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    安東 幹
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    古川 光輝
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    細川 珠生
    細川 珠生
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    井上 政典
    井上 政典
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    伊勢 雅臣
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    河添 恵子
    河添 恵子
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    宮本 惇夫
    宮本 惇夫
    企業・経営
    中村 仁
    中村 仁
    元全国紙経済記者
    石平
    石平
    評論家

    「ビビ王」のイスラエル王国の行方

     イスラエル議会(クネセト)選挙の投開票が9日実施された。現地からの情報によれば、ネタニヤフ首相が率いる与党右派「リクード」とガンツ元軍参謀総長の中道政党連合「青と白」が熾烈なトップ争いを展開し、集計がほぼ終了した段階で両党とも定数120議席中、35議席を獲得した。安定政権を樹立するためには61議席が必要だが、リクードを中心とした右派政党の連立政権発足が有利とみられている。そのため、ネタニヤフ首相は10日未明、テルアビブのリクード集会で勝利宣言をしている。リクードは占領地ヨルダン川西岸の入植者らが結集している極右派の「統一右派」などとの連立を視野に入れている。

    300

    ドキュメンタリーフィルム「キング・ビビ」のポスター

     ネタニヤフ首相は1996年から99年、そして2009年から現在まで10年間、通算13年間、政権を維持している。次期政権(任期4年)が発足できれば、文字通りイスラエル最長政権となる。

     ネタニヤフ首相主導の右派政権の継続が濃厚となったので、独週刊誌シュピーゲル(3月9日号)が掲載した同首相の人物像を報告する。タイトルは「国王の頭の中で」(Im Kopf des Koenigs)だ。シュピーゲル記者はネタニヤフ首相を「インターネット時代が生み出した最初の大衆迎合政治家」と呼び、首相は自身の歩みを英雄物語のように演出してきたという。

     イスラエルの映画監督ダン・シャドゥア(Dan Shadur)氏がネタニヤフ首相の歩みを「King Bibi」というタイトルでドキュメンタリー映画を製作した。映画は同国の民間放送で既に放映され、選挙戦中ということもあって大きな反響をもたらした。ネタニヤフ首相は汚職と腐敗の容疑を受け、検察当局から捜査の手が伸びてきているが、国民ばかりか政敵からも「Bibi」という愛称で呼ばれてきた。

     ネタニヤフ首相はイスラエル建国後に生まれて政権を担当した最初の首相だ。そのカリスマ性とポピュリズムは国民を惹きつけてきた。1950、60年代のイスラエルの政界では左翼が支配していたこともあって、急進的な思考の持ち主だった父親ベンシオンのネタニヤフ家は米国に移住し、そこで3人の息子を育てた。米国の大学で教鞭をとっていた父親は次男のベンヤミンを見るたびに、「息子Benのヘブライ語は英語のようには流ちょうでなく、アクセントがある」と不満を吐露していたという。それでも英語を流ちょうに話すネタニヤフ首相は世俗派のユダヤ人だけではなく、伝統的なオーソドックスのユダヤ人社会でも人気があった。兄のヨナタンはイスラエルのエリート部隊に所属し、1976年のエンテべ空港奇襲作戦に参加し、そこで戦死したことはベンヤミンのその後の生き方に大きな影響を与えたといわれている。

     ダン・シャドゥア監督によれば、ネタニヤフ首相は、祖国の未来を含め全ての出来事は自身のドラマの題材と受け取っているという。彼は左翼、テロリスト、ジャーナリストから常に狙われ、批判されている一方、「自分だけがイスラエルを砂漠から導くことができる唯一の指導者だ」という思いが強いという。フィルムの中で「あなたは孤独ではないか」と聞かれた時、ネタニヤフ首相は「20世紀の偉大な指導者の中で孤独でなかった者はいない」と答えている。ひょっとしたら、ネタニヤフ首相は自身を60万人のイスラエル民族をエジプトから神の福地カナンへと導いたモーセのように受け取っているのかもしれない。

     トランプ米大統領が就任して以来、オバマ政権時代に疎遠となっていた米・イスラエル関係は急速に接近してきた。トランプ氏はエルサレムを首都とし、テルアビブから米国大使館を移転する一方、イスラエルの懸念を受け入れ、13年間の外交交渉で締結されたイランの核合意から脱退を表明。それだけではない。イスラエル議会選挙中にネタニヤフ首相を支援する狙いもあって、イスラエルが1967年の第3次中東戦争で占領したゴラン高原のイスラエル主権を認知する宣言に署名したばかりだ。トランプ大統領から全面支援を受けるネタニヤフ首相が敗北した場合、イスラエルの行方に懸念が出てくるといった声すら有権者から聞かれたほどだ。

     ネタニヤフ首相(69)とトランプ大統領(72)は共に3度結婚している。前者はモスクワを訪問してプーチン大統領と会談し、トランプ氏はハノイで北朝鮮の指導者・金正恩氏と会談。帰国すれば、両者は国内のメディアから批判にさらされるなど、両者には酷似している世界が少なくない。

     エルサレムでネタニヤフ首相はトランプ大統領の家族を招いて交流しているが、「まるでネタニヤフ・トランプ両家の集い」(シュピーゲル誌)のような雰囲気があったという。両者は家族ぐるみの付き合いをしている。ちなみに、米国居住のリベラルなユダヤ人はネタニヤフ首相が大好きだが、首相がトランプ大統領と親密な関係であることには不満があるという。

     ネタニヤフ首相はマサチューセッツ工科大学(MIT)でメディアのコンピューター化に関するマスター論文を書いている。彼は早い時期からインターネットを政治に利用してきた。彼はその点でイスラエルの政界の中で最も先見の明があったといわれている。

     シャドゥア監督は、「ネタニヤフには敵が必要だ。明らかなことは彼が首相になって以来、イスラエルが戦争に巻き込まれる回数は他の政権時代より、少なくなったことだ。彼は実際の戦争を避けるために戦闘的なレトリックを駆使する。ネタニヤフ政権のこれまでの実績は、イスラエルを経済的に豊かにし、安全にしたことだ」と評価している。

     イスラエル史を振り返ると、サウル、ダビデ、ソロモンの3王の統一王国時代があった。イスラエルが栄えた時代だったが、その後、南北に分かれた王国は消滅し、民族は放浪の民となる。「キング・ビビ」と呼ばれるネタニヤフ首相は次期政権を発足し、さらに繁栄したイスラエルの国家建設を成し遂げるだろうか。それとも、ソロモン王後のイスラエルの歴史のように、苦難の道を行くだろうか。ビビ王(ネタニヤフ首相)の前にはパレスチナ民族との和平共存という未解決の課題が控えている。

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