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民間軍事会社は中東に安定をもたらすか?―2020年初イラン情勢の背景

 やっぱりだった。ワシントン・ポストやNYTの報道によれば、2019年12月27日に、イラク派の攻撃で死亡した米軍関連業社とは、民間軍事会社の一員だった。両紙の報道によれば、この人物ハミド氏は、バージニア州に本拠を持つValiantintegrated社のアラブ語の専門家だった。このValiantintegrated社は、戦闘行為を主たる任務にはしていないものの、ロジスティック、メンテナンス、インテリジェンス等で、全世界的に米軍をサポートする業務を広範囲に行なっている。

 ハミド氏に対する報復として米軍は12月29日、イラク国内の複数のイラン派の拠点を空爆。それに対する抗議行動で12月31日、駐イラク米国大使館が暴徒に破壊された。

 この事態を受けてトランプ大統領の命令により1月3日、イラン革命防衛隊司令官ソレイマニ氏が暗殺された。それへの報復として1月8日、イランはイラク国内の米軍基地を弾道ミサイルで攻撃した。しかし死者等は出なかった。そこでトランプ大統領は9日午前“イランは自制した”として、これ以上のエスカレーションを米国側からは行わないという演説を行った。

 これに関して私のワシントン時代の旧友でヘリテージ財団主任研究員カラファーノ氏は、軍事関係で最も権威あるNational Interest誌で、以下のような点を指摘している。

1、イランの攻撃は米国との戦争を避けるために敢えて死者を出さず現政権の対面を守るためのものだった。

2、イラクは自らの主権を侵害されたことは、アメリカもイランも変わらないと考え、アメリカとの関係が良くなる可能性がある(12月29日の空爆後に一旦はイラク議会は米軍の自国からの撤退要請決議を行っていた。

3、ロウハニ大統領はイラン核合意に反する危険な核物質濃縮を始めたため、今までイランを擁護して来た欧州諸国やロシア、中国と、イランの関係が悪化する。

4、ソレイマニ氏暗殺により実はイラン国内の反体制派が活性化する。

 この最後の部分は重要だろう。日本では報じられていないが、アメリカによる経済制裁で国内が混乱して以来、約200人の反対派がソレイマニの命令で殺害されている。このような凶暴な圧政者をトランプ大統領は倒したーという評価も米国内にはあるのである。

 他にWSJが1月5日に配信した記事では「シリアでは、彼はアサド政権が自由に対する自国民の要求に残虐に対応することを可能にした。2011年以降、500,000人以上のシリア人が亡くなり、さらに数百万人が家を追われている。」また「イランの3つのキャンプを監督し、そこで彼のエリートのコッズ軍がイラク民兵を訓練し、装備させた。米国政府によると、これらの戦闘員は2003年以来600人以上のアメリカ兵を殺した。」という。

(更にWashington Examiner誌が1月2日に配信した記事では、12月31日に米国大使館を襲撃した暴徒も、コッズ軍に扇動されていた可能性が高いという)

 その他にもWiki-Pedia等を見てさえ、この“コッズ軍”は、ヒズボラ、ハマス、タリバン、アルカイダ等といった米国と同盟国に取って極めて危険な国際テロ組織を支援している。そして秘密情報機関の側面も強いという。

 何れにしてもWSJの記事は西暦2000年の民主党副大統領候補だったリーバーマン氏によって書かれ、彼は民主党はトランプ大統領に協力するべきと主張している。但し彼はユダヤ系なのでイラク戦争には共和党以上に賛成して民主党を離党し、2008年には共和党副大統領候補として名前が出たこともある。それより私としては彼が、いま中国企業の代理人になっていることが気になる。

 そういう事情はあるが、リベラル派からも一応以上にトランプ氏の行動への支持があるのである。

 例えばワシントン・ポストが1月9日に配信した記事でも、トランプ大統領はイランに新しい核合意を呼びかけたが、イランは弾道ミサイルの開発継続と、2030年までの期限付(つまり、その後の核開発は自由)という条件を変えておらず、やはりイランの現体制は崩壊させるしかないーと主張している。

 但し最左派のNYTは、ヨーロッパ諸国はー先のカラファーノ論文の期待とは現状では違い、イラン核合意の変更等には冷ややかで、むしろ米国とイラン勢力との抗争に巻き込まれることを恐れて、イラクにいる自国軍の引き上げに掛かっている。なお同紙によっても、議会民主党は大統領のイランでの戦争権限を制限する法案等を通そうとしている。

 ところが保守系Federalist誌が1月4日に配信した記事では、ソレイマニという危険人物を排除したのだから、アメリカもイランから撤退しても良いのではないかと主張されている。

 これくらい今の米国の国論は複雑化しているのである。

 米国最大の世論調査会社の一つFiveThirtyEightが1月8日に配信した記事によれば、アメリカ国民の内、民主党支持者を含む7割がイランでの武力行使を支持しているという。因みに次はISとパレスチナが6割前後、北朝鮮とロシアは3割前後、中国が日本(および尖閣)を攻撃した時に米国が武力で守ることを支持している米国民は1割程度しかいない。この調査結果を日本人は重く受け止めるべきだろう。

 なお同記事では、バイデンがイラク戦争に賛成したこともある外交のベテランとして支持率が上がっていて、イラク戦争に反対だったサンダースの支持が下がっている。そこでサンダース派は、第三政党を考え始めているという。

 このように繰り返すが米国世論は複雑化しているのである。そして内向きになっているのである。

 そのためかトランプ氏の今回の行動は、テロ的な勢力の討伐以外では、もう米国は出来るだけ外国で軍を使うべきではないーという今の米国民の気持ちと、2016年の彼の公約を守ったものとして、少なくともトランプ氏は支持者離れしていないようである。

 むしろ「一人が殺されたら一人を殺す。誰も殺されなければ出来るだけ何もしない」という基準を明確にしている。それも対外的な抑止力になるとも考えられている。

 だとしても一業者の死と引き換えるには、ソレイマニは余りに大物である。このような“不均衡”は、なぜ生じたのか?

 一つにはトランプ政権のイラン政策とは、単に核兵器を持たせないだけではなく、世界的なテロ集団の支援を止めさせることが目的だからである。ソレイマニの死と昨年来の金融封鎖によって、この目的はかなり達成に近づくのではないか?意外に早い段階で、アメリカとイラクが何らかの合意を形成する可能性もあるように思う。

 それだけではない。

 トランプ氏は大統領になる前から、中東地帯に展開する米国正規軍を、民間軍事会社に置き換える方針だった。イラクで不祥事を起こした民間軍事会社大手ブラック・ウオーター社長プリンス氏とは長年の盟友で大統領になる前から莫大な政治献金も受けて来た。リベラル派に叩かれて倒産寸前になった選挙コンサルタント会社の再建も任せた。彼の姉を教育長官にしさえした。

 そのデヴォス教育長官の学校民営化政策は、日教組ならぬ米教組が強く反対しているので、民主党も強く反対しているのだが、なんと民主党支持者でも9割近くが賛成しているという。

 やはり「民営化」というのは万能の薬なのである。

 中東地域の米国正規軍が民間軍事会社に置き換えられた場合、今の10分の1の予算で、同じ治安維持業務が出来るとされている。しかし正規軍の反対で容易には進まない。

 彼らの対面や利権の問題が大きいだろう。しかしイラクでの不祥事の問題も確かにある。

 トランプ大統領は昨年11月そのような不祥事の当事者の民間軍事会社要員を特赦にした。イラン情勢が緊迫化してから更に一人の特赦を行おうとしている。

 そのような背景を知っていた私は、12月27日にイラクでイラン派に殺された業者というのが、民間軍事会社要員ではないかと最初から考えていて。冒頭に書いたように、それは間違っていなかった。

 彼の所属していたValiantintegrated社が、ブラック・ウオーターと関係あるのかも知れない。そうであれば今まで述べてきた経緯からして、トランプ氏の行動の理由は推測できる。

 そうであっても無くても、ハミド氏はアラブ語専門家として、現地の情報収集に何らかの関与をしていた可能性が低くないように思う。そしてコッズ軍が知られたくない情報に関わってしまったのかも知れない。そのためコッズ軍に殺されたのかも知れない。

 そうであればコッズ軍のリーダーだったソレイマニ氏を暗殺したのは当然の報復だったことになる。

 今まで述べて来たような大掛かりな背景が、2020年初のイラン情勢緊迫に関してはあるのである。このような背景を良く知った上で日本人は中東情勢さらには米国に関して考え関わって行くべきだろう。そうでないと思わぬ失敗をして、中東石油や米国の世界戦略に依存している日本は、重大な危機に自ら陥ってしまうのではないかと思う。


「GII REPORT」より転載
https://ameblo.jp/gii-report

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