前まで行ったのである。

 その理由はTIMEが5月9日に配信した“Trump’s China Tariff Threat Could Be His Riskiest Trade Move Yet”によれば、中国の知的財産権保護に関する約束を米国が信用できなかったからであると言う。同記事は“トランプ氏は自らの強力な支持者である貧しい白人労働者を苦しめて、2016年の選挙から敵対していたハイテク企業の味方をしている”と皮肉を書いている。しかし同記事によれば、アメリカが中国の知的財産権問題に関し警戒的なのは、中国の国家諜報法によれば中国の企業や個人は、テクノロジー問題等に関して国と協力する義務があることにあると言う。

 NYT前掲記事でも米中交渉決裂の原因の一つとして知的財産権保護を挙げている。しかし同時に中国国内の産業助成金の問題に関しても折り合いが付かなかったことが大きかったと言う。中国側は両方とも地方政府の問題でもあるので中央政府だけでは解決できないと主張しているらしい。そのようなことを社会主義独裁国家が主張するのはおかしいと私見では思う。

 何れにしても知的財産権問題と産業補助金問題―特に産業補助金問題はファーウエイ社を中心とした中国の5G通信システムによる世界支配の要であり、この問題で米中経済交渉は折り合いが付かず、アメリカの対中関税は上げられるだろうと言う拙著『救世主トランプ』での予測は的中したと言って良いだろう。

 実際、ヘリテージ財団が5月9日に配信した“Pompeo Sends the Message Britain Needs to Hear”は米国が対中関税を増加させる前日の5月9日、英国のロンドンでポンペオ国務長官は、イギリスがファーウエイ社の5G通信システムを部分的にでも受け入れる方針であることに批判的な講演を行なっている。

 またWSJが5月10日に配信した“Can This Marriage Be Saved? Chinese-U.S. Integration Frays”でも、ファーウエイ社の機器が国家安全保障上の理由から、アメリカ国内で販売が禁止されたことに言及している。しかし同時に同記事は、5G通信システムに関しては今となっては機器よりもソフトウエアの方が重要であり、その部分でファーウエイ社は米国の企業より優れているため、それを使わないと米国も大きな損害を受けると言う。私見だが中国企業が米国より優れた技術を持っているとしたら、それは知的財産権窃盗と産業補助金のお陰以外の何者でもないと思う。

 そこで今後の展開としては単なる関税強化や製品使用禁止から、投資や人的交流制限の方向に米国は向かって行くようだ。

 米国への外国からの投資が国家安全保障上のリスクでないかを調査する外国投資委員会の権限拡大等により、2017年には290億ドルあった中国から米国への投資が、2018年には50億ドルにまで下がっていると言う。また理系の留学生の3分の1、専門職ビザ取得者の約1割が中国人だったが、これも4月にFBIのレイ長官が“技術窃盗作戦の一部”と指摘し、そのためか今年は多い大学では中国人留学生の受け入れが半減したと言う。

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(引用元: https://jp.wsj.com/articles/SB10775350202431004070704585293861625403450?reflink=NLhtml_20190511 )

 ここに今後の米中交渉の展望を見ることができると思う。トランプ氏としては来年の再選を控えて米国経済や彼の強い支持者(貧しい白人労働者)の雇用に悪影響を与える政策は実は避けたい。しかし米国の国家安全保障や世界覇権は守りたい。

 それくらい日本以外の国々は、国家安全保障や世界覇権に関し、厳しい考え方をしているのである。この約70年の日本が、いわゆる“平和ボケ”していただけなのである。経済が繁栄すれば、それで良いのか?

 だがトランプ政権も前述のように、景気や雇用を重視せざるを得ない。“投票による民主制”という制度がある限り来年の大統領選挙での優位性を考慮せざるを得ない。(こう考えると“投票による民主制”が果たして良い政治制度であるかにも、私は大きな疑問があるのだが…)

 そう考えると習近平との会談で(実務者協議で事実上は決まっていた)大豆その他の商品の米国からの輸入を中国が増やす代わりに関税は少なくとも25%よりは下げる。私見だが今までの10%より下げることはないと思う。知的財産権や産業補助金の問題があるからである。

 例えばWSJが5月10日に配信した“More Tariffs Are Exactly What China Inc. Doesn’t Need”によれば、アメリカの制裁関税で困窮しているのは中国経済の要と言うべき中小企業であり、そのため彼らは株式を担保に事業性資金を中国の銀行から借りていて、その中国の銀行も、“シャドー・バンキング”の関係で貸し渋りの状態になっていると言う。2019年に入ってから、それら中小企業は中国政府から命令を受けた中国の大手銀行から約2割増しの融資を受けたものの、それらは輸出で利益を得るのが難しいため不動産投資―つまり“シャドー・バンキング”にマネーが回っているだけであるという。このままでは中国経済も非常に危険な状況になる可能性がある。

このような状況を克服するには中国の中小企業が米国への輸出で儲けられる状況に戻すしかない。しかし、その為にはトランプ政権が、関税面で中国との交渉で妥協するしかない。そのような妥協を中国が米国から引き出すことが可能だろうか?

 可能かも知れない。前述のようにトランプ氏は来年の再選に向けて中国との関税対立を緩和する必要があるからである。

 だが、そのような関税面での妥協を行う代わりに、カネやヒトの交流を今まで以上に制限して、中国による技術窃盗を防ぐ。そして独自開発した5G通信に関するソフトウエア等で、中国との世界覇権を争う。

 現時点ではトランプ政権は、そのような方向に動く可能性があるように思う。いわば技術面での第二冷戦の始まりと言えるだろう。

 もっと奥深い問題も考えられる。上記のようなカネとヒトの交流制限は、米中が協力した場合よりも、人工知能その他の科学の発達を遅らせると言う。では科学の発達が良いことだろうか?今の世界的格差社会とは、科学の発達のために、それを使いこなすことが出来るエリートだけが良くなり、そうではない人々が額に汗して働く従来産業の職場が、人工知能等に奪われたためではないか?

 この流れを止めることは確かに出来ないだろう。しかし遅らせれば、その間に従来産業で働く人々が年金生活に入れるくらいまでは、そこで働く人々の雇用を守れるかも知れない。

 そのような深い思索がトランプ氏個人にあるかは疑問かも知れないが、トランプ政権は、そのような歴史的使命を帯びた政権なのではないか?そのように私には思えてならない。


「GII REPORT」より転載
https://ameblo.jp/gii-report

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