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中露朝韓「無法国家クアッド」を「正しく」警戒すべき

ロシアがFOIPの批判に加わった!もし韓国が「無法国家」側に転落したら…?

 昨日の『米欧が対中制裁で歩調合せる一方で、中露韓の接近も?』では、なかば冗談めかしつつも、「中露朝韓クアッド」という用語を当ウェブサイトに初登場させました(ただし、用語そのものを「開発」したのは、当ウェブサイトではありません)。ただ、この用語、自分自身で記載しておきながら、「とんでもない概念」だと改めて気付きます。現実にロシアのラブロフ外相が、FOIPについて「憂慮される」と述べたからです。


クアッドよりもFOIP

●あくまでも大事なのはFOIPです

 これまで当ウェブサイトでなんども繰り返してきた論点で恐縮ですが、そもそも「日米豪印クアッド」と呼ばれている枠組みは、「クアッド(=4ヵ国)」ありきではありません。

 あくまでも理念としての「自由で開かれたインド太平洋」、あるいは英語でいうところの “Free and Open Indo-Pacific” を略した「FOIP」という概念が存在し、それに賛同した国が4ヵ国である、というのが正しい言い方でしょう。

 もちろん、クアッド自体が発足するきっかけとなったのが、もともとは2004年のインドネシア・スマトラ沖地震で発生した津波を支援するための4ヵ国協力だとされていますが、それはあくまでも「きっかけ」に過ぎず、現在はFOIPありきの価値同盟のようなものを目指していると考えた方が良いでしょう。

 当然、このFOIPに含まれる “Open” 、つまり「開かれている」という形容詞にふさわしく、FOIP構想自体、「この理念に賛同してくれる国」であれば、どこの国でも参加するのは大歓迎、というのが日本政府の一貫した姿勢です。

●クアッド・「プラス」?なぜ頑なにFOIPの用語を使わないのか

 官民挙げて、この点を「最も理解していない国」のひとつが、韓国です。

 韓国メディアは口を開けば「クアッド」、「クアッド」と繰り返しますし、また、「わが国がクアッドに参加すべきか」といった議論も、韓国の「保守系メディア」でも、ここのところ頻繁に目にします。その割にはFOIPという用語を見かけることは多くありません。

 一方で左派メディアだと、「クアッド」という用語は、保守系メディアとは逆に「韓国はクアッドに参加すべきではない」という文脈で出てきます。しかし、頻繁に見かけるのは「クアッド」という用語であり、FOIPという用語をほとんど目にしない、という点では、左派メディアも保守系メディアと大差ありません。

 さらに韓国メディアに多く見られる用語のひとつが、「クアッド・プラス」でしょう。

 たとえば、『「米国は慰安婦合意歓迎」発言を無視する韓国メディア』のなかで、米国の現地時間3月12日付で行われたネッド・プライス米国務省報道官の記者会見で韓国メディア・聯合ニュースの記者がこの「クアッド・プラス」という用語を使っていることが確認できます。

Department Press Briefing – March 12, 2021 


―――2021/03/12付 米国務省HPより

 しかし、もともとFOIPの参加国は対等であり、「クアッド」はFOIPのたんなる初期メンバーのようなものに過ぎません。したがって、もしもFOIPに日米豪印以外の国が正式に参加する場合、その会議体の名前は、本来ならば参加している国の数に対応した名称に変えるべきでしょう。

 逆に、この「クアッド・プラス」という考え方は、日本にとっては危険です。というのも、FOIPに中途半端にコミットしたふりをして、FOIPの結束を乱そうとする国が出てくる可能性があるからです。

●クアッド・プラスの用語が危ない理由

 逆に、韓国メディアが「FOIP」という用語を避け、「クアッドプラス」という用語を好んで使う理由は、クアッドが「FOIPに賛同している4ヵ国の事である」という実態から目を背けるからではないのかと疑わざるを得ません。

 要するに、FOIPに強くコミットしている国がクアッドであり、その周辺に、FOIPに対して中途半端にコミットしている国(あるいは表面的にコミットしたふりをしている国)が集い、それらが「クアッド・プラス」を名乗る、という懸念があるのです。

 たとえば、FOIPに強くコミットしている4ヵ国を「クアッド」と呼び続ける一方、そこに加わる国を「クアッド・プラス」などと呼び続けるのだと知れば、FOIP諸国のメンバーに軽重がついてしまいかねません。

 とくに、「クアッド」と「クアッド・プラス」のあいだに権利・義務の違いが存在する、コミットの強さに濃淡がある、といったことになってしまえば、FOIP自体が弱体化してしまう可能性があります。やはり個人的には「クアッド・プラス」という用語は、ある意味で危険だと思うのです。

 このように考えると、やはりFOIPにどこかの国(たとえば英国あたり)がコミットし、FOIP外相会談などの協議体にその国が正式メンバーとして加わるのであれば、これは「FOIPクアッド」ではなく「FOIPクインテット」、「FOIPファイブ」などと名称を変えるべきでしょう。

 このあたりは事実上のFOIP事務局を買って出ている日本政府にも、しっかりと仕事をしてほしいと思う次第です。

●クアッドはクアッドでも「中露朝韓クアッド」
 それはさておき、本稿で重視したいのは、韓国が「FOIP」ではなく「クアッド」という名称をやたらと気にしている、という点です。

 昨日の『米欧が対中制裁で歩調合せる一方で、中露韓の接近も?』では、先日の読者コメント欄にいただいたコメントなどを参考に、半ば冗談めかして、「中露朝韓クアッド」なる珍奇な用語を勝手にでっち上げてみました。クアッドはクアッドでも、とんでもないクアッドですね。

 もちろん、これは「実現してほしい」だの、「実現したら面白い」だのと茶化すつもりで記載したものではありません。どちらかといえば、「万が一にそんなことが発生した場合に備えて、何らかのシミュレーションを行っておく必要はないだろうか」という危機意識の表れです。

 というよりも、なぜこんな言葉を思いついたのかといえば、「日米豪印テレビ首脳会談」、「日米2+2」、「米・EU外相会談」、「EUと米国の対中露制裁」などの流れから、「日米豪印欧英加NZ」vs「中露朝」、という構図が、かなりハッキリと見えてきたからです。

 いちおう韓国は西側の自由・民主主義諸国に所属しているフリをしていますが、その一方で、文在寅(ぶん・ざいいん)政権は頑なにFOIPにコミットしようとしていませんし、また、中国や北朝鮮などにおける人権侵害を批判しようともしません。

 今から75年以上も前の、ありもしない自称元徴用工問題・自称元慰安婦問題で、舌鋒鋭く日本を批判するわりには、現在進行形の北朝鮮による日本人拉致事件、中国によるチベット・ウイグルにおける民族浄化、香港における民主主義の弾圧にはダンマリを決め込んでいる、というわけです。

 韓国という国は、無責任かつ恥知らずにもほどがあります。

 そんな韓国が、「FOIPクアッド」ではなく「一帯一路クアッド(?)」にコミットしたとしても、個人的にはあまり驚きません。

無法国家クアッド

●ロシアがFOIPを批判

 こうしたなか、韓国に関連し、ロシアとインドの動きが出てきました。

 昨日の『米欧が対中制裁で歩調合せる一方で、中露韓の接近も?』でも触れたとおり、現在、ロシアのラブロフ外相が韓国を訪問中ですが、これに関連して昨日夜、こんな記事が出ていました。

ロシア外相がインド太平洋戦略を批判 韓国の参加を警戒


―――2021.03.23 20:08付 聯合ニュース日本語版より

 この記事は、23日の韓国訪問を前に、モスクワで現地時間19日に、ラブロフ外相が韓国特派員とのオンラインインタビューに応じたというもので、ラブロフ氏はインタビューで次のように述べたのだそうです。

「アジア太平洋地域で、韓国はロシアの非常に重要で展望あるパートナーだ。アジア太平洋地域の問題も協議する」。

 そのうえで、ラブロフ氏はFOIPに対し、次のように憂慮を述べたのだとか。

「現在、アジア太平洋地域を再編しようとする試みがあり、インド太平洋地域という用語が導入されたとしたが、この過程の意味は非常に憂慮される。東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心とした構造に対峙する何かを作ろうとする試みが行われている」

 要するに、FOIPが中国だけでなく、ロシアにとっても非常に都合が悪い構想だとして、(なぜか)ロシアが警戒しているというのです。

●せっかくインドを訪れるというのに…

 正直、「航行の自由」、「法の支配」といった概念は、べつに受け入れて損な考え方ではないと思うのですが、この点についてはラブロフ氏には理解していただけていないようなのです。それがわかるのが、次の発言でしょう。

「インド太平洋戦略の枠内で取られる措置を注意深くみると、それらはブロック化の思考に基づいており、ある肯定的な過程ではなく特定の国々に反対するためのブロックを構築しようとしている。特定国家の抑制が目標として宣言されている」。

 要するに、FOIPが中国だけでなく、中国と戦略的協力関係にあるロシアをも狙っている、という警戒感ですね。

 その一方で、このロシアに関する話題を確認する前に、もうひとつ、気になる動きについても紹介しておきましょう。

 韓国の徐旭(じょ・きょく)国防部長官が25日から27日にかけてインドを訪問するそうですが、同じく『聯合ニュース』(日本語版)に昨日付で掲載された次の記事によれば、国防部報道官は23日の定例会見で、「クアッド」(※原文ママ)を巡る協議の予定はない、と述べたのだそうです。

韓国国防相 インドでクアッド巡る協議予定なし


―――2021.03.23 13:14付 聯合ニュース日本語版より

 この報道官はまた、先週開かれた米韓国防相会談でも「クアッドに関する議論はなかった」としたうえで、「今回の(インド)訪問では純粋に国防協力に関連する部分を協議する」、などとしています。

 せっかくFOIPクアッドの一角を占めているインドに赴くというのに、なんだかもったいない気がしますね。

●朝鮮日報「米韓同盟に広がる溝、そこに中露が!」

 それはともかく、先ほど申し上げた「中露朝韓」に関連し、韓国の「保守メディア」とされる『朝鮮日報』(日本語版)には昨日、こんな記事が掲載されていました。

韓米同盟に広がる溝、食い込む中ロ


―――2021/03/23 10:59付 朝鮮日報日本語版より

 これは、「中露が米国のインド・太平洋連帯において韓国を『弱い環』と認識している」、としたうえで、ラブロフ外相の訪韓が先週の「米韓2+2」の直後に行われるという点に注目し、「外交関係者らが注目している」、などと指摘する記事です。

 (※なお、朝鮮日報の場合、記事自体は公表されて数日経過すると読めなくなるそうですので、もし読みたいという方がいらっしゃれば、早めにどうぞ。)

 そういえば、この「弱い環」という記述、『「韓国ざまみろ」では済まされない鈴置論考の「警告」』でも紹介した、日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏の最新稿(※以下参照)でも出てきました。

バイデンの最後通牒を蹴り飛ばした文在寅 いずれ米中双方から“タコ殴り”に


米韓の間の亀裂が天下に知れ渡った。中国は大喜びだ。韓国観察者の鈴置高史氏が展開を読む。<<…続きを読む>>
―――2021年3月22日付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』

 余談ですが、「韓国がFOIPにおける最も弱い環となり得る」という点こそ、当ウェブサイトとしてはむしろ韓国がFOIPに参加してくれたら困る理由と考えているのですが、この点については別稿にて、あらためてじっくりと議論したいと思いますので、本稿では先を読み進めてまいりましょう。

●ドル基軸体制の脱却?

朝鮮日報の記事に戻ります。

注目に値するのは、ラブロフ外相が22日に中国メディアのインタビューで語ったとされる、次のような内容です。

・米国は他国の発展を阻止するためのイデオロギーを広報している
・ロシアと中国は米国からの独立を強化する必要がある
・中ロはドルの国際決済システムから抜け出す必要がある

 これなどまさに昨日の「鈴置論考」そのままの発想ですね。

 要するに、米国が基軸通貨・ドルを握っている限り、中国もロシアも米国に命運を握られてしまっているようなものだ、という指摘だと考えればよいでしょう。だからこそ、ドル決済システム(おそらくSWIFTなど)から抜け出す必要がある、というわけです。

 また、「他国の発展祖阻止するためのイデオロギー」とは、朝鮮日報によれば、「人権のこと」なのだそうです。

 ことに、ジョー・バイデン米大統領自身が(見た目は)人権を媒介に同盟諸国を糾合し、中露と対決しようとしていることを指しているのでしょう。

 (※なお、実際にバイデン氏が人権を尊重するような人物であるかどうかについては敢えて議論しないことにします。)

 要するに、ロシアから韓国に対するラブコールのようなものですね。

 朝鮮日報はさらに、「北朝鮮も米国に対する交渉力強化のため、中露とさらに密着しつつある」と指摘します。

 実際、駐ジュネーブ北朝鮮代表部の韓大成(かん・たいせい)大使は先週、国連人権理事会における演説で、米国による中国の人権問題の指摘を「内政干渉」「虚偽・捏造」と批判したそうですが、これなども「中露朝3ヵ国連携」の証拠でしょう。

 ちなみに朝鮮日報の記事によると、北朝鮮の独裁者である金正恩(きん・しょうおん)(?)も習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席に対し、中朝関係を「世界がうらやむ関係」へと強化・発展させることが北朝鮮の変わらぬ立場だと述べたそうです。

 また、習近平氏はこれに対し、「われわれは新たな形勢の下、北朝鮮の同志たちと手を取り合って努力したい」とする口頭親書を駐中北朝鮮大使に伝えた、としています。

無法国家クアッドを正しく警戒する

 では、この中露朝3ヵ国連携、果たして日本にとっては有利なのでしょうか、それとも不利なのでしょうか。

 当たり前の話ですが、古今東西を問わず、あくまでも一般論として、敵対国の数は少なければ少ないほど良いです。したがって、戦略的な立場からすれば、「まずは中国や北朝鮮を孤立化させ、個別撃破していくというのが正しい」、「それまで」、という指摘があり得るであろうことについては、そのとおりでしょう。

 もしも「中国包囲網」を中国だけに絞り、ロシア、北朝鮮、韓国すらをFOIPの仲間に引き入れることができるならば、中国を完全に世界から孤立させ、干上がらせることも可能でしょう。

 ただし、それと同時に、「無能な味方は有能な敵を上回る脅威」でもあります。

 ロシアや北朝鮮は論外として、そもそも論として「約束を破るウソツキ国家」である韓国がFOIPに入ってきて良いのかどうかについては、じっくりと考えておく価値があるでしょう。

もっとも、「中露朝韓『無法国家』クアッド」が成立するかどうかについては、そこは微妙です。

 我が国の日本共産党や立憲民主党などを観察してもわかるとおり、そもそも「内ゲバ」は左派や社会主義者、共産主義者らの専売特許のようなものであり、無法国家同士がお互いに深い信頼で結ばれるとも思えません。

 実際、ロシアの前身であるソビエト連邦と共産主義中国は、1969年に国境紛争を発生させています。俗に「民主主義国家同士では軍事衝突はほとんど発生しない」と言われていますが、共産主義国家同士だと大規模軍事衝突が発生した事例がある、というのも興味深い事例ですね。

 (※なぜ共産主義国家同士や左派同士が内ゲバを繰り返すのかについては諸説あると思いますし、これについて突き詰めていくと何かと興味深い考察もできるのですが、この点についてはまた別稿でのお楽しみとさせていただきます。)

 いずれにせよ、FOIPクアッドに対抗して無法国家クアッドが誕生するのかどうかについては警戒が必要ですし、そのようなものが発足してしまうと、何かと厄介であることはたしかですが、それと同時に、無法国家クアッドを過度に恐れるのもまた正しい態度ではありません。

 ことに、極論するならば、日本の立場からは、ロシアは日本領を不法占拠したまま返さない無法国家だ、という言い方もできるでしょう。その意味では、いっそのこと、日本に対して不法行為を仕掛けてきている4ヵ国がひとつにまとまってくれるのも、ある意味ではわかりやすいのかもしれなせん。

 そして、わが国が取らねばならない態度とは、まさに「無法国家クアッド」を決して見くびらず、さりとて卑屈にならず、「正しく警戒する」ことではないかと思う次第です。

オマケ:日本が認識するFOIP

オマケです。

じつは、日本の防衛省は、わりと露骨に、中露朝韓4ヵ国を抜いています。防衛省が作成した資料からは、そのことがハッキリと確認できます。

参考図表 日本政府政府が認識する連携相手国
20201015FOIP

(【出所】防衛省ウェブサイト “Mapping the “Free and Open Indo-Pacific” Vision”

 これによると、FOIPにおいて日本が(潜在的に)連携すべきと認識している相手国は、米国とカナダ、豪州、ニュージーランド、インド、そして英仏です。

 また、地域としてはラテンアメリカ、太平洋諸国、東南アジア諸国連合(ASEAN)、南アジア、中東などが明示され、大きく太平洋とインド洋に印がつけられていることが確認できるでしょう。

 欲を言えば台湾を明示してほしいという気はしますが、さすがに現時点において、日本政府公式発表で台湾をFOIPに加えるのは、中国を刺激し過ぎているのかもしれません。

 ただ、いずれにせよ、少なくともこのFOIPの概念図においては、中国、ロシア、北朝鮮、韓国については存在してないということが確認できる、という事実を指摘しておきたいと思う次第です


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20210324-01/

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