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シリアでのロシア機撃墜で関係悪化が懸念されるイスラエルとロシア

◆食い違う両者の主張

 内戦が続くシリアで17日、ロシアの偵察機イリューシン20がシリア軍による「誤射」で撃墜されたことを受けて、情勢がいっそう複雑化するとの懸念の声が上がっている。

 搭乗していたロシア兵15人が死亡、ショイグ国防相は「全てイスラエルの責任」と強く非難した。

 当時、イスラエル軍機がシリア内の標的を攻撃するために飛行しており、シリア軍が発射した対空ミサイルが、ロシア軍機を捉え、撃墜したことが明らかになっている。ロシア軍は、イスラエル軍がロシア軍機を「盾」にしたとして強く抗議したが、イスラエル側は、シリア軍の「過失」と主張、両者の言い分は食い違っている。

 イスラエル紙ハーレツによると、イスラエルは「内戦勃発から1年もたたない2012年1月に、シリアへの空爆を開始した」。シリアのアサド政権支援のためにイランの精鋭、革命防衛隊や民兵らがシリア入り、そこに、隣国レバノンのイラン系イスラム教シーア派組織ヒズボラが侵入し、武器調達を進めていたからだ。イランはイスラエルを敵対視し、ヒズボラはイランの支援を受けている。そのため、イスラエルは自国の安全を守るための攻撃と訴える一方で、空爆はほとんど公表してこなかった。

 ヨルダンのジャーナリスト、ウサマ・シャリフ氏はアラブ首長国連邦(UAE)のガルフ・ニュースへの寄稿で、ロシアのプーチン大統領は「イスラエルによる(シリア内の)イランの標的、武器庫への攻撃を容認する」ことでイスラエルのネタニヤフ首相と合意していたと指摘。イスラエルは、シリア内のイランの影響力が増すこと、ヒズボラがシリア内で武器を調達することに神経をとがらせている。ネタニヤフ首相はロシアを何度も訪問し、プーチン大統領との約束を取り付ける一方で、両軍の間にホットラインを設けるなど、偶発的衝突防止でも対策を講じてきた。

◆新型ミサイルを配備

 ハーレツによると、イスラエルは「シリアでのイラン軍の展開とヒズボラの軍事力増強を阻止するための攻撃の権利」を主張、一方のロシアは、シリアのアサド政権の後ろ盾として、「政権が国内での支配を取り戻す」ために反政府勢力を攻撃してきた。ロシアがイスラエルのシリアへの領空侵犯と攻撃に目をつぶることで、シリアでの両国の関係は微妙なバランスを維持してきたのだ。

 ところが、ロシア軍機撃墜で、「状況は一変」(シャリフ氏)した。シャリフ氏は「2015年のロシアのシリア介入以来最悪の事故」とした上で、イスラエルとロシアの「相互関係を損ねた」と主張する。それを決定付けたのは、ロシアによる迎撃ミサイルS300のシリア配備決定だ。10月上旬にも配備される予定で、イスラエルは「無責任」とこれに強く反発している。

 シリアが現在、保有している迎撃ミサイルは、S200という旧ソ連時代からの旧式。S300配備で、シリアに向かうイスラエル軍機が危険にさらされ、これまでのような空爆が実施できなくなるばかりか、イスラエルのベングリオン国際空港までが射程内に収まるとして、イスラエルは警戒している。

◆軍事バランス逆転へ

 シャリフ氏は、撃墜は「イスラエル・ロシア関係の分水嶺」と指摘、S300の配備によって「(第4次中東戦争の)1973年以来初めて、シリアとイスラエルの力のバランスが逆転する」とその重大性を訴えている。

 イスラエル軍は9月に入って、シリア空爆に関する異例の発表を行った。それによると、わずか1年半でシリア内の200の標的に対し、800発のミサイルを発射したという。イスラエル紙エルサレム・ポストの編集長ヤーコブ・カッツ氏は、コラム「ミサイル外交の時代」でこの発表について「素晴らしいことだが、驚きでもある」と複雑な反応を示した。

 イスラエル軍はこれまで攻撃を「認めることも、否定することもしなかった」と指摘した上で、この発表は「ロシアは弱く、アサド政権やシリアでのロシアの利益も守れない」と解釈される可能性があるとイスラエル軍の意図に疑問を呈した。その上、ロシアがシリアにS300を配備する「口実」を与えることにもなるとカッツ氏は指摘する。

 同氏は、この発表が「今回の危機につながった可能性がある」との見方を明らかにしている。イスラエルは撃墜後、シリア空爆を行っていないもようだ。カッツ氏は「次の試練もすぐにやってくる」と、シリア情勢の複雑化へ警鐘を鳴らした。

(本田隆文)

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