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複雑なパズルを組み合わせるトランプ大統領の外交・安全保障

ワシントンで開かれた保守派の集会で演説するトランプ米大統領

ワシントンで開かれた保守派の集会で演説する
トランプ米大統領

 トランプ大統領の外交・安全保障政策は、地球全体における米国の能力を俯瞰しつつ、内政上の政治圧力を踏まえた複雑なパズルのようなものです。オバマ前大統領はパズルを組み替える作業を放棄してゲームの盤上に問題が発生していても見て見ぬふりをしてきました。トランプ大統領は、このパズルの全体のバランスを見ながら、臨機応変に発言内容を変更しています。

 そのため、大半の有識者から「トランプ大統領は予測不能」という評価が下されてきました。外交・安全保障の専門家、地域政策の専門家、米国内政の専門家などが各々の蛸壺化した領域から分析を加える形であったため、トランプ大統領の行動の全体像が把握できなくなっていたからです。その中には、米国側の一部の軍人・識者らからのヒアリング結果を全体像のように理解し、日本国内で説明している人も少なくありません。また、米国メディアの丸写しのような翻訳家的な有識者もいまだに多く、その証左として直近1カ月間で、「トランプ大統領の外交安全保障政策及び通商政策の動機は選挙だ」と急に主張するようになった日本人識者も増加しています。

 たしかに、筆者は世論調査の動向、つまり選挙を意識したトランプ大統領の言動の分析は正しいものと思います。中間選挙での敗北はロシアゲート問題も含めて政権全体をレームダック化させるような状況を生み出すことになるでしょう。特に上院改選州の状況はトランプ大統領の通商政策のあり方に大きく影響しているものと思います。

 しかし、それだけでトランプ大統領の通商政策を説明することは難しいです。それを理解すためには、エネルギー価格・労働法制の変化、ワシントンD.C.でのシンクタンクの動向、昨年から発令されてきた通商関連の大統領令を踏まえることはもちろん、北朝鮮情勢・台湾情勢だけでなく、共和党内の軍事費増を念頭に置いた対中圧力強化の圧力、そしてNAFTA(北米自由貿易協定)や米韓FTAの見直し、日米FTAやTPP(環太平洋連携協定)への対策など、更には中東情勢や対ロシア政策までを含めた幅広い視野から総合的に理解することが求められます。

 また、トランプ大統領が「北朝鮮への最大の制裁」を発表した場は、保守派の最大の総会であるCPAC(保守政治活動協議会)でしたが、なぜCPACで発表したのか、それが選挙情勢や外交安全保障にどのようなインパクトを与えるのか、を敏感に感じるアンテナが必要です。イランの核合意見直しに関すること、中国についてはほとんど触れなかったこと、また同イベントに参加したペンス副大統領やボルトン氏の発言はどのようなものだったか、なども状況変化を踏まえる上で重要です。先日トランプ大統領が述べたシリアからの米軍の撤退可能性についても、イランの核合意見直しやトルコ・ロシア・欧州関係、在韓米軍に関する韓国の認識や北朝鮮への圧力に与える影響、トランプ政権内の人事・議会とのパワーバランスの変化、最終的に選挙情勢に与える影響を熟考する必要があります。一つ一つの現象について複合的に理解する横断的な視点を持って理解することが重要です。

 トランプ大統領は全体のバランスを踏まえたギリギリのところで物事を運営するという経営者ならではの政権運営を行っています。筆者の見立てでは、囲碁に近い感覚で物事を進めているように感じられます。優れた経営者や政治家は皆がその傾向を持っており、成否はともかくとして、常に複合的な判断の下で動いています。

 そのため、トランプ政権の動きの個々の事象をバラバラに捉えて「思いつき」「予測不能」とするのではなく、その全体像を複数分野の専門家が集まって検討を加えることを継続的に実施することが重要です。日本にも対米政策を総合的観点から分析できる本格的なシンクタンクの立ち上げが望まれます。


『切捨御免!ワタセユウヤの一刀両断!』より転載
http://yuyawatase.blog.jp/

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