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アフガン政府軍崩壊とタリバン新政権

懸念される武器流出

国際関係アナリスト 松本利秋氏に聞く

 これまで米国から総額850億ドル(約9兆3000億円)もの武器供与を受け、数で圧倒していたはずのアフガニスタン政府軍が反政府勢力タリバンの軍門に下った。なぜ、そういう事態になったのか。また、タリバン政権が入手した武器で、海外流出が懸念されるのは何か。現地に足を運び、独自のネットワークを持つ国際関係アナリスト・松本利秋氏に聞いた。
(聞き手=池永達夫)

米が残した多用途ヘリ焦点
残留外国人に人質料要求も

アフガニスタン政府軍30万人がタリバン7万5000人に白旗を挙げた。なぜそんなことになったのか。

国際関係アナリスト 松本 利秋氏

まつもと・としあき1947年、高知県安芸郡生まれ。1971年明治大学政治経済学部政治学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了、政治学修士。ジャーナリストとしてアメリカ、アフガニスタン、パキスタン、エジプト、カンボジア、ラオス、北方領土などの紛争地帯を取材。TV、新聞、雑誌のコメンテーター、各種企業、省庁などで講演。著書に「地政学が予測する日本の未来」「麻薬第四の戦略物資」など多数。

 アフガニスタン政府軍への武器供与やメンテナンスは、基本的に米国の傭兵部隊がやっていた。弾薬などの補給も民間会社の担当だ。彼らが7月、一斉に手を引いたから、アフガニスタン政府軍は戦えなかった事情がある。

 最初、ブッシュ大統領がアフガン侵攻を決断するが、その時の副大統領がチェイニー氏だった。彼はブッシュ政権の副大統領就任前まで、ハリバートンという米で一番大きな民間軍事・警備会社のCEOをやっていた。この会社は、イラクに基地や飛行場を造ったり、食堂の運営から死体搬送ビジネスまで手掛けていた。イラクに派遣された自衛隊やNHKなどの大手会社の取材陣も移動の時は現地の事情に通じた、これらの警備会社に守られていた。

そもそもタリバンの発祥は。

 最初、パキスタンが手を付けたものだ。インドと歴史的確執のあるパキスタンは、自国の後背地域にバッファー(緩衝(かんしょう))が欲しかった。

 それで何らかの影響力を保持するためにパキスタン陸軍情報部がアフガン難民の子供たちを集めて、イスラムの学校を造り、飯を食わせてイスラム原理主義的な方向に牽引(けんいん)していこうとした。それがタリバン発祥となった経緯がある。

1980年にアフガンを侵攻したソ連が手を焼いたのは、ムジャヒディンに米が供与したスティンガーミサイルだった。今回、懸念される武器流出で注目されるのは何か。

 ターゲットの一つは今回米軍が遺棄していった多用途ヘリコプター・ブラックホーク33機だろう。

 対ゲリラ戦で効力を発揮した軍事ヘリで、暗闇でも撃てる射撃管制装置の技術評価が高い。

 イラク戦争にも使われ、ヘリが見えない闇の中で、イラク兵士は撃たれた。

 ブラックホークの電子機器を制御し、操縦するというのは簡単じゃないし、正常な状態で飛べるようにメンテナンスするというのもプロの仕事だ。

 ただ武器はまだ動いてはいない。

 そうはいっても資金の手当てなしに国家運営はままならず、アフガン政府が保有していたとされる100億ドル海外資産に、にわかにアクセスすることは彼らにとっては極めて困難だ。手っ取り早く米ドルを稼ぐ手だてとしてタリバンは、アフガンに残留している外国人や米軍や国際機関などで働いていたアフガニスタン人を無事に国外脱出させる見返りに、例えば、1人50万ドルとかで取引することが考えられる。

人質料?

 そうだ。残されている日本人は9人いるとされる。中村哲さんの弟子で、アフガニスタンに骨をうずめると根性の入った日本人の医師とか看護師たちだ。その他、JICA(国際協力機構)で働いていた現地ワーカーなど合計約500人だとされるが、それだと250億円。これを日本の国民が税金で払うことになる。人道支援はそこまでやらないといけないのかとの声も上がる。さらに言えば、難民に紛れてテロリストが日本に入り込む可能性もある。日本にはこれをスクリーニングするノウハウが全くないと言っていい。

今回、中国はどの程度、関与していたのか。

 米軍撤退で、カブールの各国大使館は国外退去を急いだが、中国とロシアの大使館だけはそのまま大使はじめ全員残り業務をこなし続けた。

 その意味で、タリバン側と事前に話がついていた可能性が高いし、腹が座ったアフガン関与をやろうとしていることが読み取れる。

 なお中国にとっては米軍撤退は非情にまずいことだった。つまり、米軍がいたからタリバンは外に出られなかった。その米軍がいなくなったことで、これからは自分で対処しないといけなくなった。

バイデン米大統領はアフガン撤退の理由として、対中国に傾注していくためだと語るが本気度は。

 「アフガン撤退は中国に立ち向かうため」というのは、言い訳にすぎないと思う。

 下院の公聴会でブリンケン国務長官は「アフガン撤退を決めたのはトランプ政権で、現政権はそれを引き継いだだけ。トランプ政権だって撤退のプランなど持っていなかった」と言い訳を語る。

 しかし、結果に責任を持つのが政治の世界だ。そうした弁明自体が一流政治家とは言えない証拠だ。

 バイデン政権は対中政策に関し「競争と協調」と言っている。だが「競争と協調」というのは矛盾があり、それを成り立たせるためには、極めて微妙な調整が必要だ。

 トランプ前大統領が嫌われたのは、官僚を排除して突っ走った。だからあれだけの反発を買った。

 バイデン大統領はそれを元に戻し、官僚を使う。プロフェッショルな外交官が交渉を積み上げていくというのが大前提だ。

 しかし、微妙なやりとりというのは、習近平国家主席のようなディクテイター(独裁者)が一気につぶすことが可能だ。ただこの太陽政策は、歴史的に見ると中国の「富国強兵」に資しただけだったというアメリカの対中政策失敗の歴史的事実がある。

 再びこの手法でやったとしても、うまくいく可能性は少ない。

 それが分かってて「競争と協調」というのは、外交姿勢があいまいだということだ。

ヒトラーを増長させた英チェンバレン首相の融和主義と同じ失敗の轍(てつ)を踏む可能性があるということか。

 そうだ。

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