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【金王朝】世襲維持 叔父処刑が転換点 -韓国野党「国民の力」議員 太永浩氏

金正恩統治10年-私はこう見る(1)

崩壊を彷彿させる理念離れ

 2011年12月17日に北朝鮮の金正日総書記が死去し、三男・正恩氏が最高指導者の地位を後継してから間もなく10年となる。大方の予想を覆し、正恩氏は国内外の難題を乗り切って独裁体制を維持し、中長期的な統治も可能とする見方さえ出始めている。韓国の元政府高官や高位脱北者らに、10年を振り返りながら北朝鮮の今後を見通してもらった。
(ソウル・上田勇実)

韓国野党「国民の力」議員 太永浩氏

テ・ヨンホ 1962年、北朝鮮平壌生まれ。外務省に入り、93年からデンマークやスウェーデンの大使館に勤務。駐英公使時代の2016年、家族と共に韓国亡命。昨年4月の韓国総選挙で保守系野党「国民の力」の公認候補として出馬し、当選。

 金正日総書記が死去した時、私は平壌で勤務していたが、正恩氏に対する期待は当初高かった。人々は何か変わるのではないか、経済状況が好転するのではないかと考えた。

 当時、正恩氏は北朝鮮の実情で外貨は稼げないと判断し、観光業を推奨した。スイスは山ひとつで観光客を誘致しているのに、なぜわれわれはこんなに美しい山があるのに儲(もう)けられないのかと言った。それで馬息嶺スキー場や元山の葛麻リゾートなどが開発された。

 正恩氏は航空機で稼ぐ必要もあり、北朝鮮人民にも金持ちが増えたからと言いながら、第1段階として5万人が海外旅行に出掛けられる準備を命じた。これは実現しなかったが。

 ところが、13年になってムードが変わり始めた。その前年に「5年以内に祖国統一の準備を終わらせる」と述べたものの、韓国との軍事境界線を視察して在来兵器の老朽化に驚き、1年後の13年3月に党の会議で「今後は持っている全ての資源を核に集中する」と宣言し、「核・経済併進路線」を打ち出したのだ。

 恐らく正恩氏は、祖父や父を横で見ながら北朝鮮統治はそんなに難しくないと思っていたようだ。だが、実際に自分でやってみると、国を開放すれば世襲システムが維持できなくなると思ったのだろう。同年12月、最側近で義理の叔父だった張成沢氏を処刑することで、北朝鮮国内の引き締めを強化した。張氏処刑が大きな転換点になったと思う。

 ハノイでの米朝首脳会談が決裂した後、正恩氏は周囲への不信感を募らせたようだ。自分がトランプ大統領とのディールに失敗したので、周囲からばかにされはしまいかと。その結果、問責人事が繰り返され、幹部たちは頻繁に交代した。正恩氏の傍らに仕える幹部たちは、正恩氏の顔色を極度にうかがうような態度を取るようになった。恐怖政治で押さえつけられているが、権力層の間に固い絆はない。

 正恩氏は新型コロナウイルスの感染を防ぐ、いわゆる「NK(ノースコリアの略)防疫」に成功したと思う。徹底した国境封鎖のおかげもあろうが、そのやり方は自己流だ。

 北朝鮮は国際社会が供給しようとした約300万回分のワクチンを事実上拒否した。北朝鮮の統治システムでは、外部から危機が迫った時、指導者が救世主になって人民を救い出さなければならない。もしワクチンを大量に導入したら、コロナ防疫は正恩氏が克服してくれたのではなく、他の国でワクチンを開発したためということになってしまう。

 正恩氏が出席する行事では参加者たちはノーマスクが目立つ。まるで正恩氏さえ参加すればコロナが避けて通ると言わんばかりだ。実際には正恩氏をはじめ幹部たちの多くがワクチン接種を済ませているからできるのだろう。

 とはいえ、人民の正恩氏に対する失望はかなり広がっている。本来、共産主義国家では思想・文化で体制維持を図ろうとする。北朝鮮では体制を理念的に守護しようとする党員たちを常に引き締める「教養」が重視されるが、近年、それが機能せず、代わりに法律に基づく刑罰に頼ろうとしている。1月採択された「反動的思想・文化排撃法」もその一つだ。

 注目すべきは、かつてソ連や東欧が共産党員への呼び掛けを諦め、法的強制力や軍隊に頼ったことが崩壊につながったことから、金日成主席や金正日総書記が北朝鮮で同じことが起きてはならないと警鐘を鳴らしたということ。今、北朝鮮はソ連・東欧が崩壊した直前の状況を彷彿(ほうふつ)とさせている。(談)


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