バノン派の逆襲は、あるか?ー中間選挙、カトリック改革、アフガン民間軍事会社派遣
バノン派の逆襲が始まった。
The Hillが9月13日に配信した“Bannon says right must support ‘RINOs’”によれば、バノン氏と共和党主流派との関係は改善しつつあるようだ。彼は共和党主流派系の中道穏健派候補で選挙区の関係者からも“名ばかり共和党員”と揶揄されるような候補者のためでも、いまは必死に選挙応援を行っている。それは下院で共和党が過半数を割ることで、トランプ大統領が弾劾され、トランプ氏の改革政治が中断しないようにするためだという。彼は、そのために“Citizens of the American Republic”という団体を立ち上げ、その有力関係者25人が既に、“臨戦態勢”に入っているという。
バノン氏はトランプ大統領本人とはもう接触していないと言い張っている。しかし、少なくともトランプ氏周辺の人々とは接触している可能性は高い。そして彼に未だ反感を持つ人々は、彼の今の活動はトランプ大統領周辺への復帰が目的ではないかと考えている。だが、彼は今だに「自分は共和党主流派は嫌いだ!」と公言している。
しかし、彼が穏健派の候補者の選挙応援にまで積極的になっていることで、共和党主流派も彼との関係は良い方向で見直しつつあるようだ。それはバノン氏が予測した“共和党50議席敗退”が現実味を帯びて来たこと。また例のウッドワード本(『恐怖』)の中で、ティラーソン、コーン、マティスといった人々が、政権内部でトランプ氏の政治を妨害していたような記述があることも、バノン氏の“忠臣”としての印象を回復させたようだ。
これは私見だが『炎と怒り』という本の中での発言を巡って、バノン氏が一旦は全てをトランプ氏と周辺から取り上げられたこと自体が、このような流れを作るための大芝居だった可能性さえあるように思う。それ以前にバノン氏の応援で共和党の予備選挙に勝ったトランプ氏とイメージの近い候補者が補欠選挙本番で敗北する現象が相次いではいた。中には共和党主流派の選挙妨害で落選したとも理解できる状況の場合もあった。補欠選挙や中間選挙等では穏健派で共和党主流派に近い候補者の方が当選しやすいらしい。そう悟ったトランプ氏が、バノン氏を地下に潜らせたのではないか?
実際、バノン氏はトランプ氏の業績を讃え反対派の偽善を暴く映画を製作したが、その費用約200万ドルは“1対の大きいdonors”から出たと彼は主張している。その映画を彼は11月6日の中間選挙投票日までに重要選挙区で上映会を連続開催する予定である。
彼によれば2016年の大統領選挙はヒラリー陣営の敵失に付け込んだので勝てた。今その戦略がない。それを何とかしたいというのが彼の考えのようだ。
これはシーザーと一旦は距離を置いたが、シーザー暗殺後に素晴らしい演説でシーザーの精神を蘇らせたアントニウスを思い起こさせる。勿論トランプ氏は未だ死んではいない。今は苦しいところかも知れないがバノン氏の活躍次第では今まで以上の力を持つ可能性は幾らでもあると思う。
ところでバノン氏はThe Hill前傾記事によれば、彼の作成した映画の上映会を一部地域では教会堂でも行う計画らしい。そしてロイターが9月14日に配信した“Steve Bannon drafting curriculum for right-wing Catholic institute in Italy”という記事によれば、バノンはローマから程近い修道院に8年前に設立された極右系のカトリック研修所“Dignitatis Humanae Institute”にも4年前から深く関わっており、最近は指導者育成カリキュラムの作成も行い、また米国と欧州の両方での資金集めにも熱心であるという。
これは彼が米国の中間選挙が終わったら自分の時間の殆どを2019年の欧州議会選挙で移民排斥政党が躍進するために使う予定というのと無関係では有り得ないだろう。この“Dignitatis Humanae Institute”には、イタリアの有力な保守政治家 Buttiglione 氏が設立に深く関係し、保守派の有力枢機卿バーク氏が理事長を務める。Buttiglione 氏は欧州議会の反対で“European Commissioner for justice and security”になれなかったことがある。またバーク氏は2014年に今のローマ教皇の手によってバチカン最高裁判所長官やマルタ騎士修道団後援者といった相対的に影響力の少ない地位に“左遷”されている。
バノン氏を含む3人の思想には少しづつ違いもあるようだ。しかし、3人が、同性愛結婚反対、妊娠中絶反対といった宗教の根幹の部分を大事にしようと考えていることに変わりはない。バノンが作成中の指導者育成カリキュラムでも、それは大きな地位を占めている。
このような根本的に大事な考え方をカトリック内部から崩そうとし、そしてヒスパニック系(カトリック系)不法移民を支援することでプロテスタント国家アメリカを乗っ取ろうとしているのが、今のローマ教皇である。
そのため Daily Beast が9月7日に配信した“The Plot to Bring Down Pope Francis”という記事によれば、バノンは今の教皇を退位に追い込もうとしており、ペンシルベニアのカトリック教会で70年以上に渡って児童虐待が行われて来た事件等をリークしたのも彼周辺ではないかと言われている。
何となくアンドレ・ジッドの『法王庁の抜穴』を想起させる話である。ただ同小説との違いは、詐欺師的な存在が法王の方だということだ。今の教皇は前述のように宗教者失格なのだから当然である。
ただロイター前掲記事によれば、バノン氏を含む人々は、カトリックにピューリタン的な、親ユダヤ、親イスラエル的な考えを持ち込もうとしているらしい。国際ユダヤ思想こそは人間を破壊するグローバリズムやリベラル思想の根源である。それと闘って来たのは、カトリックだった。
だが今の法皇自体がグローバリズムやリベラル思想に汚染された人物である。退位させることが出来なくとも“Dignitatis Humanae Institute”の活動等で弱体化させるべき存在なことは確かだろう。
また遠くない将来、今は人口的に国際ユダヤの方が多数派だが、イスラエルに居住する民族派ユダヤ人の方が人口的多数派になる。そうなれば世界のユダヤ系社会の在り方も大きく変わることも期待できる。
何れにしても中短期的には、イスラエルはロシア、アメリカそして日本の要になってくれる可能性の高い国であり、またハイテク産業やハイテク兵器の関係で密接に協力した方が良い国である。バノン達の方針が日本にとってマイナスということはないと思う。
日本がイスラエルと接近し過ぎることはアラブ諸国を敵に回すのではないかという不安を感じる人もいるかもしれない。しかし、米国のエルサレムへの大使館移転や米国内のパレスチナ代表事務所閉鎖等があっても、アラブ諸国は強く反発せず、むしろイランや国際テロ集団の脅威から自国を守るために、米国(と結び付きの強いイスラエル)とは事を構えようとしないではないか!それほどイランや国際テロ集団の脅威は大きいのである。
その国際テロの発祥地は、アフガンである。Daily Beastが9月14日に配信した“Inside Erik Prince’s Push to Rule the Skies”という記事によれば、デヴォス教育長官の兄弟で民間軍事会社ブラック・ウオーター(イラクでの不祥事後は、社名変更をし、今は正式にはフロンティア・サービス・グループ)の社長であるプリンス氏は、ブラック・ウオーターに空軍部門を作ろうと過去数年間に渡って努力を続けて来たが、その度に米国その他の国の法律上の問題で頓挫して来た。だが彼は、いよいよ諸事情を整理し、本格的に空軍部門を創設する方針らしい。
これも何度も書いたが、バノン氏はプリンス氏を今年の中間選挙で、ウイスコンシン州選出の上院議員にしようと画策していたこともある。それを考えると広い意味での“バノン派”の人物と言えるように思う。
そのプリンス氏は The Hill が8月14日配信の“Faced with opposition, Erik Prince shops his plan for Afghanistan”という記事の中でも触れられてているが、2017年にマクマスターNSC担当大統領補佐官やマティス国防長官といった軍出身の閣僚達の反対で実現できなかった、アフガンに正規軍ではなく彼の会社を増派する案を、マクマスターが失脚しボルトンが代わりに就任したことから、トランプ政権に再び提案したという。
それを実現するために、どうしても空軍部門を創設したいらしい。ゲリラ勢力を空中から攻撃することが効果的だからである。
Daily Beast 前掲記事によれば、アフガンの米国正規軍(の一部)をブラック・ウオーターに交換することで、アメリカ政府は年間350億ドルの節約になると、プリンス氏は主張しているという。その代わり同社は年間35億ドルの予算と、もし奪回できれば今はテロ=ゲリラ集団に占拠されている有力な鉱山を要求したいという。
1990年代にも同様の方法で国際社会が解決に失敗したシェラレオネの紛争を民間軍事会社が解決したことがある。プリンス氏の主張が間違っているとは思えない。
ただ今のフロンティア・サービス・グループには「一帯一路」の安全確保等を理由に中国が40%も出資してしまっている。前にも書いたが左派が騒いだために名目上倒産した、トランプ大統領を選挙で当選させた選挙コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカ社も、ブラック・ウオーターと同様に社名変更をして生き残り、やはり今はプリンス氏が実質的に社長なのだが、この新会社を巡っても類似した情報もある。この二つの会社に対して日本は、中国より積極的に出資して行くくらいでないと、世界の中で生き残って行けなくなってしまうのではないかと思う。郵貯のお金をODAとして途上国の安定に使う等の色々な道が考えられると思う。
何れにしても Daily Beast, The Hill の両記事を見ても、マクマスターは居なくなったものの、やはり軍部出身のマティス国防長官の反対で、アフガンへの民間軍事会社派遣案は、なかなか実現しそうにはない。それもあってかワシントン・ポストが9月5日に配信した“The White House is discussing potential replacements for Jim Mattis”等の記事によれば、ウッドワード本の影響もあって、マティス国防長官の解任も検討されているという。
これは余談だがウッドワード本にしてもニューヨーク・タイムス匿名コラムにしても、人事等を巡ってトランプ氏に好都合な流れを作った面もあるように思う。少なくとも後者に関してはトランプ氏の自作自演説が一部で流れているようである。
だがワシントン・ポスト前掲記事を見ても、リベラル派も保守派も、ワシントン既成勢力から国防長官を出したいことに代わりはないように私には思える。そのような既成政治―理性主義的なマニュアルに囚われて、例えば正規軍より民間軍事会社を使うようなことに反対する政治を打破するために、トランプ氏が大統領になった筈なのだが、トランプ氏の力を以ってしても、なかなかワシントン改革は進まないようだ。
ここから先はSF小説的かも知れないが、ブラック・ウォーターがワシントンを占領して、民主的政治を一時的にでも停止させるくらいのことが起こっても良いのではないか?それくらいしないと理性主義的な既成政治を打破して、21世紀の社会に相応しい、柔軟な政治を実現することは出来ないのではないかとさえ思う。
ギボンの『ローマ帝国衰亡史』によれば、当時的に民主的だった西ローマ帝国は、自らが使っていた野蛮人の傭兵隊に占領されて、滅亡した。だが、その結果として、その後の欧州世界の発展があったとも言える。今は、そのような時期に来ているようにさえ思う。
「GII REPORT」より転載
https://ameblo.jp/gii-report
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