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韓国左派メディア論考に見る「日韓関係の本質的変化」

途中の事実誤認は酷いが、結論的には同意できる箇所もある、不思議な論考

 少し前から当ウェブサイトにて取り上げたいと思っている記事がありました。韓国メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)に木曜日掲載された、「日本が韓国を飼い馴らそうとしている」などとする記事です。主張自体、事実誤認もいくつか混じってはいるのですが、不思議と「結論部分」では同意できる部分もいくつかあるのです。

文在寅氏を歓待しよう!

●文在寅氏は日本に来る?来ない?

 先日の『菅総理、「文在寅氏来日なら「丁寧に対応」=記者会見』では、菅義偉総理大臣が緊急事態宣言に関する記者会見の場で、ジャパンタイムズの記者から文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領訪日の可能性について尋ねられた、とする話題を取り上げました。

 該当する会見(※首相官邸ウェブサイト・7月8日付『新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見』参照)については、現時点で文字起こしがなされているため、その全文を紹介しておきたいと思います。

記者


ジャパンタイムズの杉山です。総理にお伺いします。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が五輪に合わせ訪日する意向だと一部で報道されていますが、総理として文大統領と日韓首脳会談を行いたいというお考えでしょうか。また、行うのであれば、何らかの前提条件を求めるのでしょうか。

菅義偉総理大臣


まず、開会式への韓国からの出席者については、まだ決定していない、こういうふうに承知しています。その上で申し上げれば、現在の日韓関係というのは、正に旧朝鮮半島出身の労働者問題、あるいは慰安婦問題などによって非常に厳しい状況にあるというふうに思っています。日韓両国のこうした懸案を解決するためには、やはり韓国が責任を持って対応していく、このことが重要だと思います。引き続き、韓国側に適切な対応を強く求めていくという立場に変わりはありません。ただ、その上で、訪日される場合は外交上丁寧に対応するということは、ここは当然のことだというふうに認識しています。

●それって「慇懃無礼」ってことでは?

 あくまで個人的印象ですが、菅総理の「外交上丁寧に対応」の部分については、「いかにも菅総理らしいなあ」、と感じました。

 当ウェブサイトのコメント欄でも何人かの方が指摘されていましたが、「外交上は」丁寧に対応する、というのは、日本語でいうところの「慇懃無礼(いんぎんぶれい)」という態度を連想してしまうからです。

 「丁寧」が何を意味するのかはよくわかりません。

 庶民派の文在寅氏を某有名チェーン店にお連れして、ビッグハンバーガー(仮)やナックマゲット(仮)、ハッピーセット(おもちゃつき)で歓待するのも、ある意味では「丁寧な対応」でしょう。

 (※この記述を「冗談でしょう?」「あまりふざけないでよ」、などと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そのような方にこそ、文在寅氏が現実に2017年12月、中国での「独りメシ」を楽しまれたというエピソードをぜひとも思い出していただきたいと思う次第です。)

 あるいは、個人的に一押しでお勧めしたいのは、韓国が2013年9月、東京五輪決定直前に嫌がらせのように「輸入規制」を適用した、青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉の8県の水産物で歓待することです。

 ここで、「海のない栃木県と群馬県が含まれているのはおかしいじゃないか」とのツッコミを入れたいという方もいらっしゃると思いますが、「ツッコミ」であれば当ウェブサイトに対してではなく、韓国政府に対してどうぞ、とだけ申し上げておきたいと思う次第です。

ハンギョレ新聞記事と日韓関係の変質

●ハンギョレ新聞「日本は韓国を飼い馴らそうとしている」 

 さて、冗談はさておき、先日も少しだけ、記事タイトルのみを紹介したのが、韓国メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)に7月8日付で掲載された、次のような記事です。

 ざっくり言えば、「日本が北東アジア秩序をめぐり『韓国を飼い馴らそう』としている」、という主張でしょう。

 大変に残念ながら、初歩的な事実誤認も大変に多く、ここに書かれた内容をそのまま「是」とすることはなかなか難しい部分もあります。

 ただ、それと同時に、韓国の「左派」の思考の一端に触れることができるという意味では、それなりに有益です。そういうわけで、読み方としては、事実認識の誤りの部分については「そうじゃないでしょう」とツッコミを入れつつも、どこか興味深い記述はないか、探してみる、というのが最も有益でしょう。

 本稿では、この2本の記事のうち、おもに(1)に焦点を当て、韓国「左派」から見た日韓関係の終焉に関する認識をなぞってみたいと思います。

●「アップグレードに失敗した韓日関係」

 まずは、この記述です。

「日本による韓国に対する半導体・ディスプレイ素材の輸出規制から7月1日で2年が過ぎた」。

 日本が韓国に対する輸出「規制」を課した事実はありませんし、「半導体・ディスプレイ素材」と決めつけているあたりで、思考の硬直性を感じてしまう次第ですが、このあたりはべつにハンギョレ新聞だけの問題点ではありませんので、とりあえず無視しましょう。

 記事はソウル大学日本研究所の「ナム・ギジョン教授」に対するインタビューで、ナム・ギジョン教授(※漢字名称が示されていないので、本稿ではこう表記します)は次のように指摘した、というものです。

「韓日関係が大転換時代にふさわしいアップグレードに失敗し、日本が北東アジア秩序をめぐり『韓国を飼い馴らそう』としているのが原因。韓日関係は長期的な低強度の複合対立の時代を迎えた」。

 このあたり、日本が韓国を「飼い馴らそうとしている」という指摘には同意しませんが、少なくとも日韓関係が複合的な対立関係にあるという点については、当ウェブサイトとしては全面的に同意します。

ナム・ギジョン教授の提案の要諦は、こうです(※なお、本稿では、意味を変えない範囲で、日本語表現については部分的に修正したうえで要約していることがあります)。

①韓国が新たな国際秩序形成で主導的な役割を果たすにしても、中国との軍事的対決の最前線に立たないこと
②朝鮮半島平和プロセスの再稼働の家庭で日本との戦略的な意思疎通を強化すること

 そもそも、韓国が「新国際秩序形成」において「主導的な役割を果たす」とは思えませんが、「中国との対決を避ける」という主張が当然のように前提条件に入っている時点で、大変に興味深いと感じざるを得ません。

 また、「日本との戦略的な意思疎通」云々の主張については、残念ながら、韓国人にはありがちな「日本が悪い」論に終始しているフシもありますが、ただ、逆にいえば、私たち日本の立場からすれば、韓国を国家戦略上、どう位置付けるべきかを知るうえで、間接的に有益でもります。

●「日本に原因がある」論だが、主張は単純ではない

 さて、このナム・ギジョン教授の「韓日関係のアップグレード」という発言は、「韓日関係がこれほど長きにわたり改善のきっかけを見出せないのは、何が原因か」とする質問に関連して出て来るものです。

「現状としては、日本が『歴史問題』対立の技術的な解決策を受け入れられずにいることが原因だ」。

 これは、いったいどういうことでしょうか。

 ナム・ギジョン教授の指摘は、こうです。

「2018年10月の韓国最高裁の強制動員賠償判決(※自称元徴用工判決のこと)と2015年の『12・28合意』(※日韓慰安婦合意のこと)以降、韓国は歴史的基本原則を損なわない程度に何度か提案を行っているが、日本は『1965年の韓日基本条約と請求権協定を揺るがすいかなるものも認めない』というひとつの立場のみを固守している」。

 お言葉ですが、「1965年の日韓基本条約と請求権協定を揺るがすいかなるものも認めない」というのは、国家として当然の対応でしょう。韓国も日本と同様の「法の支配」を受け入れている国であれば、そもそもこの点に疑念をさしはさむこと自体が不自然です。

 ただ、逆にいえば、こんな発言が出て来ること自体、ナム・ギジョン教授の論理が「近代法治国家」のそれとは無関係な場所にあることを示唆しています。先ほど申し上げた、「記事の主張にはおかしな点もあるが、結論的に参考になる部分もある」、というのは、そういう意味です。

 要するに、「日本に原因がある」という議論ですが、その主張は決して単純ではない、ということです。

●日本が韓国を「飼い馴らす」?はて、そうでしょうか?

 ナム・ギジョン教授のお話は、こう続きます。

「韓国最高裁の判決が履行されれば、日本の立場からは『1965年体制』が崩れると考えているのだ。多分に政治的な主張であり、歴史的な経緯や国際法の法理から見ても筋の通らない話だ」。

 この発言のうち、韓国の勝手な理屈が述べられることが多い「歴史的経緯」とやらは脇に置くとして、「多分に政治的」、「国際法の法理から見て筋が通らない話」の指摘は、むしろ韓国大法院判決の方にこそ当てはまる話です。

 つまり、この部分において齟齬が生じているため、どこまで行っても平行線、というわけです。

 その意味では、大変、参考になります。

 もっとも、ナム・ギジョン教授は「日本がそのような主張を掲げて交渉しようとしないことが今の最大の問題だ」としたうえで、次のように主張します。

「日本がこのような『神経戦』を繰り広げるのは、韓国を『飼い馴らそうとしている』からだと考えられる。日本の北東アジアの秩序認識と構想に韓国が従うことを要求しているのだ」。

 はて、そうですかね?

 そもそも、日韓の平行線が行き着く果ては、韓国が「国際的な条約を反故にする判決を放置する国である」という事実でしょう。

 事実、『深まる日台関係:5月の合計貿易高も「台湾>韓国」に』『日本の金融機関、香港と韓国への与信額が減少傾向に』などでも述べたとおり、すでに日本企業はジワリと「脱韓国」の動きを強めています。

 当ウェブサイトに言わせれば、日本が掲げているのは「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」という構想であり、「北東アジアの秩序認識と構想」など掲げていませんし、ましてや韓国に対し、FOIPを受け入れるように要求しているという事実すらありません。

 おそらく日本がやろうとしていることは、「国際的な法秩序に従った国の優遇」と、「そうではない国に対する優遇措置の撤廃」だと思うのです。

日韓新時代

●「朝鮮半島平和プロセス」vs「FOIP」

 ただし、ナム・ギジョン教授の考え方は、結果的には当ウェブサイトとして、かなりの範囲、同意できる部分もあります。

「地政学的な大変動の中で、日本の構想が朝鮮半島平和プロセスによってゆがめられている状態である」。

 この記述、「日本の」を「日米の」に言い換えれば、まったくそのとおりです。

 地政学的に、日米が中国との対決を選びつつあるなか、自由・民主主義陣営の国でありながらかたくなにFOIPにコミットしない、あるいは表面的にコミットしたふりをしながら頑なに中国や北朝鮮に配慮する姿勢は、日米のFOIP構想の円滑な推進を歪めているといえます。

 韓国が「歴史認識」を理由に、かたくなに国際法を守ろうとしないのも、結局は韓国が「国際法を守る国なのかどうか」という「価値観」の問題でもある、というわけです。

ナム・ギジョン教授は、こう述べます。

「現在の対立は歴史的な淵源が深く、地政学的にも広い」。

 くどいようですが、この部分に関しても、結論的にはほぼ完全に同意します。

 いや、「歴史対立」というよりも「基本的価値の対立」――、すなわち、「日米英豪」などの「海洋勢力」と「中露朝」などの「大陸勢力」の対立、とみるべきだと思うのです。

さすがハンギョレ新聞、見ている角度は異なれど、結論的には正しい部分もある、ということです。

●左派から見ても「文在寅氏が日韓関係を壊した」

 さて、ナム・ギジョン教授は日韓関係の問題の原因について、こう述べます。

「原則論的に言うならば、問題の原因は日本の植民地支配にあり、日本が解決すべき問題だ」。

 これも、普通に読めば、「聞き捨てならない発言」であることは間違いありません。

 ただ、先ほど申し上げたとおり、ナム・ギジョン教授の発言自体、明らかに日本と立場が相容れないものであるため、「ナム・ギジョン教授なりの論理体系」を読む「前提条件」と位置付けるのが正解でしょう。

 そして、なぜナム・ギジョン教授がこのように述べたのかといえば、それは韓国政府を批判するためです。

「にもかかわらず韓国政府は、与えられた条件の中で切り得るカードを切ってきた。それをもって交渉を行うべき状況にあって、日本は交渉しないと言っている。果たして誰に問題があるのか」。

 この記述、じつは当ウェブサイトのごとき「日本側の主張」を裏側から見たものでもあります。

 当ウェブサイトではこれまで、「韓国政府が国際法を尊重すると述べながら、何ら具体的な解決策を出してこないこと」を批判してきたつもりですが、ナム・ギジョン教授の批判は、「歴史問題という日本が解決すべき問題に韓国が下手に関わってきたこと」に向けられているのです。

 興味深いですね。

そ して、こうした認識がさらに強調されているのが、「文在寅政権の対日外交」に対する批判です。いわば、「日韓関係を壊したのは文在寅氏だ」、と述べているようなものだからです。

 ナム・ギジョン教授は日韓慰安婦合意が「朴槿恵(ぼく・きんけい)政権下の『ワントラック戦略』がもたらした失敗作」と舌鋒鋭く批判したうえで、文在寅政権初期の「ツートラック戦略」が「それなりの成果も収めた」と指摘。

 2019年の「輸出『規制』」により「日本がワントラックを打ち出したこと」で、自称元徴用工問題を「」進展させるタイミングを逃した」、としているのです。

 この点についても、当ウェブサイトとしては全面的にではありませんが、ある程度は同意します。

●日本は外交交渉に応じようとしていた?

 ここで、そもそも思い出しておきたいのは、自称元徴用工判決問題について、日本政府が2019年1月、韓国政府に対して日韓請求権協定(第3条1)に従った外交的協議を呼び掛けていたという事実です。

 このことは、日本政府がその時点においては韓国との何らかの外交的交渉で問題を解決しようとしていたという証拠であり、そのときに韓国側が日本の協議の呼びかけに応じていれば、もしかしたら展開は異なっていたかもしれません(日本国民の1人としては、考えたくもありませんが)。

 もっとも、時期的に見れば、2018年12月に石川県能登半島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内で発生した、韓国海軍駆逐艦による自衛隊哨戒機に対する火器管制レーダー照射事件のため、日韓関係がかなり険悪化していたことも否定できません。

結論的に言えば、日韓関係がここまでこじれたのは、文在寅政権の無為無策だった、という点に関しては、同意せざるを得ない、というわけです。

●日韓関係はどこに行く

 さて、日韓関係は、どこに行くのか。

 ナム・ギジョン教授は、こう指摘します。

「輸出規制後に明らかになったのは、日本との緊密な経済・安保協力が必須ではなくなったということだ」。

 なかなか興味深い主張です。

 少なくとも韓国の半導体産業にとって、日本の半導体製造装置等は欠かせないデバイスであり、「日本の緊密な協力が必要ではない」という主張自体は統計的事実に反しますが、結論的にいえば、日韓がかつてのような蜜月関係からは脱していく、との見方でもあります。

 ただ、韓国側の事実誤認よりも重要なのは、韓国側でも一種の「日韓断交論」のようなものが出てきた、という点ではないかと思います。

 日本外交が「基本的価値」を共有する国との連携を強める方向に明確に舵を切ったいま、韓国の側も、日本や自由主義国家・海洋国家ではなく、中露朝などの「大陸国家」としての道を歩まざるを得なくなるのだとしたら、歴史のダイナミズムとして、まさに知的好奇心をそそられるテーマです。

 その意味では、コリア・ウォッチングはジャパン・ウォッチングでもある、ということなのだと思う次第です。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20210711-01/

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