ワシントン・タイムズ・ジャパン

本当の意味の「日韓関係正常化」

 「本当の意味での」日韓関係の正常化とは、「日本が韓国に対し事を荒立てたりしない」という、従来の外交事なかれ主義の脱却をいうのかもしれません。冷静に考えてみれば、竹島問題で韓国が日本を挑発するのであれば、日本もそれを受けて立ち、国際社会を巻き込んで大事(おおごと)にしてしまえば良いのではないでしょうか。こうしたなか、現地時間17日の日米韓3ヵ国外務次官級協議後の記者会見見送りを巡り、興味深い「続報」が出て来ました。


鈴置論考と日韓関係

●優れた鈴置論考

 昨日の『「西側経済圏構築に後ろ向きな韓国」議論する鈴置論考』では、優れた韓国観察者である鈴置高史氏の最新論考をもとに、ともすればわが国のメディアが読み飛ばしがちな、米国による「西側経済圏」構想と、これに対する韓国の対応について、なぞってみました。

 問題の記事は、これです。

及び腰の韓国を米国は経済制裁で脅す 「西側経済圏」復活で「中国閉め出し」を図る


米国が「西側経済圏」を復活、中国閉め出しを図る。だが、韓国はソッポを向く。すると「それなら韓国にも制裁を加えよう」と米専門家は主張する。米中の新冷戦を韓国観察者の鈴置高史氏が読む。.<<…続きを読む>>

―――2021年11月23日付 デイリー新潮より

 記事自体は6000文字を超える長文であることに加え、相変わらず豊富な外部情報源などによる裏付けもあり、大変なボリュームであるにも関わらず、わかりやすく軽妙な文体という影響もあるのでしょうか、おそらく朝鮮半島問題に関心がある方ならば、知的好奇心を刺激されながらあっという間に読了してしまうでしょう。

 内容については昨日、当ウェブサイトでもごく簡単に触れていますが、まだの方は、ぜひご一読を願いたいと思う次第です。

 ちなみにこの鈴置論考、記事タイトルには「経済制裁」だ、「西側経済圏」だ、「中国閉め出し」だといった、一見すると刺激的な表現が並んでいますが、内容を読んでいただくとわかるとおり、これらの表現は決して誇張でもなんでもありません。

 というよりも、わが国の主要メディアが読み飛ばしている、米国のジョー・バイデン大統領の「西側だけでサプライチェーンを作る」という極めて重要な動きとその意義について評価した結果が、このタイトルの「経済制裁」、「西側経済圏」、「中国閉め出し」に結実しているのでしょう。

 わが国ではごく一部のメディアが社説などを通じ、「日韓関係は大切だ」、「現在の日韓関係を好転させるために、日韓両国政府が協議しなければならない」、といった、大変に周回遅れな議論を展開しているのですが、そのような社説などを執筆している方にこそ、鈴置論考を是非とも読んでいただきたいと思います。

●タテ軸とヨコ軸で考えよう

 さて、一連の鈴置論考に、他の論者にはあまり見られない「とくに優れた着眼点」があるとしたら、韓国を「日韓関係」だけでなく、「中韓関係」、「米韓関係」、「歴史」など、さまざまな視点から切り取って見せている、という点に尽きると思います。

 つまり、韓国を観察する際には、中国との関係、米国との関係、あるいは北朝鮮との関係などを踏まえておかねばならないという点を、鈴置論考を通じて学ぶことができる、というわけです。

 ただ、冷静に考えてみたら、本当はこれもわざわざ指摘されなければならない話ではないはずです。どこかの国、地域について議論するのであれば、「タテ軸」(歴史の流れ)と「ヨコ軸」(地理的な関係)をともに考慮することは、当たり前の話だからです。

 韓国について議論するならば、韓国に強い影響を与えている国々と、それらの国々に韓国がどう対応しているのか、そしてそうした対応が生じて来る歴史的背景はなにか、といった視点は大変に重要です。

「現在の日韓関係は非常に悪い」、「だから日韓関係を好転させなければならない」、などと主張する人たちは多いのですが、そのような人たちは、たいていの場合、大変に近視眼的だったりもします。

 想像するに、「日韓関係改善」を唱える人の思考回路は、こんな具合です。

■「日韓関係改善論」【想像ベース】


①日本にとって現在の韓国は、経済・産業上も、外交・安全保障上も、大変に重要な国である。

②しかし、韓国が日本との間でさまざまなもめ事を起こしており、これらについて国際法や国際社会の常識に従った解決も期待できない。

③だからこそ、日本が国際法に拘泥するのではなく、多少とも韓国に譲歩し、日韓関係の破綻を防ぐべきだ。

(【出所】著者作成)

●三段論法の結論部分がおかしい

 この点、現在の日本にとって、韓国はたしかに、外交的にも安全保障的にも、あるいは経済・産業的にも重要な相手国です。

 『台湾が9月も貿易額「3番目」に』などを含め、何度か当ウェブサイトで指摘してきたとおり、毎月公表される貿易統計上も、韓国は日本にとって3番目ないし4番目に重要な貿易相手国ですし、また、「日米韓3ヵ国連携」は日本の外交・安全保障上も大変に重視されています。

 ただ、ここで「韓国が日本にとって、未来永劫、重要な相手国であり続けるのか」と問われると、そこも大変に大きな疑問です。外交関係上は「永遠の同盟国」もなければ「永遠の敵対国」もないからです。

 というよりも、先ほどの「日韓関係改善論」の三段論法のうち、①と②についてはそのとおりかもしれませんが、それに続く③の部分が、②から論理的にうまくつながっていないのです。

 というよりも、③の考え方自体が、論理的に当然の帰結として導かれたものというよりは、どちらかといえば、「決めつけ」ではないか、とすら思えてなりません。

 むしろ、同じ三段論法を構成するなら、先ほどの「日韓関係改善論」ではなく、むしろ次の「日韓関係テーパリング論」の方が自然でしょう。

■「日韓関係テーパリング論」


①日本にとって現在の韓国は、経済・産業上も、外交・安全保障上も、大変に重要な国である。
②しかし、韓国が日本との間でさまざまなもめ事を起こしており、これらについて国際法や国際社会の常識に従った解決も期待できない。
③だからこそ、日本は経済、産業、外交、安全保障などにおける韓国の重要性を下げるべきだ。

(【出所】著者作成)

日韓協議は平行線?

●ひとつひとつの問題について正確な言葉を使わない韓国

 こうした論理的なゲームも大変に有益ですが、せっかく最新版の鈴置論考が出たタイミングでもありますので、日韓関係を巡る「現実」についても確認しておく価値はあるでしょう。

 『韓国警察庁長の竹島上陸から見える現在の日韓外交関係』などでも取り上げたとおり、韓国の金昌龍(きん・しょうりゅう)警察庁長は16日、日本領である島根県竹島に不法上陸しました。

 その結果、『日韓の「意見の相違」で日米韓共同記者会見取りやめに』で述べたとおり、ワシントンで現地時間17日に開かれた日米韓3ヵ国次官級協議後の共同記者会見が実施されず、現実にはウェンディ・シャーマン米国務省副長官のみが会見に応じたのです。

 こうした日韓間のイザコザから5日経過した22日、韓国の外交部で外務省の船越健裕アジア大洋州局長と韓国外交部の李相烈(り・そうれつ)アジア太平洋局長が日韓局長級協議を行ったようですが、これに関する話題が、韓国メディア『中央日報』に昨日、掲載されていました。

記者会見見送りから5日ぶりに対座した韓日…過去史めぐり平行線


―――2021.11.23 06:44付 中央日報日本語版より

 中央日報の記述によれば、22日の局長級協議で日本側は「独島(※韓国が不法占拠している島根県竹島のこと)に対する領有権主張」などの「従来の主張を繰り返した」のに対し、韓国側は「日本側のいかなる主張も決して受け入れられないという点を明確にした」のだそうです。

 すなわち、「独島は歴史的・地理的・国際法的に韓国の固有の領土」という韓国政府の原則を改めて表明したのでしょう(※余談ですが、そこまでおっしゃるわりに、日本が要求している国際司法裁判所=ICJ=への付託には頑なに応じないというのも不思議ですね)。

 もっとも、中央日報の記事には続きがあって、日韓双方は「強制徴用」(※自称元徴用工問題のこと)、「旧日本軍慰安婦被害者問題」(※自称元慰安婦問題のこと)、「輸出規制」(対韓輸出管理適正化措置のこと)、「汚染水放出」(※処理水放出のこと)などについても話し合い、平行線だったのだとか。

 というよりも、自称元徴用工問題にせよ、自称元慰安婦問題にせよ、輸出管理適正化措置にせよ、ALPS処理水海洋放出にせよ、韓国側が使う用語がことごとく間違っているというのは、いったいどういうことなのでしょうか。

 正直、まず韓国政府が改めなければならないのは、ひとつひとつの問題について、正確な用語すら使おうとしない態度ではないかと思う次第です。

●ワシントンで虚を突かれた韓国

 この日本政府による共同記者会見見送りについては、当ウェブサイトでは『日本が会見見送りで米国のメンツ潰した「本当の意味」』でも報告したとおり、「FOIP」、つまり「自由で開かれたインド太平洋」を推進している結果、日本の外交的立場が強まった、という側面があります。

 そして、中央日報の記事にも、個人的に賛同できるものが、ときどきは掲載されます。日米韓3ヵ国外務次官級会合の会見見送りを巡って昨日掲載されていた、次の記事が、そうです。

【グローバルアイ】ワシントンで虚を衝かれた韓国

―――2021.11.23 10:23付 中央日報日本語版より

 中央日報のワシントン特派員の方が執筆した記事ですが、「日本の外交の繊細かつ着実なアプローチに魅了される米国人が多い」などと(謎に)絶賛したうえ、17日の会見見送りについて、次のように述べます。

「日本が<中略>会見への不参加を米国に通達したことから、計画が狂った。日本側の論理は、日本の記者団が森健良外務省事務次官に金庁長の独島訪問について質問すれば強硬な答えを出すしかないため、最初から出席しないということだったそうだ」(※文中の「独島」などの誤った表現については原文ママ)。

 そこで、仕方がなしにシャーマン氏が単独会見開催を決断した、というのです。

 ただ、ここで不思議なのは、なぜ崔鍾建(さい・しょうけん)韓国外交部第1次官がシャーマン氏とともに2人で会見をしなかったのか、という点でしょう。

 その答え合わせが、これです。

「米国は崔鍾建(チェ・ジョンゴン)韓国外交部第1次官も反論に出れば『同盟』の代わりに『独島』が記者会見を支配しかねないという懸念を韓国に伝え、どうするか聞いたという」。

 つまり、もしも崔鍾建氏が記者会見に出れば、記者団からは竹島に関する質問が殺到しただろう、というのです。だからこそ、この記事を執筆したワシントン特派員の方は、「韓国には(参加するという)選択肢はなかった」、と述べているのです。

●中央日報「独島問題を国際化した日本」

 もっとも、さらに興味深いのが、日本の対応が竹島問題を「国際社会」に引きずり出した、という指摘です。

「日本は独島問題を韓日の塀の外に引き出す『成果』も上げた。ワシントンで米国高官が『韓日間の異見』に言及し、外信は『島をめぐる紛争』(ロイター)、『争い』(ガーディアン)、『揉め事』(ブルームバーグ)のために記者会見が行われなかったと報じた」。

 じつは、竹島問題自体、日韓両国の立場を離れ、「実効支配している側が韓国である」と見れば、わざわざ国際社会で騒ぎ立てるのは、韓国にとって賢明な行動とはいえません。竹島が紛争地域である、と国際社会が注目すれば、それだけ「どちらの主張に理があるのか」という点に関心を持つ人も出てきてしまうからです。

 というよりも、竹島問題自体、日本政府がこれまで、事を荒立てないようにしてきたというフシもあります。

 韓国を刺激しないことを優先したのか、それとも同盟国である米国のメンツを潰さないようにしてきたのかはしりませんが、韓国が日本領を不法占拠しているというのが日本政府の言い分なのであれば、それをもっと大きな声で世界に宣伝する方が良いに決まっています。

 そして、今回の会見拒絶により、竹島問題の国際化に成功した、というのが同記者の見解なのです。

とくに、次の記述などは秀逸だと思った次第です。

「独島の国際紛争化は日本にとって得になることだ。韓国が実効的支配をする固有の領土が、まるで領有権紛争地域であるかのように見せることに成功したわけだ」。

日韓関係の「真の正常化」

 さて、上記の議論もさることながら、個人的にかなり以前から、ある種の「興味深さ」を感じていたことがあるとすれば、韓国自身がむしろ積極的に、ことあるごとに竹島問題で日本を刺激し、挑発するような行動を繰り返してきたことです。

 著者自身の想像ですが、韓国が欲しているのは竹島そのものではなく、「竹島という領土を日本から取り返した」という「実績」なのだと思うのです。

 つまり、史実では戦争などで日本にめぼしい勝利をおさめたことがない韓国が、「日本に勝った」という「実績」(というよりも「虚構」)を誇ることができる数少ない分野のひとつが、竹島問題なのではないでしょうか。

 そういえば、安重根(あん・じゅうこん)を筆頭に、韓国社会で「英雄」とされる人物を列挙していくと、「日本に抵抗した(とされる)人物」が多く見られますが、これも結局のところ、竹島問題で日本を挑発する姿勢と軌を一にしているのです。

 その意味では、日本政府が「積極的に事を荒立てたりしない」という従来の姿勢を転換し、むしろ韓国の行動に対しては、国際社会に対してわかる形で怒りを伝えていくという方向に舵を切ったのであれば、それは大変に好ましい話ではないでしょうか。

 こう考えていくと、「日本が韓国に対して譲歩をしなくなること」を「日韓関係の『正常化』」と呼ぶのであれば、現在の日韓関係は、まさに正常化に向かっているのだ、と言えるのかもしれません。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20211124-01/

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