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共産党の本質見誤った米

米中新冷戦 第3部 識者インタビュー (14)

元ロサンゼルス・タイムズ紙北京支局長 ジェームズ・マン氏

 「新冷戦」の様相を呈する米中対立をどう見るか。識者に聞いた。
 (聞き手=編集委員・早川俊行)

ジェームズ・マン氏

 ジェームズ・マン氏 米紙ロサンゼルス・タイムズの記者を20年以上務める。同紙北京支局長を務めた経験から、米中関係の著作が3冊ある。2007年に出版した『ザ・チャイナ・ファンタジー』(邦題『危険な幻想』)は、米エリート層の誤った中国観を痛烈に批判し、注目を集めた。

2007年の著書『ザ・チャイナ・ファンタジー』で、米国は中国が経済発展すれば、政治も自由化していくという「幻想」にとらわれていると指摘したが、米国はようやく幻想から覚めたのか。

 そう思う。この2、3年で貿易や投資、経済的繁栄が中国を政治の自由化に導くという「中国幻想」は、誤りだったとの認識が広がっている。対中政策の要となってきた前提が崩れ始めた。特に、習近平氏が国家主席の任期を撤廃したことは、中国幻想の完全な否定をもたらした。習氏が生涯、主席の座にとどまることが可能になったことで、中国が自由な政治システムに向かっていないことがはっきりしたからだ。

 対中観の変化は、民主、共和両党で見られる。民主党側では第1級のアジア専門家であるカート・キャンベル、イーライ・ラトナー両氏がフォーリン・アフェアーズ誌に中国幻想を明確に否定する論文を書いた。共和党側ではトランプ政権の国家安全保障戦略、国家防衛戦略、そしてペンス副大統領の演説という三つの動きがそうだ。

何が米国を幻想から目覚めさせたのか。

 1971年以降、米国の対中政策を動かしてきた要素は二つある。安全保障と経済だ。70~80年代の20年間は、ソ連に対する戦略的な懸念、その後の20年間は、ビジネス界が求める中国との貿易・投資拡大という経済的要素が対中政策を支配した。米国の対中政策が変わったのは、この二つの要素が変化したからだ。

 まず、国防総省・米軍が南シナ海や台湾をめぐる中国の行動に対し、はるかに懐疑的で強硬な見方をするようになった。次に、ビジネス界も態度を変えた。対中関与政策を擁護してきたのは主にビジネス界だっただけに、その影響は極めて大きい。

米国のビジネス界や元政府高官、大手企業から資金提供を受けるシンクタンクが対中関与政策を支持する構造に変化はあるか。

 崩れ始めている。1990~2000年代に対中政策に影響を与えていた人たちの影響力はもはやない。ビジネス界の古いネットワークもかつてのようには機能していない。そのネットワークの一人だったヘンリー・ポールソン氏(元ゴールドマン・サックス会長、元財務長官)も中国を慎重に批判する演説を行い、注目を浴びた。中国は20年前のような無条件の支援を得られなくなった。

関与政策はなぜ中国に民主化をもたらさなかったのか。

 中国は、いかなる形でも権力を放棄することに断固反対する共産党が運営する独裁国家だからだ。

 カーター政権時代、国家安全保障会議の高官として米中国交正常化に関わった著名な中国専門家のマイケル・オクセンバーグ氏は、中国共産党はいずれ、民主的な制度の下で常に選挙に勝つ日本の自民党のような存在になると予想したが、完全な誤りだった。絶対に権力を共有させない中国共産党の権力欲を過小評価していたのだ。

時間要する米の新政策

米国はようやく対中政策を転換したが、強大化した中国に対してまだ間に合うか。

 米国が先端技術を守ることに関しては、遅すぎるとは思わない。だが、米国の労働者にとっては遅すぎた。2000年代からの短期間に工場の閉鎖が猛スピードで進み、多くの人が職を失った。これらの労働者は別の仕事を見つけられるとの議論があったが、実際はそうならなかった。

 民主党のキャンベル、ラトナー両氏が論文を書いた時、私はもっと早くその結論に達すれば良かったと主張した。なぜなら、多くの職が中国に奪われたことは政治に甚大な影響をもたらし、トランプ大統領が当選する一因になったからだ。民主党が今、対中政策の前提は誤りだったと主張するのは皮肉だ。彼らがもっと早くそう判断していれば、2016年大統領選は勝っていたかもしれない。

米国の新たな対中政策はどうなる。

 現時点では、貿易分野での徹底的な対立が政策になっているが、これは包括的な政策ではない。新たな政策をどうするか模索している段階であり、今後数年かかるかもしれない。その間、習近平体制がどう対応するかが米国の政策を左右するだろう。

トランプ政権の対応をどう評価する。

 中国に対する貿易政策は正しい方向性だ。これまでの軟弱な、成り行きを待つだけのアプローチを捨て、大きな変化を求めて交渉していることは正しい。

 だが、私は基本的にトランプ氏をネガティブに見ている。トランプ氏に民主主義や法の支配に対して強い忠誠心があるようには思えない。私が懸念するのは、トランプ氏が最終的に習氏との間で必ずしも好ましくはない取引をしてしまうことだ。トランプ・ファミリーのビジネス上の利益が対中政策に影響を及ぼすことを非常に憂慮している。

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