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政局情勢から見たシリア・アフガニスタンからの米軍撤退の意味

 トランプ大統領が2018年末に公表したシリア・アフガニスタンからの米軍撤退開始、そしてそれに伴う形で発表されたマティス国防長官辞任は世界に驚きを持って迎えられた。しかし、2020年大統領選挙を見据えた場合、この決断には一定の合理性が存在している。

 トランプ政権は中間選挙の下院敗北を受けて、政権運営の正統性にやや疑問が生じるようになってきている。トランプ大統領が自らへの支持を再度固めるために「選挙公約」に依拠した政権運営を行い始めることは理にかなった行為と言える。国境の壁閉鎖をめぐる政府閉鎖(シャットダウン)問題の発生もその一環と看做すべきだ。

 また、共和党内の支持基盤である対外政策への関心の推移という意味でも今回の判断は妥当なタイミングを捉えている。トランプ政権が発足した直後はまだISがシリアでも一定の勢力を有しており、米国民の安全保障上の関心も中東地域に集中していた。しかし、政権発足後2年経過し、ISの勢力は著しく衰退している上に、中国との貿易戦争が激化したことで安全保障上の関心も中東地域から東アジアなどに逸れつつある。

 トランプ政権を支えるキリスト教の「福音派」が主導する共和党保守派の中東地域に対する関心は非常に強い。しかし、2017年末に公表されたNSS(国家安全戦略)が示したように、主要な敵を中国・ロシアに重点をシフトする準備が始まり、その世論醸成が進んだことから、共和党内からも今回の決断を支持する声が一定層存在する状況に変化している。トランプ大統領が撤退のための機が熟したと判断してもおかしくはない。

 マティス国防長官のように中東への米軍の駐留の重要性を指摘する勢力は、同地域の秩序、そして対テロ対策を重視しているのだろう。トランプ大統領もイラクからの撤退は明言していないので、このことについては十分に認識しているものと思う。

 しかし、中国・ロシアを相手に安全保障上の得点を稼いでいくためには、シリアやアフガニスタンに米軍がコストを割くことはやや疑問が残る。

 仮に、これらの地域から米軍が撤退した場合、シリアではトルコ・ロシア・イランが影響力争いを行う状態に戻り、アフガニスタンでのイスラム勢力の台頭はロシアや中国の内陸方面への資源投入を要求する事態を引き起こす。したがって、最重要戦略目標が中露であるなら、同地域でライバルにリソースを使わせて、他地域(東欧・東アジアなど)での政治闘争を有利に進める方が良いだろう。また、ポンペオ国務長官がイラン・北朝鮮相手に外交政策を進めているが、トランプ政権における国務省の位置づけは低いので、いまや全ての狙いが中露に集約されつつあると思っても良いかもしれない。

 ただし、マティス国防長官・ケリー首席補佐官の軍人コンビが辞任したことで、大統領選挙時の退役軍人票の動向に悪影響が出ることが予想される。トランプ大統領の選挙戦略にとってはリスクがかなり大きい。トランプ大統領が尊敬される軍人であった両人を蔑ろにしたように見えることは決して好ましい事とは言えないだろう。

 後任の国防長官はボーイング出身の人物であるが、同盟国が重要となる対中露戦略では武器売却などの案件に資する人事であり、なおかつ宇宙軍創設に向けて政策面の整合性はある。しかし、それらがもたらす成果が大統領選挙の得票に繋がるかは未知である。

 また、2019年から実質的に開始される共和党大統領予備選挙では、共和党内の立候補者から今回のトランプ大統領の判断に対する厳しい批判が飛ぶことは明らかだ。党内タカ派はトランプ大統領をオバマと同列視して、自らの政治的点数を稼ごうとするのは目に見えている。それらをどのように封じ込めるのかも注目すべきポイントであり、今後半年程度の間にトランプ大統領が自らの決断を有権者に納得させることができるかどうかは見物だ。

 トランプ大統領は予備選挙の過程を経て、中長期的には党内対抗勢力の突き上げを受けて政治的な軌道修正を幾らか迫られることになり、最終的には超党派的姿勢を様々な形で取るように変化していくことになるだろう。ただし、当面はトランプ大統領にとっては「選挙公約」にこだわる姿勢を示すことは大事だ。2020年大統領選のための公約が確定するまで、党内予備選挙で勝ち抜く正統性を得る必要があるからだ。

 トランプ大統領は難しい政権運営のかじ取りを迫られており、2019年も様々なニュースを提供して世界を飽きさせることがないことは確かだ。

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