ワシントン・タイムズ・ジャパン

徴用工「金銭債権の差押」の衝撃

金銭債権の差押自体、「一線を越えてしまった」可能性がある

 今から2年以上前の『徴用工判決問題、三菱重工の知財差押えという動きをどう見るか』『韓国経済に「突然死リスク」があるとすれば「資金ショート」』などで取り上げた内容が、いまさら現実化したようです。それは、自称元徴用工判決問題に関連する、「金銭債権の差押」です。非上場株式や知的財産権などと比べれば、一般に金銭債権は、差押と売却がとても簡単な資産であり、売却に向けて大きく前進した格好です。というよりも、「越えてはならない一線」を、いとも簡単に越えてしまった可能性すらあります。


日韓歴史問題

●法的に決着済みの歴史問題

 以前から報告してきたとおり、日韓の歴史問題には、基本的に「法的側面」と「実質的側面」から、本質的には少なくとも2つの問題があります。

■日韓歴史問題の2つの本質的問題点


①本来、日韓間のあらゆる請求権に関する問題は、1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に決着しており、慰安婦問題は2015年12月の合意で最終的かつ不可逆的に解決済みである。
②韓国側が主張する「被害」の多くは、(おそらくは)韓国側によるウソ、捏造のたぐいのものであり、最終的には「ウソの罪をでっち上げて日本を貶めている」のと同じである。

 まず、法的側面でいえば、1965年の日韓基本条約・日韓請求権協定により、日韓間の「過去の問題」はすべて「完全かつ最終的に」決着しており、これを蒸し返すこと自体が条約違反であり、日本としては受け入れられません。

 もっとも、自称元慰安婦問題に関しては、1993年のいわゆる「河野談話」を含め、日本政府の対応が非常にまずかったこともあり、結果的に「蒸し返し」を許してしまった格好ですが、この問題にしたって、(毀誉褒貶はありますが)2015年12月の慰安婦合意によって最終的かつ不可逆的に解決しました。

 したがって、日韓間には、「法的には」、歴史問題はまったく存在しません。

●「韓国の感情に配慮せよ」が誤っている理由

 ところが、いわゆる「日韓友好論者」の一部は、「韓国の感情に配慮せよ」、「韓国が実際に被害を受けたと述べているのだから、法律論を振りかざすのではなく、相手が『もう良い』というまで謝るのが筋だ」、などと主張します。

 しかし、この主張については妥当ではありません。

 それどころか、「韓国にとって」有害ですらあります。なぜなら、上記②で指摘したとおり、そもそもこの「被害を受けた」と称していること自体、その多くが韓国側のウソ、捏造のたぐいのものであり、それを主張すること自体が、国際社会で日本の名誉と尊厳を傷つけているのと同じだからです。

 また、韓国が歴史問題を主張すること自体、国際社会において日本の名誉や尊厳が傷つけられるという側面もあるのですが、最近だと、それ以上に韓国自身の評判を大きく引き下げる効果の方が大きくなってきたのではないでしょうか。

 その典型例が、東京五輪でしょう。

 詳しくは『日韓関係:大韓体育会会長のウソと「東京五輪の教訓」』などでも指摘しましたが、今回の東京五輪では、韓国が主張する「旭日旗」だ、「独島」だといった「難癖」に対しては、日本はほとんど正面から相手にせず、それどころか国際五輪委(IOC)からはなかば呆れられていたのではないかと思います。

 また、韓国の行動は、日本国内における「韓国の味方」を減らす効果をもたらしていることも間違いないでしょう。

 新聞、テレビなど、ごく限られたメディア(マスメディア、あるいはオールドメディア)が情報の流通をすべて独占していた時代ならともかく、社会のインターネット化が進み、「集合知」が威力を発揮しつつある現代の日本社会において、歴史問題を巡るウソ、捏造など、すぐにバレます。

 それどころか、韓国がウソ、捏造を唱えること自体、日本社会にいわゆる「嫌韓」と呼ばれる人たちを増やし、韓国に対する理解者を減らしていく以外という効果が非常に大きいのです。

 もしも本当に日韓友好を願うなら、まずは韓国に対し、「貴国は国同士の約束や国際法を守らないと、国際的な信頼を失うよ」、「ウソや捏造で相手を傷つける行動は、最終的に貴国に跳ね返っていくよ」、とちゃんと指摘してあげないといけないのでしょう(※もっとも、それは「日韓友好を願うなら」、ですが)。

自称元徴用工問題

●自称元徴用工問題の4つの付随論点

 こうしたなか、当ウェブサイトでいう「自称元徴用工問題」とは、韓国側で「戦時中に強制徴用された」と自称する者やその遺族らが日本企業を相手取って続々と訴えを起こしている問題のことであり、とりわけその中核を占めているのは、次のような「各論」です。

■自称元徴用工問題の「各論」


①韓国大法院による2018年10月と11月の日本企業敗訴判決
②日本政府による日韓請求権協定に沿った問題解決手続に韓国政府がまったく応じなかったこと
③自称元徴用工らの側による日本企業の資産差押と売却手続(売却スルスル詐欺)
④長崎県端島(いわゆる「軍艦島」)などでの「朝鮮人強制連行・強制労働」という歴史捏造

 このうち、①については、今から約3年前に韓国の最高裁に相当する大法院が、日本企業に対し、相次いで損害賠償を命じる確定判決を下した事件であり、これについては結果として、1965年の日韓請求権協定にいう「完全かつ最終的な」解決、という条項に反してしまっています。

 したがって、もしも日本企業や日本政府がこの判決を認めたならば、日韓請求権協定に基づく日韓のすべての法的基盤が転覆・崩壊しかねません。これが、「日韓関係が法的に破綻の危機に瀕している」、という問題点です。

 この点、日本政府も、被告企業である日本製鉄や三菱重工も、現在のところは「法的には決着済みだから、損害賠償に応じる義務はない」とする姿勢で一貫しており、これに加えて国際法違反の状態を是正することを、韓国政府に求め続けています。

●韓国政府は話し合いや仲裁に応じなかった

 ただ、この問題は①で終わるわけではありません。個人的に、韓国政府の姿勢を見るうえで、とくに重要だと考えているのは、なんといっても②の論点です。

 日本政府の側は「日韓請求権協定をあくまでも守る」という姿勢を堅持しており、この問題を巡っても、協定の定め(第3条1)にしたがい、まずは韓国に対し外交的協議を2019年1月に申し入れました。

 しかし、韓国側がこの申し入れを4ヵ月以上無視した挙句、あろうことか、韓国の李洛淵(り・らくえん)首相(当時)はこの問題を巡り、「対応には限界がある」と述べて匙を投げてしまいました。

 これを受け、日本政府は協定の次の手続、つまり第3条2に定める国際仲裁手続への移行を決断し、韓国側には5月20日付で申し入れたのですが、韓国はこの手続をも無視。最終的に、7月19日になって、韓国による「手続違反」まで確定してしまったのです。

 したがって、「国際的な条約に抵触する最終判決を出す国だ」という意味では韓国司法府に問題がありますが、

 「国際的な問題を解決する意思も能力も持たない」という意味では、韓国政府にも深刻な問題がある、と指摘しても間違いではないでしょう。

 これを韓国側から見れば、「この問題を日本政府と協調し、友好的かつ平和裏に解決するチャンス」を失っただけでなく、「司法府が国際条約を守らない、政府も当事者能力を欠いている」という国際的な評価を作り上げたわけであり、「韓国自身が自国の信頼を傷つけた」という意味では、まさに「セルフ経済制裁」でしょう。

●瀬戸際戦術としての売却スルスル詐欺

 もっとも、韓国側では自称元徴用工問題に対する政府、司法がコントロールを失った状態にあります。

 付随論点として出てくる③については、当ウェブサイトでは長らく「売却スルスル詐欺」のようなものだと指摘して来たのですが、その理由は、韓国側で差し押さえられている資産が、非上場の合弁会社(JV)の株式であったり、知的財産権(特許権や商標権)であったりと、売却がとても難しいものばかりだったからです。

 実際、2社に対する判決から3年近くが経過するにも関わらず、(高裁レベルで敗訴した不二越を含めた)3社の在韓資産が、差し押さえられはしたものの、依然として売却される兆候はありません。

 それどころか、『韓国地裁が三菱重工業の即時抗告の「ごく一部」を棄却』などでも指摘したとおり、資産差押手続、売却に向けた手続を、それこそサラミを薄く、薄~く切るように、本当に少しずつ、少~しずつ進めている状態にあります。

 これは、北朝鮮が好む「瀬戸際外交」そのものでしょう。

 日本政府は「日本企業に不当な不利益が生じること」を「越えてはならない一線」として設定しているのですが、韓国の原告側は、その「越えてはならない一線」を越えようとしたり、踏みとどまったりすることで、せいいっぱい日本企業を挑発しているのだと思います。

 もちろん、その目的は、自分たちにとって都合がよい仕組み――たとえば自称元徴用工を救済するための「基金」を作り、その「基金」に日本政府や日本企業からのカネを入れさせること――を日本が作ってくれることを期待してのものでしょう。

 とくに、菅義偉総理大臣は、「日韓関係を正常化するためのキッカケは韓国が作らなければならない」とする姿勢で一貫していますが、今朝の『日本の「政権交代」に期待を示す?韓国首相の問題発言』で見たとおり、「脇の甘い首相」が日本に誕生することを韓国政府が期待しているフシもあります。

 だからこそ、私たち日本国民は、日韓問題も含め、すべての問題に対処するためには、選挙で適切に行動しなければならない、というわけです。

金銭債権差押

●「瀬戸際」から一歩踏み込んだ韓国

 さて、普段から申し上げているとおり、自称元徴用工問題を巡る韓国側の対応には、典型的な瀬戸際戦術が含まれています。瀬戸際戦術においては、「越えてはならない一線」の手前で相手を挑発し、その一線を少しだけ越え、またすぐに引っ込む、といったことを繰り返します。

 ただ、この瀬戸際戦術に対しては、短期的に非常に有効な対処法があります。

 それは、「無視すること」、です。

 日本政府が「越えてはならない一線」を示してしまったことが、日本の戦略として正しかったのかどうかについては、多少の議論はあるでしょう。ただ、この点を除けば、日本企業も日本政府も、「日本企業に不当な不利益が生じない」という一線を越えない限りは、基本的には「丁寧な無視」を貫いているように思えます。

 もちろん、完全に無視しているわけではなく、手続のひとつひとつに対し「即時抗告」を出すなどの対応も行っているのですが、個人的にはこうした「即時抗告」の対応すら必要ないとも思っているほどです。

 つまり、非上場株式や知的財産権に差押をしてしまったものの、どうせ売却出来っこないのですから、あとは放置していれば良いのではないでしょうか。

 ただ、この「わざと換金が難しい資産を差し押さえ、一線の向こうから挑戦ダンスをする」という彼らの手法が破られた可能性があります。

 昨日、複数のメディアがこんなことを報じたからです。

日本企業債権の取り立て命令 元徴用工訴訟―韓国裁判所


―――2021年08月18日23時07分付 時事通信より
強制徴用被害補償のため…三菱の韓国内現金資産、初の差し押さえ


―――2021.08.19 07:02付 中央日報日本語版より

 複数の日韓などのメディアによると、三菱重工の原告側の申し立てにより、三菱重工が韓国企業から受け取るべき商品代金の差押・取立命令を、水原(すいげん)地裁安養(あんよう)支部が出したのだそうです。

 時事通信などは、「原告側弁護士が18日に明らかにした」としています。

 これで、フェーズが変わりました。

●金銭債権の換金の事例

 これについて確認する前に、「金銭債権の換金」とは、何を意味するのでしょうか。

 今から約2年半前の『徴用工判決問題、三菱重工の知財差押えという動きをどう見るか』『韓国経済に「突然死リスク」があるとすれば「資金ショート」』などを含め、当ウェブサイトでも長年お伝えしてきたとおり、非上場株式や知的財産権と異なり、金銭債権の場合は換金がとっても簡単だからです。

 そもそも、「金銭債権の金額」は確定していますので、換金のための評価手続は必要ありません。また、記事から判断するに、差し押さえられたのは韓国企業・LSエムトロンに対する売掛債権です。一般に通常の商取引から生じる単独の売掛債権の支払いサイト(期日)は長くても数ヵ月程度です。

 一般に、換金がどのようになされるのか、簡単な設例で確認してみましょう。

■設例:金銭債権の換金


・【前提条件】ある日本企業A社が韓国企業B社に対して、「支払サイト90日」という条件で製品を納品した。A社はB社に対して売掛金という金銭債権を保有し、B社はA社に対して買掛金という金銭債務を負っていて、B社は締日から90日以内にこの買掛金をA社に支払わねばならない。
・【設例】A社を自称元徴用工のCが訴え、韓国の裁判所から損害賠償命令を勝ち取った。しかし、A社は日本の会社であり、日本国内においては韓国の裁判所の賠償命令に強制執行力はない。CがA社からカネを回収するには、どうすれば良いか。
・【金銭債権の回収】CはA社がB社に対して有しているこの売掛金を差し押さえた。この場合、B社はA社から納品された製品の買掛金を、90日以内に、A社に対してではなく、Cに対して支払えば良い。
・A社としては本来ならばB社から受け取るべきだった売上代金を受け取ることができず、その売上代金はA社の原告であるCの手に渡り、結果的に、「A社が直接、Cに金銭を支払った」のと同じ経済効果が生じる。

 この点、あくまでも日本法の考え方に従えば、債務者Bとしては、債権者Aに対して金銭債権を支払うことが難しくなります。現実的には供託などの仕組を利用し、問題が解決するまでの間、裁判所に供託することが考えられますが、その場合であっても、Aにとっては受け取れる売掛代金が入って来ないことになります。

 つまり、この時点で「日本企業に不当な不利益が生じた」と言えなくもないのです。

 そして、「売掛債権」に手を掛けた実例が発生してしまったということは、実務上、日本企業は今後、韓国との「掛商売」をやらない方が良い、ということでもあります。ついに日本企業も韓国との間で「現金商売」に切り替えるタイミングが到来してしまったのかもしれません。

●子会社の債権差押という「謎」

 ただし、記事を読んでいて不思議な点もあります。

 あれほどまでに、「売却スルスル詐欺」に拘って来たかに見える韓国の原告・司法が、いとも簡単に金銭債権の差押に手をかけてしまったこと自体、大変に唐突感があります。

 非上場株式や知的財産権の差押は、単純に「売却ができなくなる」というだけの話であり、権利行使にまったく問題がなく、放置しておいてもさほどの実害はないのですが、金銭債権の場合はそうではありません。

 金銭債権の場合は差押も換金も容易であるため、「売却するぞ、売却するぞ、今度こそ本当に売却するぞ~」、の手が使えませんし、(あくまでも報道が事実ならば、)差押をしたこと自体が企業にとっては「入金が滞る」という実害をもたらすことです。

 したがって、金銭債権の場合は、差し押さえた瞬間、「日本政府がこれまで繰り返し警告していた『日本企業への不当な損害』が発生してしまった」、と言えなくもありません。

 不自然な点は、それだけではありません。じつは、今回差し押さえられた金銭債権は、LSエムトロンの三菱重工本体に対する売掛債権ではなく、三菱重工の子会社に対する売掛債権である、という報道もあるのです。

 「訴訟当事者に対する金銭債権ではなく、その子会社に対する金銭債権を差し押さえる」というのは、日本法ではちょっと考え辛い差押パターンです(私見ですが、法人格否認法理などを使えば不可能ではないものの、極めて困難です)。

 これはもう、韓国司法府による日本企業に対する不法行為と見ても良いのではないでしょうか。

 日本政府の対応を待ちたいと思います。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20210819-03/

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