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トランプ大統領が「政府閉鎖で勝利した」と言える3つの理由

 トランプ米大統領が国境の壁に関する予算計上の確証なく政府閉鎖を解除する繋ぎ予算に同意したことで、メディア各社は「トランプ大統領敗北、民主党ペロシ勝利」と報道している。しかし、これは非常に短絡的なモノの見方であると言えるだろう。

 トランプ大統領にとって最も優先すべき事項は、2020年の大統領選挙で再選することだ。もちろん公約の達成なども重要なことであるものの、政治家の本能とは常に自身の政治生命を保つために全力を注ぐものと考えるべきだろう。トランプ大統領は2019年1月を通して米国の政治シーンを覆いつくした政府閉鎖によって、2020年大統領選挙に向けた前哨戦を制したと言える。以下、その理由を3つのポイントから解説しよう。

 第1の理由は、下院多数を占めた民主党によるアジェンダ設定を未然に防いだことだろう。中間選挙で下院多数を取り戻した民主党にとっては新議会が発足する新年最初の1カ月間は有権者とのハネムーン期間と言える。民主党支持者もメディアも同党がセッティングする政策アジェンダに注目し、それらを踏まえた議会運営やメディア報道が行われるはずだった。しかし、トランプ大統領の演出によって、最も重要であった月が同大統領のテレビショーに変質し、民主党は大統領が設定したアジェンダに頑強に反対する役を担わされた。民主党は自分たちが主役となるところを大統領と民主党という相対的なアクターの1人に矮小化されてしまったのだ。

 このようなメディアジャック手法はトランプ大統領にとってはお得意の手法であるため、民主党は自らの政策的な見せ場を潰されてしまったと言える。そして、トランプ大統領との泥仕合に巻き込まれたことで、大統領と議会民主党の支持率は両方とも低下することになった。まさにトランプ大統領の“肉を切らせて骨を断つ”戦略だったと言える。

 第2の理由は、トランプ大統領が共和党内での予備選挙に対する予防線として党内保守派からの強固な支持を得たことである。トランプ大統領は現職の大統領であるものの、党内基盤は非常に脆弱である。そのため、自らに反抗的な党内主流派(ケーシック元オハイオ州知事やロムニー上院議員など)からの大統領選挙予備選挙への挑戦に対抗するため、自らを支持する勢力である共和党保守派からの支持を常に必要としている。そこで、身内であるはずの保守派から予備選挙の対抗馬が立つことは絶対に防がねばならない。

 2月末から3月頭にかけて共和党保守派の年次総会であるCPAC(保守政治活動協議会)が開催される予定であり、その場で共和党保守派の自らへの忠誠を勝ち取るためにはこのタイミングで自分以上に保守派の意見を代弁する存在はいないことをPRする必要がある。トランプ大統領の強固な壁へのこだわりはそれらが背景にあると思うべきだろう。実際、メディアが政府閉鎖の影響による大統領支持率低下を喧伝する中、党内保守派からのトランプ大統領への支持は厚いままであった。

 第3の理由は、南部のヒスパニック票の確保である。近年、共和党は地盤であるはずの南部諸州において民主党に対して苦戦を強いられるようになってきている。特に流入が続くメキシコ、プエルトリコ系のヒスパニックは頑強な民主党の支持基盤として機能しており問題だ。そのため、共和党としては従来から一定の支持があるキューバ系のヒスパニック以外に、それらの層からの支持を新たに確保する必要性に迫られている。トランプ大統領は1月に南部国境エリアを視察した際に、ヒスパニック系の牧師に面会して、国境の壁建設に向けて支持を取り付けている。

 既に米国に合法的に入国したヒスパニックの中には後から不法に流入してくるヒスパニックに対する一定の反感が存在している。今回の問題を利用して同層からの支持獲得のための働きかけを行う意図が見え見えであった。そして、トランプ大統領が提示したDACA(若年移民に対する国外強制退去の延長措置)等に関しても、民主党が受け入れても受け入れなくても、それらの層に対しては一定のアピールになるものだ。それらの措置は保守派からの反発のリスクがある決断であったが、同妥協案発表前に壁建設の必要性を繰り返したこと、民主党が妥協案を拒否したこともあり、トランプ大統領にとってはマイナスよりもプラスに働いた状況となっている。

 現在、共和党・民主党の17人の議員が妥協案に向けて作業を行っているが、最終的には何らかの妥協的な措置が取られていくことになり、彼らによって作成される予算の文言次第では、トランプ大統領も政治的な勝利を宣言できるものになる可能性が高い。しかし、それ以前の話としてトランプ大統領にとっては上記3つの理由から既に目的が達成された話であるとみなすことが妥当であろう。

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