ワシントン・タイムズ・ジャパン

決断を迫られるウクライナ政府

■増大するロシアの存在感

 ロシアはウクライナとの国境付近にロシア軍を配置している。国際社会では国境付近に4万人以上の戦力を集めないのがマナー。何故なら、4万人の戦力は威力偵察に使われるので、これ以上集めると不要な緊張を生むことになる。

 白人世界は戦争ばかりしているが、戦争の経験から可能な限り戦争を回避する対策も生み出した。それは平時に不要な緊張を生まないこと。国防目的で国境付近に軍隊を置くことも必要だが、少ないと防衛ができない。だが多いと緊張を生む。

 行き着いたのが4万人。だから軍事演習でも、国境付近に4万人集めただけで緊張を生む。さらに多くの戦力を集めると、隣国への侵攻準備と見なされる。ロシアはこのことを知ったうえで、ウクライナとの国境付近に9万人以上の戦力を集めた。

 それどころか、今後17万人の戦力になると推測されている。平時に9万人の戦力でも異常なのに、17万人の戦力になればウクライナ侵攻を確実視するのは当然の流れ。訓練で終わる戦力ではないので、寒さで大地が固まれば侵攻する可能性が高くなっている。

■国際社会の現実とウクライナ

 国際社会では、基本的に先に開戦した国が悪になる。宣戦布告は戦争の始まりに定義されているが、国際社会では飾りでしかない。これも白人世界が生み出した経験則で、現状を維持したい強国が今の平和のルールを決める。

 だから開戦は、強国が作る今の平和のルールを否定する行為。だから開戦した国は悪の国にされる。戦前の日本は、このことを知らなかった。だから宣戦布告後に開戦すれば、正々堂々の開戦だと思い込んだ。実際は、宣戦布告は飾りであり、日本からの開戦なので、日本は平和を否定する悪の国にされた。だが国際社会には、抜け穴があるのも現実。

●先制攻撃の区分
・攻勢攻撃(Offensive Attack):国際社会で否定される。
敵国の国防線を踏み破って奇襲攻撃を仕掛ける。

・防勢攻撃(Defensive Attack):国際社会で肯定される。
自国の国防線の中で脅威国が戦争準備した段階で先制攻撃する。

 先制攻撃には攻勢攻撃と防勢攻撃がある。攻勢攻撃は戦前の日本が行った先制攻撃で、今ではロシアがウクライナに行う可能性がある。攻勢攻撃は国際社会から否定されており、戦前の日本が実行したので悪の国にされた。

 これには裏技があり、仮想敵国を意図的に怒らせ、仮想敵国から開戦させる策もある。実際に戦前のアメリカは、日本に対してABCD包囲網やハル・ノートで日本を怒らせ開戦させた。

■ウクライナの選択

 防勢攻撃は国際社会が肯定する先制攻撃。これは仮想敵国が戦争準備したので、防衛目的で先制攻撃する策。戦例としてイラク戦争(2003年)が挙げられる。イラクのフセイン大統領は、大量破壊兵器の保有意志を公言した。これはイラクによる戦争準備と見なされ、アメリカは国連決議を間接的な宣戦布告とし、先制攻撃でイラク戦争を開始している。

●ウクライナの選択
・積極的な防勢攻撃:戦争準備中のロシア軍を国境の外で撃破する。
・消極的な防勢攻撃:ウクライナ領内の親ロ派を先制攻撃。
・機動防御で対応 :ロシアに侵攻させ、機動防御で対応。

 ウクライナには3つの選択肢がある。一つは国境付近にロシア軍が展開しているので、既に防勢攻撃を正当化できる。ウクライナ軍をロシアによる侵攻前にロシア領まで進出させて先制攻撃で撃破する。

 これは実行しても国際社会は肯定するし、しかも強国アメリカの支持がえられる長所もある。短所としては、ロシアがウクライナによる先制攻撃を前提としていれば、奇襲性がないので失敗する可能性がある。しかもロシアは、ウクライナからの先制攻撃を悪とみなし、ロシアの正義を盾に戦争を開始できる。

 ウクライナが安全第一で先制攻撃を行うならば、ウクライナ東部の親ロ派を先制攻撃することが有益。何故ならウクライナ東部の親ロ派は、ロシア系移民であり、実質的にロシア軍が義勇兵と称しているだけ。

 だからロシアによるウクライナ侵攻前に、ウクライナ東部の親ロ派を先制攻撃すれば、ロシア軍を支援する戦力を排除できる。さらに、ロシア軍が親ロ派支援でウクライナ侵攻を行えば、ロシアは欧米から悪の国と定義される。

 これはロシアには政治・軍事でダブルパンチの策になる。ウクライナ侵攻に合わせ、ウクライナ東部の親ロ派も戦力になれば、ウクライナ軍を分断できる。だが親ロ派が撃破されると、ウクライナ侵攻の成功確率が低下する。だからロシアには一番嫌な策になる。

 ギャンブル性が高いのは、ロシア軍がウクライナに侵攻してから、ウクライナ軍が機動防御で迎撃する機動防御。典型的な戦例は第三次ハリコフ攻防戦(1943年)。ドイツ軍は劣勢だったが、戦車師団の機動防御で優勢だったソ連軍の攻撃を撃破している。

 ロシアにウクライナ侵攻を行わせ、ロシア軍の攻撃軸を把握しながらウクライナ軍戦車師団が機動防御を行うことは、成功すれば歴史に残る偉業。だが、第二次世界大戦のドイツ軍戦車師団に匹敵する練度と、機動戦を行える指揮通信能力が求められる。

ロシア・ウクライナ周辺地図

ロシア・ウクライナ周辺地図

 ロシア軍のウクライナ侵攻は、首都キエフとドニエプロペトロフスクが目標だと推測できる。何故ならドニエプル川がウクライナを東西に分けており、重要な橋が兵站の要になる。この2箇所をロシア軍が占領すれば、ウクライナ東側のウクライナ軍の兵站と増援を阻止できる。

 ロシア軍の攻撃軸を予測できるので、ウクライナ軍の戦車師団が機動防御で迎撃できる可能性はある。だが練度が低いと実行できないし、機動防御を行う速度が遅いと無意味になる。

■ロシア軍の作戦構想

 ロシア軍の作戦構想は、おそらく「ウクライナ軍の分断と各個撃破」と思われる。首都キエフとドニエプロペトロフスクに攻撃軸を置くことで、ウクライナ東側のウクライナ軍を分断できる長所がある。

 ロシア軍はソ連軍から二点突破理論を継承しており、敵軍を前後左右に分断し、包囲殲滅する二点突破理論から発展した縦深攻撃理論を持っている。ロシア軍17万人で縦深攻撃理論の実現は難しいが、二点突破理論の基本に立ち返ることは可能。

 仮にロシア軍が二点突破理論を現代に適合させた新理論を開発したとすれば、ウクライナ侵攻で実行することになるだろう。だが敵を前後左右に分断し、包囲殲滅することは変えないはずだ。

 仮にウクライナ侵攻が実行されたら、ドニエプル川を繋ぐ橋の扱いで、ロシア軍の作戦構想と次が見えてくる。ロシア軍がドニエプル川を繋ぐ橋を破壊すれば、ロシア軍はウクライナ西側に侵攻しない。ドニエプル川の橋を破壊することで、NATO(北大西洋条約機構)のウクライナ東側への進出を阻止することと、ウクライナ東側の占領が目的だと判明する。

 ドニエプル川を渡河することは可能だが、ドニエプル川を巨大な塹壕に変えられるので、ロシア軍はNATOに対して防御戦が有利になる。しかも17万人の戦力であれば、ウクライナ東側の占領が限界。そのため、橋を破壊してドニエプル川を塹壕に変える方が望ましい。

 だがロシア軍が橋を破壊しない場合は、ドニエプル川を超えてウクライナ全土を占領することが目的だと判明する。これはNATOとの正面対決を覚悟するので、ロシア軍はさらに10万人以上を追加して戦闘継続を行うことになるだろう。

 だがロシア軍がドニエプル川を超えることは、ロシアの国力を超えるので、長期戦になればNATOが優勢になることは明らか。しかもアメリカ・イギリスは放置できないので、長期戦でロシアに挑むことは明らかだ。

■春を迎えれば侵攻回避

 ロシア軍のウクライナ侵攻は、大地が凍る冬場に実行される。何故なら今のウクライナの大地の多くは泥濘が多い。そんな大地で機動戦は難しい。ウクライナ侵攻するなら速度が勝利の鍵だから、ロシア軍戦車師団の進撃速度が勝敗を決める。

 ロシア軍戦車師団の進撃速度が早ければ、ウクライナ軍の効果的な反撃を無力化できる。だから大地が固まる冬場は理想的。これはウクライナ軍も理解しているから、先制攻撃でロシア軍の侵攻を阻止することが議論されているだろう。

 春を迎えれば泥濘が戻る。これはウクライナ侵攻が回避された証しだから、ロシアによるウクライナへの恫喝と見なして放置することもできる。だがウクライナ侵攻が開始されたら、ウクライナ軍には遅滞行動か機動防御しか残されていない。つまり、ウクライナ軍の勝利は難しくなる。

3

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。