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徴用工判決「却下」を対日配慮と見るべきではない理由

「韓国の配慮に今度は日本がこたえる番だ」という主張が絶対に出て来ると予言してみる

 昨日は韓国で、自称元徴用工に関する集団訴訟が「却下」されました。その「狙い」についてはさまざまな者が考えられるのですが、本稿ではとりあえず、この判決そのものをどう考えるべきか、もっといえば、本日以降出て来るであろう「韓国が差し出した手を握るべきだ」といった主張にどう対処すべきかについて、簡単に論点を整理しておくことに集中したいと思います。


自称元徴用工訴訟の却下

『自称元徴用工訴訟・一審「却下」』で「速報」的に報告したとおり、自称元徴用工やその遺族ら85人が、日本製鉄、日産化学、三菱重工業などの日本企業16社を相手取った集団訴訟で、韓国のソウル中央地裁は原告側の請求の却下を申し渡しました。

 しかも、本来の判決言い渡しは10日を予定していたそうであり、昨日になって急遽、判決が前倒しになったそうです。

 この点、G7首脳会合等を直前にしたタイミングでもあるため、韓国が日本に対し何らかの「政治的意図」をもってこの判決を下した、といった見方ないし分析もあるかもしれませんが、この視点についてはとりあえず本稿では割愛します。

 それよりも、本稿では純粋に、自称元徴用工判決と日韓関係のみに焦点を当てて、おそらく早ければ本日以降出て来るであろう「韓国が差し出した手を日本は握るべきだ」とする主張に手っ取り早く反論するための手掛かりを提供しておきたいと思います。

 まずは続報から事実関係を拾っておきましょう。ここでの情報源は、韓国メディア『中央日報』(日本語版)です。

強制徴用損害賠償訴訟敗訴に…韓国原告側「日本の最高裁判決を踏襲」


―――2021.06.07 17:31付 中央日報日本語版より

(※なお、中央日報を含め、韓国メディアでは、「強制徴用被害者」などの用語が出て来ますが、これらについては当ウェブサイトにて要旨を引用する際に「自称元徴用工」と訂正している場合がありますのでご注意ください。)

 中央日報によると、今回の判決では、裁判所は却下理由について、次のように明らかにしたそうです。

韓日請求権協定により個々人の請求権が消滅したり放棄されたとはいえないが、訴訟でこれを行使することはできないと判断した」。

 また、自称元徴用工や遺族らは判決後、「ウソをついて恥ずかしいとも思わない日本の肩を持つことはあり得ないこと」、「国民を保護できない政府と国は私たちには必要ない」などと裁判所や韓国政府を批判したうえで、控訴する方針を明らかにしたのだそうです。

 「ウソをついて恥ずかしくないのか」とウソツキに批判されても困りますが…。

「韓国の手を握り返すべき」?

●「韓国が日本に配慮を示したに違いない」

 さて、これをどう見るべきでしょうか。

日 本の常識だと、下級審が上級審の判例に反した判決を下すのには違和感を抱く人も多いでしょう。

 法学的には、「先例拘束性」、つまりある時点で出て来た判決が以降の裁判の判断をどこまで拘束するか、という議論もあるようですが、実務的にはべつに上級審の判例に背く下級審判決が出て来ても不思議ではありません。

 もっとも、韓国の最高裁判所にあたる「大法院」が2018年10月と11月に下した判例に背く判決を地裁レベルで下したことについては、個人的にはやや意外感はありました。

 憲法の上位に「国民情緒法」が存在するとも揶揄される韓国において、自称元徴用工が自称元慰安婦と並び、韓国社会の「最高権威(?)」に祭り上げられつつあるなかで、ソウル中央地裁もずいぶんと勇気のある判決を下したものです(※皮肉です)。

 いずれにせよ、判決理由の「韓日請求権協定により個々人の請求権が消滅したり放棄されたとはいえない」の部分は蛇足でしょうが、却下判決自体は日本が求めていたものと近い姿でもあります。

 このため、「韓国の裁判所は、今回の判決で日本に配慮を示した」、「だからこそ日本もこれに応え、最悪の関係に陥りつつある日韓関係を修復すべく、対話のテーブルに着かねばならない」、といった主張が、どこかの新聞の社説あたりで出て来ると予想しておきます。

 ですので、当ウェブサイトの仕事のひとつは、この手の「韓国が配慮を示したから日本も応えなければならない」という屁理屈に、きちんとした反論をしておくことにあるのではないかと思うのです。

●いちおう「原則論」を述べておく

 というわけで、いちおう「原則論」を述べておきましょう。

 そもそも論ですが、2年半前にいきなり私たちに殴り掛かってきたのは隣人であり、その隣人が昨日になって唐突に「殴るのをやめた」と宣言したとして、「隣人が私たちとの仲直りのために手を差し出した」ことになるはずがありません。

 通常、相手が殴ってきたことで関係が悪化したならば、まずは殴ったことに対して「ごめんなさい」と謝り、治療費を負担し、慰謝料を支払い、「もう2度としません」と誓うことでしか、関係を元に戻すことはできません。加害者の側にそれができないなら、関係は断絶するより方法はありません。

 その韓国は、2年半前に出した3本の大法院判決について、いまだに取り消していません。1つは2018年10月30日に新日鐵住金(現在の日本製鉄)に対して下された判決、残り2つは同年11月29日に三菱重工業に対して下された判決です。

 また、同様の自称元徴用工判決は、下級審(日本でいう地裁と高裁)レベルでは原告勝訴の判決が相次いでいるようですし、資産の差押がなされている事例は、日本製鉄、三菱重工に加え、高裁で敗訴している不二越も含まれます。

 しかも、日本企業の資産差押に関しては、少しずつ、売却手続が進められています(※ただし、一気呵成に売却しない理由は、それが彼らなりの見え透いた瀬戸際戦術だからでしょう)。

 いずれにせよ、韓国が国家の意思として、少なくとも3本の自称元徴用工判決の効力を今すぐに無効化し、今後出て来るであろうあらゆる自称元徴用工判決問題については、包括的に解決するための立法措置を講じることが望ましいです。

 そして、やり方は韓国が好きにやれば良いのですが、その解決プロセスに日本は関与できませんし、関与すべきでもありません。韓国の国内問題なのですから、韓国が自分たちでキッチリと片づけることが必要なのです。

●韓国のペースに乗せられてきた半世紀

 ただし、上記の原則論、当ウェブサイトとしても、韓国は「それが通じる相手ではない」という点は認識しているつもりです。

 こうしたなか、思い出していただきたいのが、拙著『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』(P51~)にも転載したのが、当ウェブサイトの持論である「日韓友好の3類型」と韓国側の対日姿勢、という論点であり、とりわけ「対韓譲歩論」と「用日論」の親和性、という論点です。

 日韓友好の3類型とは、日本国内で蔓延する日韓関係論を著者なりに整理したものであり、概要は次のとおりです。

■日韓友好の3類型


①対等関係論…日韓両国は対等な主権国家同士として、お互いに尊重し合い、ともに手を取り合って、未来に向けて発展していけるような関係を目指すべき

②対韓譲歩論…日韓両国は対等な関係だが、過去の一時期に不幸な歴史があったことを踏まえ、日本がある程度、韓国に配慮することで「名よりも実を取る」ことを目指すべき

③対韓追随論…日韓友好はとても大切であり、韓国が「もう良い」というまで過去の不幸な歴史を反省し、謝罪し続けるべき
(【出所】著者作成)

(※なお、②の考え方については、当ウェブサイトや拙著では「対韓譲歩論」と書いたり「対韓配慮論」と書いたりするなど、表記が一定しておらず、読者の皆さまにはご迷惑をおかけしています。これについては今後、できるだけ表記を統一するようにしたいと思います。)

 ③の考え方が論外であることは言うまでもありませんが、本当の問題点は、③ではなく②の考え方です。というのも、②の考え方こそが、韓国の大好きな「サラミスライス」戦法に引っかかりやすい、「カモネギ」的な発想だからです(聞いていますか、外務省さん?)。

 そして、韓国側の反日については、拙著(P54~)でも指摘したとおり、だいたい次の2つのパターンがあるようです。

■韓国の反日のパターン


(A)用日論…歴史問題などを使って日本に罪悪感を植え付け、それにより日本から産業ノウハウ、技術、資本などを安い価格で手に入れようとする考え方

(B)純粋反日論…歴史問題を使い、純粋に日本を貶めようとする考え方
(【出所】著者作成)

 意外な話ですが、著者自身はこの(B)の考え方、嫌いではありません。

 というのも、「日本を嫌う」という意味では首尾一貫しているからであり、また、私たち日本にとっても、(B)の考え方は大変にわかりやすい考え方だからです。

 しかし、問題はやはり、(A)の考え方でしょう。

 普段から当ウェブサイトでしばしば紹介しているとおり、韓国の「保守系(?)」とされるメディアの報道では、「歴史と経済を分離したツートラック」だの、「日本が韓国の本当の友人なら通貨スワップを結ばなければならない」だのといった主張が頻繁に掲載されます。

 そして、この(A)の考え方が、②の考え方と結びついて、日本の国益がどんどんと韓国売り渡されてきたというのが、この半世紀の日韓関係史だったのではないかと思います。

対韓譲歩論の大きな間違い

●韓国に売り渡した国益は価値に見合っていなかった
 では、②の考え方――「日本がある程度、韓国に配慮することで『名よりも実を取る』ことを目指す」こと――に関連して、日本が得るべき「名より実」とは、いったい何のことでしょうか。

いちおう、教科書的な模範解答を述べておくと、次の3点でしょう。

(1)一衣帯水論


韓国は同じアジアの国として、地理的にも近く、歴史的にも文化的にも深い関係を持っている。日韓両国は一衣帯水の関係にあり、切っても切れない関係にある。また、過去に日本は韓国を「植民地支配」するという加害者としての歴史を忘れてはならない。

(2)経済関係論


日本企業の多くが韓国に進出する一方、韓国の産業も日本製の製造装置や部品、素材などに強く依存しており、経済的側面から、日韓両国は相互に重要な関係にある。

(3)朝鮮半島生命線説


韓国は地理的に見て日本に非常に近く、この地域が日本の敵対勢力に入れば、日本の安全保障に深刻な脅威をもたらす。だからこそ、日本はあらゆるコストを払ってでも、朝鮮半島を日本の友好国に引きとどめておかなければならない。

 しかし、これらについても、突き詰めて考えていくと、どれも「日本が韓国に配慮することで得られる『実』」としては、論拠が不十分です。

 このうち「(1)一衣帯水論」については、類書等でさまざまな議論が出ているため、本稿では割愛しますが、「(2)経済関係論」や「(3)朝鮮半島生命線説」は、どちらも理解としてはかなり不正確であると言わざるを得ません。

 (2)の経済関係論に関しては、『日本にとって台湾が韓国よりも重要な貿易相手になる日』『素材・部品分野の「脱日本依存」が一向に進まない韓国』などでも取り上げたとおり、むしろ「日本が韓国にとって重要な国」であり、その逆ではありません。

 また、(3)の「朝鮮半島生命線説」に関しては、たしかに地理的に近い韓国が名実ともに日本の敵対国と化すことは非常に大きな脅威ですが、だからといって、そのリスクは私たちの国益をすべて韓国に売り渡してでも回避すべきものではありません。

●対韓譲歩論の本質的問題点

 さて、上記の議論、当ウェブサイトでは2018年10月頃からず~~~~っと続けている気がするのですが、非常に残念ながら、「韓国との関係改善により実を取るべきだ」とする主張は後を絶ちません。

 そもそも論ですが、今日の日韓関係は、韓国が国家として誠実でないことがもたらしたものであり、日本が譲歩すべき筋合いのものではありません。

 ただ、話はそれだけではありません。

 もし日本が、韓国の不法行為に対して何らかの譲歩をしたとしましょう。そして、日韓関係が「改善(?)」されたとしましょう。

 それで、問題は解決するのでしょうか。

 結論から言えば、多重債務者が借金を繰り返すのと同じで、韓国は同じようなことを将来も何度も繰り返すに違いありません。なぜなら、そもそも論として、韓国は日韓関係、あるいはそれ以外の国との関係において、とっ散らかした問題をまともに片づけて来たことがないからです。

たとえば、以前からの当ウェブサイトをご愛読いただいていれば覚えていらっしゃる方もいらっしゃると思いますが、「韓国在住日本人」様というハンドルネームの読者様から当ウェブサイトにいただいた、『【読者投稿】在韓日本人「韓国さん、お達者で!」』という論考です。

(※この「韓国在住日本人」様は、現在は愛猫とともに帰国され、ハンドル名に「元」を付していらっしゃいます。)

 元韓国在住日本人様は、次のように指摘します(要約して箇条書きにしています)。

・日本への対応もさることながら、東南アジアに関しても韓国人の持つ差別意識は相当なものがあり、この韓国人の差別的性向は「認められた」→「自分は上だ」→「横柄な態度」となり、一般の韓国社会でもよく見られる

・たとえばパラオの橋の崩落(SOCIO)、インドネシアの溶鉱炉事故(POSCO)、ベトナムでの建設現場崩落事故(三星物産)、ラオスのダム崩壊(SK建設)、インドのガス漏れ事故等(LG化学)、韓国企業が東南アジアで起こした事故が数多くある

 このあたりの記述は、拙著『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』にも部分的に転載させていただいたという事情もあり、個人的に強く印象に残っている部分でもあります。

●韓国の不誠実な対応は宿痾

 そして、同様の論点に関連し、「イーシャ」様という読者の方から当ウェブサイトに転載依頼を頂いた、『【読者投稿】ゲーム理論最終回:FOIPの対極・韓国』という論考などでも、経済学の「ゲーム理論」に基づき、韓国の実際の行動についての説明が試みられています。

 イーシャ様は韓国の次のような行動を、ゲーム理論を使って解き明かそうとした一連の論考を寄稿していただきました。

・武漢肺炎で多数の犠牲者を出しているイランに対する、産原油代金の踏み倒し

・ベトナムにおける、韓国軍によるフォンニィ・フォンニャット村での虐殺やライダイハン問題

・ラオスのダム決壊事故

・インドで発生したLGポリマーズのガス漏れ事故

 韓国はいずれの事例でも真摯な対応をしていませんが、これについてイーシャ様は、「相手に泣き寝入りさせることで、韓国の方が上だと示すため」、もしくは、「上位の韓国は他国に何をしても構わないと思い込んでいる」と考えると「辻褄が合う」と述べています。

 ただ、こうした他国に対する傲慢と言わざるを得ない態度を作ってきたのが、日本の対韓譲歩論者たちだったとすれば、日本の罪もずいぶんと大きいのかもしれません。

 あまり言いたくないのですが、日本の韓国に対する善意の積み重ねは、結果として日本が韓国の不法行為の「共犯者」となっていったようなものではないでしょうか。

普通の二国間関係にすることが大事

 このように考えていくならば、今回の事件に対する日本のあるべき対応も、決まっています。

 それは、日韓関係を「普通の二国間関係」にしていくことです。

 まずは、普通の国であれば国際法を守るのは当たり前であり、昨日の判決も「新たな国際法違反の判決が出なかった」というものに過ぎず、以前の国際法違反の判決が放置されたままという状況はなにひとつ変わっていません。

 そして、これについては二国間で協議すべき筋合いのものではありません。100%、韓国のみの責任において解決が図られるべきです。

 これについて、加藤勝信官房長官の発言が参考になるでしょう。

元徴用工訴訟 加藤長官、懸案解決に韓国側の責任強調


―――2021/6/7 17:57付 産経ニュースより

 産経ニュースによると、加藤官房長官は現在の日韓関係について、「徴用工訴訟や慰安婦問題などをめぐる韓国政府の対応が原因で非常に厳しい状況にある」としたうえで、次のように述べたのだそうです。

「両国間の懸案の解決のため、韓国が責任を持って対応していくことが重要だ」。

 責任を持って対応していける国じゃないからこそこういう体たらく、というわけであり、加藤長官もそれを知っていてこのように述べているのだとしたら、なかなか意地悪な方です。

 ただ、日本政府の短期的な対応としては、とりあえずはこれで100点満点と考えて良いでしょう。

 そして、韓国が「国として当たり前の対応」を取らなければ、どこかの段階で「見切り」を付けねばならない、というわけですが、これについては近日中に、また改めて議論する機会があると思います。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20210608-01/

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