ワシントン・タイムズ・ジャパン

イラン、サウジ制裁の陰に潜む諸問題―中東戦争は、いつ起こるか?

 WSJが11月5日に配信した“5 Things to Know About New U.S. Sanctions on Iran”という記事には以下のように書かれている。

「 11月5日午前零時(日本時間同日午後2時)過ぎに発動される制裁措置は、特にイランの石油、港湾、海運や造船、金融セクターを標的としている。金融セクターでは主として保険会社と、イランの一般銀行・中央銀行との取引が対象となる。

 イランと石油取引を行う者、イランの銀行システムに関与する者はすべて、制裁対象となる可能性がある。違反した米国以外の国の企業は、罰金を科され、米国の金融システムから締め出される可能性がある。大半の国際的企業がドル建ての取引環境を必要としていることを考えれば、米金融システムからの排除は大きな圧力となる。

 イラン政府の歳入で石油は大きな割合を占めている。石油輸出国機構(OPEC)の統計によれば、昨年は国内総生産(GDP)の12%だった。国際的な銀行決済システムから締め出されることにより、イランは取引先からの支払い代金の受け取りも極めて困難になる。(中略)10月初めの段階でイランの原油生産高は日量330万バレルで、5月時点の同約380万バレルから減少している。この減少によるイランの損失は月間約10億ドル(約1130億円)に上る。」(WSJ日本語版より引用)

 しかしワシントン・ポストが11月12日に配信した“U.S. to allow eight countries to temporarily import Iran’s oil despite sanctions”という記事によれば、日本を含む8つの国が“国際石油価格安定の為”に例外的に後180日間のイランとの石油取引を許可され、また国際的な銀行決済システムで最も有力なSWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication SCRL)からの締め出しもイランの全ての銀行には適用されない可能性もある。

 これは当初から考えられていたものからすると不十分なものであり、その為BBCが11月5日に配信した“Rouhani defiant as US re-imposes measures”によれば、イランのロウハニ大統領は“我々は誇りを持って制裁を突破する”と述べ、Washington Examinerが11月1日に配信した“John Bolton refuses to tout Iran sanctions plan that disappoints hawks”によれば、イランへの強硬論者で超タカ派のボルトン国家安全保障担当大統領補佐官は、この制裁の発表には同席しないという。

 なぜ、このような形になったのか?それは第一には、サウジ人ジャーナリストのカショギ氏“行方不明事件”と、深い関わりがあるのではないか?

 この事件に関して私は以前に“イランを追い詰めても中間選挙の投票日までにイラン=サウジ戦争にならなそうなので、そこでサウジを追い詰め中間選挙の投票日までに戦争を起こさせるための、トランプ政権の仕掛けではないか?”という推測を書いている。だが実際は逆だったようだ。

 ワシントン・ポストが11月1日に配信した“Saudi crown prince described journalist as a dangerous Islamist in call with White House, officials say”という記事によれば、カショギ氏“行方不明事件”の数日後にクシュナーと電話会談した時、サウジ皇太子は“カショギ氏は危険なテロ的でイスラム原理主義者のムスリム同胞団の一員だった”と述べたという。この記事ではカショギ氏の家族の話として、それを否定しているが、家族の証言は信用できない。

 実際、同記事でもイスラエルのネタニヤフ首相とエジプトのシシ大統領が、トランプ政権に対しサウジ皇太子の支持を表明したという。イラン包囲網を作ることが目的と言われているが、エジプトはムスリム同胞団の発祥の地で、今の大統領はムスリム同胞団が“アラブの春”で作った政権を倒して、大統領の地位に就いた人物である。また同記事では、サウジがムスリム同胞団の拠点と化したために、カタールと昨年に断交していることにも触れられている。これも“アラブの春”が自国に飛び火することを恐れてのことと言われている。

 ところでNewsweekが10月19日に配信した“JAMAL KHASHOGGI SECRET INTERVIEW”の中でカショギ氏本人が、このカタールの問題に触れており、“アラブの春”を擁護するかのような発言を行なっている。そしてカショギ氏は、サウジ王家を中心とするワハブ派は同じイスラムの他の宗派に不寛容で、自分は真のイスラム的改革を行いたいのだーと受け取れる発言もしている。

 また「世界日報View Point」が10月16日に配信した“トルコ、サウジの信用失墜画策か”というカイロの鈴木眞吉特派員の記事の中でも、エジプト筋の情報として、カショギ氏がムスリム同胞団関係者だったこと、ムスリム同胞団の今では最大の庇護者であるエルドアン大統領の率いるトルコがサウジに都合の悪い情報を小出しにしていること、カショギ氏の婚約者がトルコ情報部関係者で信用できないこと等々が報じられている。

 ワシントン・ポスト11月1日配信前掲記事でもトルコのリーク戦術によりサウジが国際的に追い詰められて行く様子が見て取れる。そして同記事では“トランプ大統領は、カショギ氏が死ぬならば、「厳罰」があると言ったが、まだその罰が何であるか定めていない”とも書かれている。

 WSJが10月19日に配信した“Saudi Journalist’s Disappearance Reshapes Mideast Power Balance”という記事には以下のように書いてある。

「 主要な勝者は、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領のように見える。彼はこの機会を捉えて、重大な岐路に立たされていたワシントンとの関係の改善を図り、トルコの国際的イメージを向上させ、サウジの中東地域での野望に挑戦しようとしている。彼は今週「イスラム世界を率いることができる国はトルコだけだ」と述べた。

 一方イランは、イエメンにおいてサウジ主導の軍事行動で民間人の死者が出ていることに国際的批判が高まる中、大敵サウジの今回の自滅行為を、はたから見物して楽しんでいる。」(WSJ日本語版より引用)

 ただ「見物して楽しんでいる。」だけだろうか?ムスリム同胞団はスンニ派、イランはシーア派。しかし同じイスラム原理主義である。そしてトルコの石油輸入の半分はイランからのものであり、トルコも今回のイランからの石油禁輸を猶予された8つの国の一つである。9月22日の同国内での軍事パレードが何者かに攻撃され25名の死者が出た事件をイスラエルかアメリカの仕業と非難して以来、反イラン派の拠点等に対する弾道ミサイルの発射を続けていたイランが、カショギ氏の事件以来、鳴りを潜めているのも気になる。

 どうやらカショギ氏事件は、イラン(更にはロシア)に動かされたトルコの仕掛けであり、そのためサウジを頼りに出来なくなったために、トランプ政権は中間選挙以前のイラン=サウジ戦争を断念したと考える方が良いようだ。

 しかし、より大きな問題があったかも知れない。

 ワシントン・ポストが11月4日に配信した“Democrats lead in House preferences, but positive views of the economy and concern about border security may buoy Republicans, poll finds”によれば、10月末段階で有権者登録している人の内、民主党支持50%対共和党支持43%。この7%差は議会の多数を取り戻すのに不十分な数字ではないが、この数字は8月には14%で9月には11%だあったので、次第に民主は共和に肉薄されている。トランプ氏の支持率も36%から40%に上昇。経済が良好という回答も60%から71%に上昇。移民キャラバン問題のお陰で共和党は国境警備に関し10%も民主党より信頼されている。逆に医療保険問題が最重要と考える人では民主が共和を39%上回っていて、それが自分の最重要課題だと考える人は17%。しかし経済も15%で国境警備を含む出入国管理も14%。移民キャラバン問題が出てから共和党支持者の出入国管理に対する重要視は14%から21%に増大。民主党支持者では逆に23%から11%。出入国管理を最重要に考える人が共和党に投票する可能性は民主党に投票する可能性より12%高い。特に国境警備が最重要問題と考える人々は特に下院で共和党に投票する可能性が民主党に投票する可能性より42%も多い。

 この趨勢は移民キャラバン問題が出た10月半ばから他の世論調査等でも確認されていたと思われる。この調子なら無理に戦争を起こさなくとも中間選挙で共和党が上下両院で過半数を取れるのではないか?

 そう考えたトランプ氏が無理にイラン=サウジ戦争を起こす必要はないと考えた可能性も十分にあると思う。

 では中東大戦は、これから起こる可能性はないのか?

 そうは思わない。私は私の推測が全て間違っていたとは思わない。

 例えばワシントン・ポストが11月3日に配信した“Citing Iran, military officials are alarmed by shrinking U.S. footprint in Middle East”という記事によれば、アメリカ海軍は今年に入ってから、ペルシャ湾での展開兵力を減らして来たと言う。これからイラン制裁を厳しくしようと考えられていた時にーである。

 ペルシャ湾の守りを薄くすることで、イランに攻撃させ易くする。そういう思惑がトランプ政権にあったのではないか?そうだからこそイランも、イラン制裁が再開された頃から、ペルシャ湾封鎖の準備や弾道ミサイルの発射を積極的に行なって来たのではないか?

 つまりアメリカ、イラン、サウジ、トルコ、ロシア、米英仏等にとって、最も良いタイミングで中東大戦を起こすための“駆け引き”が行われ続けているのではないか?

 そう考えると次のタイミングとしては、もし中間選挙で下院だけでも共和党が過半数を割、大統領弾劾や重要な軍事予算が否決された時等が、考えられるだろう。

 また今から180日後に制裁が見直される時に、トルコ等への猶予が本当に終わるのか?あるいは金融制裁が全面的なものになるのか?―が次のタイミングだろう。

 Washington Examinerが10月29日に配信した“Iran sanctions threaten US dollar dominance”という記事によれば、米英仏はSWIFTを介さない決済システムを構築することで、イランとの石油取引を、アメリカの制裁後も継続することを検討しているらしい。このことはイラク戦争の真の原因が大量破壊武器ではなく、イラクが石油をドルではなくユーロでも売却しようとしていたためであるという情報を思い起こさせる。そのようなシステムが作動し始め様とする時が次の中東大戦が起きるタイミングだろう。

 そのようなことが無かったとしても、中間選挙後に対中関税戦争等のために、アメリカ経済が悪化したりして、トランプ大統領の支持率が急落したが、しかし2020年前半までに南シナ海戦争が起こらなかったとしたら、大統領選再選を乗り切るために、トランプ大統領が中東大戦を仕掛ける可能性は低くは無い。今年11月初旬に中東大戦が起こらなかった原因として、そのような事を仕掛けなくとも、共和党が中間選挙に勝てそうな趨勢になって来たことが、小さく無いと思われる。そうであれば2020年の大統領再選が危うくなれば、トランプ大統領は中東大戦を仕掛ける可能性も小さく無いと思われる。

 そのように考えて日本人は、石油輸入等の中東情勢に関して、準備を怠ってはならないのではないか?


「GII REPORT」より転載
https://ameblo.jp/gii-report

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