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トランプ大統領の反理性主義的(地政学的)外交

 トランプ大統領は7月中旬に欧州を歴訪しNATO会談、米英会談、米露会談と精力的な外交をこなした。長年の同盟国であったNATO諸国には軍事費増額を迫って反感を買った。英国でも最終的には米英経済協定を結ぶことに関して合意を取りまとめたものの、その途中の駆け引きでメイ首相のソフトなBrexit政策を批判したため、やはり反感を買った。逆に冷戦時代以来のライバルでありクリミア問題等で対立し続けるロシアのプーチン大統領とは非公開会談で協力関係を模索したという。

 これらには戦略性を欠いた思いつきの外交という批判も多い。しかし、そこで言う“戦略性”とは、理性主義的な外交政策のようなものを言っているのだと思う。そのような行き方が行き詰まり、アメリカ外交が国益の実現に失敗して来た為にトランプ政権が出来たーつまり理性以前の直感を重んじるトランプ氏の才能が必要とされたのではなかったか?

 ではトランプ氏の反理性主義的外交とは、どのようなものか?それはいわば地政学的外交政策であると言って良いのではないか?

 地政学とは人類の歴史と外交を地理的条件から考える行き方である。ユーラシア大陸中枢部―今のロシアの領域の辺りは、うまく開発すれば資源も豊富で、また海から攻撃を加えることが内陸過ぎて非常に難しい。逆に日米英は島国か巨大な島国として、海洋を通じて発展して行くしかない。この二つの勢力がユーラシア大陸辺縁部の利権を巡って抗争を続ける。人類の歴史は、その繰り返しであったのであり、これからも世界の外交は、この抗争を基本に行われる。以上が地政学的思考である。

 この考え方は理性主義からすると単純すぎる考え方かもしれない。だが理性以前の人間の直感からすると、非常に本質を突いた部分も大きい。トランプ氏は彼独特の直感で、この方向で米国外交を再建しようとしているのではないか?

 実際、今までの米国は、ユーラシア大陸辺縁部に深入りし過ぎた。欧州大陸の防衛のために多額の軍事費を使い、中国大陸でのビジネスに深入りした。それは米国の国力を疲弊させ、中国を恐るべき経済、軍事上の敵に育ててしまった。

 それはロシアが閉鎖的計画経済の国であり、それをユーラシア大陸辺縁部に軍事力で布教しようとしていた時代には“ソ連封じ込め”のために必要であった。しかしソ連崩壊で事情は大きく変わった。

 ロシアは自由経済の国として天然資源を積極的に輸出しており、また徐々に投票による民主制も時間は掛かっているが根付きつつあるようだ。それに対し中国は社会主義独裁のままである。欧州大陸は防衛面では米国頼りのままにも関わらず、その米国がシェール石油の輸出国になろうとしているのに、ロシアの天然ガスを購入し続けている。中国も欧州も、冷戦時代以来の経緯から、米国に不公正な貿易政策等を行い続けている。

 これは米国外交の失敗以外の何物でもない。そこで取り敢えずは日米英海洋勢力だけの団結を深め、ロシアの部分協力を得て欧州も中国も挟み撃ちにして、アメリカの国益を回復する。それがトランプ大統領の戦略と考えて良いだろう。

 TPPに代わる日米FTAや米英経済協定を急いでいるのは、海洋勢力団結を促進するためだろう。ロシアは冷戦終結の痛手から完全に回復しておらず兵器と天然資源以外の産業は弱体のままであり、アメリカが産油国になりつつある現状では価格調整の面も含めて、アメリカにとり決して協力することが不自然な国ではない。

 そこでトランプ=プーチン間の秘密会談では、ロシアがイランを、アメリカがイラクを、背景から操って戦争を起こさせ、アメリカとロシアに有利な天然資源価格調整を行う話し合いが行われたのかも知れない。この会談から数週間経過して、北朝鮮が非核化プロセスを行っていないにも関わらず、中国から経済支援を再開している件が問題になっているが、サイバーや核兵器といったハイテク技術の関係で、今の北朝鮮に大きな影響のある国は、むしろロシアなのではないか?さらには中国や欧州の「門戸開放」問題もある。そう考えると米露協調は、アメリカのみならず、アメリカと強い絆を再建するならば、イギリスや日本に対しても、メリットが大きい筈なのではないか?

 にも関わらず米国内では、米露会談の前後にミュラー特別検察官等によって、ロシア政府の関係者が、2016年アメリカ大統領選挙への介入疑惑で起訴され、そのためもあってトランプ大統領によるプーチン大統領に対するワシントンDC招待計画は、とりあえず中間選挙以降に延期されてしまった。これはワシントンDC内における民主党を中心にした理性主義者の反理性主義的(地政学的)外交に対する妨害以外の何物でもないと思われる。

 理性の力による計画によって人間の社会を、より良いものにし、例えば貧富の差のない社会を築けるという考え方には、一つの前提があると思う。それは人間の理性的な計画の必要に合わせて、天然資源が無尽蔵に出て来るーという発想である。この考え方は1970年代の石油危機によって否定された。そのためソ連型社会主義もケインズ型資本主義も破綻した。

 そこで仮に貧富の格差が拡大しても市場メカニズムに全てを任せないと資源の有効活用が出来ないという発想が復活し、レーガン革命以降の新・資本主義が世界の主流になった。いわば反理性主義的な“見えざる神の手”への「信仰」への回帰である。

 それは海洋(自由)貿易で発展して行くしかない日米英の、独壇場になる筈だった。しかし欧州、中国、中東諸国等は、ソ連包囲網が必要だった時代以来の、米国の好意に甘え、市場を閉鎖して来たと言っても過言ではない。

 それを日米英の協力と(弱体化した)ロシアの協力を得てこじ開けようというのがトランプ外交の真髄と思われる。それに何故、理性主義者達が反対するのか?

 その理由はユーラシア大陸辺縁部の資源等へのアクセスを有利に行えば理性による計画に基づいて貧富の差等のない理想社会を実現できるという「迷信」に未だに取り憑かれているからではないか?

 そのためにはロシアを恐怖の仮想敵に仕立て上げ、その恐怖からユーラシア大陸辺縁部―欧州、中国、中東諸国等を恐れさせ、アメリカが当該地域の資源等にアクセスし易くする必要がある。それがワシントンDCの理性主義者達が、トランプ大統領の地政学的外交に反対し、トランプ大統領とロシアとの協力を、ロシア疑惑なるものを捏造してでも妨害したい理由ではないか?

 実際、ミュラー特別検察官の上司であるローゼンスタイン司法副長官は、複数のロシア関係者が2016年米国大統領選挙への介入容疑で起訴された時に、これで米国人が選挙妨害に関わった疑惑は晴れたと理解できる発言を行っており、そのためローゼンスタインやミュラーに関する罷免要求も議会内にない訳ではない。しかしライアン下院議長(共和党)は、それに否定的である。

 確かに市場メカニズムに基づいた所謂グローバル経済は、アメリカを中心に貧富の格差の大きい社会を作りつつある。しかし、それは欧州、中国、中東諸国等が、ソ連包囲網時代以来の米国との関係に甘え、市場メカニズムに否定的な、規制の多い閉鎖的貿易慣行を行って来たことにも一因があるように思う。

 トランプ大統領は、それを抉じ開けようとしているのである。そして市場メカニズムを決して否定しない関税等の形で、グローバル化すなわち国際的な貧富の格差の拡大に、ブレーキをかけようとしている。

 何れにしてもユーラシア大陸辺縁部の資源等へのアクセスを高められれば、理性主義的計画経済によって、貧富の格差の少ない理想社会を築けるといった考え方は、1970年代に否決されているのである。むしろ今は日米英海洋(自由)貿易=市場メカニズム勢力が、弱体化したロシアと協力し、ユーラシア大陸辺縁部の勢力を挟み撃ちにして、多くの規制等を撤廃させ、あるは米露に比べれば強すぎる資源の価格調整を打破し、より海洋(自由)貿易=市場メカニズム的世界を、実現すべき時だろう。それが実現することを、一日本国民として願って止まない。


「GII REPORT」より転載
https://ameblo.jp/gii-report

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