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    米コラムニスト

    貿易戦争は戦略的ツール

    米中新冷戦 第3部 識者インタビュー (15)

    米戦略予算評価センター上級研究員 トシ・ヨシハラ氏(上)

    米国の対中政策は、トランプ政権下でどう変化したか。

    トシ・ヨシハラ氏

     トシ・ヨシハラ氏 米海軍大学教授・アジア太平洋研究部長などを経て、現在、米シンクタンク、戦略予算評価センター(CSBA)上級研究員。中国海洋戦略研究の第一人者で、共著に『太平洋の赤い星』などがある。

     対中政策の基本的な前提が劇的に変わった。ニクソン政権以来、対中政策の土台になってきたのは、中国に関与すれば、中国の行動を変えられる、さらには政治の自由化など内部変革をもたらせられるという前提だった。だが、トランプ政権は全く異なる前提を持ち込んだ。関与政策は失敗したという前提だ。

     関与は中国の行動に劇的な変化も内部変革ももたらさなかった。実際は全く逆だった。習近平国家主席の下で監視国家化や権力集中が進み、一段と独裁主義的になっている。関与は望んでいた結果をもたらすどころか、獣に餌を与えただけだった。中国が野望を果たすために必要なものを与えただけだった。

     だから、トランプ政権は異なるアプローチが必要との考えに至った。これがトランプ政権の対中政策を理解する出発点だ。

    歴代米政権が堅持してきた対中政策の前提を、トランプ政権はなぜ否定できたのか。

     オバマ前政権でも変化が起きていた。オバマ政権は当初、中国の核心的利益を侵さないことを再保証すれば、それに報いるだろうという極めて楽観的な戦略を持っていた。だが、中国は南シナ海で人工島を建設するなどオバマ大統領に恥をかかせる行動を取り、米国内で中国に対する幻滅が広がった。トランプ政権が対中政策の前提を変えたのは、前政権から続く変化の帰結だ。

    トランプ政権が貿易問題に焦点を当てるのは、経済を中国との競争の中核と捉えているからか。

     その通りだ。米中間の長期的な平時の競争は、経済がその中心だ。

     経済力がなければ、ハードパワー、軍事力の競争に必要な資金や物資は得られない。米国の経済的立場を強化することが、中国と効果的に競争する立場に立つ道だとの認識がトランプ政権にはある。

     中国側から見ても、長期的な経済成長がなければ、「中国の夢」は実現できない。中国が地域を支配するパワー、強大な軍事的パワーになるには、経済力が欠かせない。経済こそが競争の礎なのだ。トランプ政権はこれを理解している。

     貿易戦争では、貿易赤字の削減や中国に知的財産権侵害などを止(や)めさせることが議論の中心になっているが、根底にある狙いは、中国からパワーの礎を奪うことだ。つまり、貿易戦争は中国の勢いを鈍らせ、中国の競争力を削(そ)ぐことを狙った試みなのだ。

     従って、貿易戦争は米中の長期的な競争の観点から考える必要がある。現在起きているのは、米中関係の「デカップリング(切り離し)」だが、これは一夜にして起きるものではない。数年かかるだろう。今の流れが続くとすれば、米中のデカップリングは複数の政権にまたがる可能性が高い。

    中国は米国との貿易で得た巨額の富を、軍拡や中国主導の経済圏構想「一帯一路」、海外でのプロパガンダ工作などの原資にしている。

     そうだ。貿易戦争は、中国がこれらの活動を進めるのを可能にする資金源を縮小する戦略的ツールとみなければならない。

    カギ握るイデオロギー戦

    トランプ大統領は、中国をめぐる米国内の議論をどう変えたか。

     トランプ氏の時代になってから、2年前までは考えられなかった言葉や概念が使われるようになった。われわれは今、貿易戦争や冷戦という言葉を遠慮なく使っているが、2年前はタブーだったものだ。

     トランプ氏の大きな貢献の一つは、一般通念や現状を打ち破り、議論や政策に新たな領域を切り開いたことだ。これにより、政策立案者たちは、中国にどう対応すべきか、議論をリセットし、新たな議論を始められるようになった。

    民主党のヒラリー・クリントン氏が大統領になっていたら、これまでの対中政策を打破できただろうか。

     クリントン氏のような従来の考え方を持つ人物が、ガラスを打ち破れるかどうかは分からない。最終的にはやるかもしれない。だが、議論のスピードやペースは違っていただろう。

     重要なのはタイミングだ。中国の台頭、習氏の野心を考えると、われわれには時間の余裕がない。多くの決断を早急に下さなければならない。その中で、トランプ氏が中国をめぐる議論の方向性や焦点を劇的に転換したことは、米国の政策コミュニティーに与えてくれた贈り物といえる。

    マイク・ペンス副大統領が昨年10月にハドソン研究所で行った対中政策演説をどう見る。

     過去と決別した歴史的文書、画期的スピーチとして記録されるだろう。

     ペンス氏は演説で、中国を「中国共産党」「共産党」「党」などと表現したが、これは偶然ではない。中国との競争は中国共産党、独裁体制との競争であることを意図的に強調したのだ。ペンス氏は多くのテーマで、共産党、独裁体制の問題点を指摘した。

     中国との長期的な競争で本当に重要になるのは、イデオロギーだ。軍事や経済だけではない。

     ウイグル族の抑圧に関して、米国は新疆ウイグル自治区の党幹部や監視システムに関わるハイテク企業に対する制裁を模索している。また、ポンペオ国務長官は昨年6月、中国共産党は天安門事件の詳細を公表しなければならないと主張した。国務長官がこのようなことを述べるのは異例だ。さらに、台湾の蔡英文総統が昨年夏、米国を経由した際、レーガン大統領図書館に立ち寄り、ベルリンの壁の前で語った。

     これらはすべて中国を狙ったイデオロギーのミサイルだ。われわれは中国と包括的な競争を繰り広げているが、イデオロギーが重要な要素となるだろう。

    (聞き手=編集委員・早川俊行)

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