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貿易戦争の「本丸」、中国パワーの源泉叩く

米中新冷戦 第1部「幻想」から覚めた米国 (3)

 冷戦時代、米ソの核戦争を抑止したのは「相互確証破壊」だった。核攻撃を行えば報復核攻撃を受けて相互に破滅するという「恐怖の均衡」が両国の行動に歯止めを掛けた。

李克強首相(左)とペンス米副大統領

すれ違う中国の李克強首相(左)とペンス米副大統領 2018年11月15日、シンガポール(EPA時事)

 これに対し、米中には「経済版相互確証破壊」が存在すると言われていた。経済的な相互依存関係が深化した結果、関税の大幅引き上げなどの措置を取れば、報復を招いて両国の経済は大打撃を被る。だから、貿易戦争など論外、というのが米国内で対中政策を支配していた「常識」だった。

 だが、こうした概念は、常識にとらわれないトランプ大統領には無関係だった。むしろ、深まった経済関係を逆に中国に圧力を掛けるカードにしているのがトランプ氏だ。逆転の発想である。

 米中は貿易戦争を一時休戦して協議を再開させているが、米国の対中巨額貿易赤字が縮小すれば、収束していくという単純な構図ではない。中国製品に関税を課した狙いが「貿易赤字の削減ではなく、中国による技術の窃取と移転強要に対抗すること」(マーティン・フェルドシュタイン・ハーバード大教授)にあるからだ。

 ペンス副大統領は昨年10月の対中政策演説で、中国は15年に策定した産業政策「中国製造2025」を通じ、「世界の最先端産業の90%を支配することを目指している」と指摘。その目標を達成するために「あらゆる必要な手段」を用いて米国から知的財産を奪っていると非難した。

 トランプ政権が中国に国家主導の産業政策と知的財産権侵害の是正を強く迫るのは、その背後にある中国製造2025に基づき世界のハイテク産業を支配する野望を封印することを視野に入れているためだ。

 貿易戦争の狙いは、それだけにとどまらない。中国との長期的な覇権争いに勝つために、トランプ政権が打った「勝負の一手」と見る必要がある。

 トシ・ヨシハラ米戦略予算評価センター上級研究員は、こう指摘する。

 「経済力がなければ、『中国の夢』は実現できない。支配的な軍事パワーにもなれない。経済こそが競争の礎なのだ。トランプ政権はこれを理解している。貿易戦争を仕掛けた根底にある狙いは、中国からパワーの礎を奪うことだ」

 中国は軍事力の近代化や中国主導の経済圏構想「一帯一路」などを精力的に推し進めることで米国の覇権に挑戦しているが、これらのプロジェクトの資金源を縮小することが、トランプ政権が貿易戦争を仕掛ける本当の狙いだというのだ。

 元海上自衛隊自衛艦隊司令官の香田洋二氏は、もっと露骨な表現で貿易戦争の意図を解説する。

 「米国は太平洋戦争で日本に対してやったように、中国を経済的に破綻させようとしている」

 トランプ政権は国家安全保障戦略で「大国間競争」が再び幕を開けたとの認識を示したが、米国の著名な国際政治学者ウォルター・ラッセル・ミード氏によると、大国間競争では経済的利益より地政学的目標が優先されるという。競争が国際秩序を規定する地政学の時代に戻ったことを踏まえれば、貿易戦争が経済に悪影響を与えたとしても、トランプ政権は安易に「妥協しない」(香田氏)と見るべきだろう。

(編集委員・早川俊行)

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