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米国人のライフスタイルの危うさこそ警鐘を鳴らすべきNW科学記事

◆脂肪抑える細胞発見

 ニューズウィーク7月31日号「脂肪を抑える細胞が見つかった」は2ページの科学記事だが、少々深読みし、医療・食品業界の動向や事情を見据えながら読むと、なかなか興味深い。

 これはヨーロッパの出来事だが、「スイス連邦工科大学ローザンヌ校とチューリヒ校の研究者が先頃、脂肪細胞の生成を抑制する細胞の存在を突き止めたと発表した」という。その内容は科学誌ネイチャー電子版6月20日付に掲載された。

 「報告によると、ネズミとヒトの脂肪沈着の中に、これまで知られていなかった前駆細胞の一種を見つけ」「(この未知の前駆細胞が)脂肪細胞の生成を促すのではなく、逆に抑制する働きをしていた」ことでこれを「アレグ細胞」と名付けた。さらに「ヒトの脂肪組織を分析してみると、やはりアレグ細胞が見つかった」そうだ。しかし、実験全般はモルモットの段階のそれと見て間違いないだろう。

◆実用化は「百に一つ」

 これに対し記事では、「この細胞の働きを詳しく解明できれば、肥満や糖尿病などの対策・治療に役立つことが期待される」とし、これを受けていきなり米国人の健康問題に言及している。

 一面の大きさに載せた肥満体の腰部の写真は露骨で、その説明は「大人の悩み 一度体に蓄積された脂肪は、運動や食事療法に励んでも減らせない人が多い。脂質生成制御細胞の発見は明るいニュースだ」。また「脂肪の量をコントロールできれば、肥満や2型糖尿病の予防にも役立つ。米疾病対策センター(CDC)によると、アメリカでは今や成人の肥満率が40%に迫っており、学齢期の児童・生徒でも約20%が肥満に分類される(肥満の定義はBMI値25以上)」と。

 学術的な発見はつい最近なされたばかり。研究チームの一員は「脂肪細胞の生成を抑制できれば、代謝に関連する健康状態の改善に役立つだけでなく、老化の進行を遅らせることも期待できる」とする。しかし実用化、製品化の可能性について、どれほどの見通しを持って語られたのか。発見に対しての自らの評価を強調、医療業界などから注目を得るための発言と見ることもできる。製品化のための選定基準には厳しいものがある。

 実際、多くの学術レベルの発見のうち製品・実用化の日の目を見るというのは100に一つもないと言われる。しかし発見の段階で流布され、概して消費者の食指が動くような報道がなされている。今回もどう見ても性急過ぎる論理展開だ。

 米国人の健康問題の負の部分(今回は肥満)は、米国人が発明した大量消費、大量廃棄というライフスタイルの帰結とするところが少なくないが、そのことについて今とやかく言うつもりはない。またそれを米国文化であるとした場合、個人のライフスタイルの細かいところに、誰かが命令を下してうんぬんするというわけにもいかないだろう。

 しかし、たらふく食べてその後、ランニングやトレーニングマシンなどで汗を流して、体内に摂取したものを消化させようとし、それが失敗するとあるいは併行して、薬や医療食品に頼ろうとするのはいかがなものか。そのニーズに応えて、医療・薬品業界が活況を呈している。広く米国人のライフスタイルの危うさにこそ警鐘を鳴らすべきだ。

◆日本はストレス社会

 記事は、最後に「日本人の成人の肥満率が米国を追う勢いだ」と書き、「現代の日本社会はストレスがいっぱい。(中略)いくらアレグ細胞で脂肪の生成を抑えることができても、ストレス過多では肥満解消なんて夢のまた夢…」と皮肉っている。自分たちのことは棚に上げて他を言う口ぶりだ。

 われわれの体の仕組みなどが細胞レベルで解明されるようになり、その知識を応用し医薬品として製品化する産業も起きている。中国は時間的には米国に追随する形だが、倍して巨大投資をし、それを手掛ける人材育成に余念がない。世界がこの分野に注目し生き馬の目を抜くような競争が続いている。特に中国の新薬に対する宣伝工作が気掛かりだ。

(片上晴彦)

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