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韓国メディア「これから米国は韓国に何を要求するか」

 このところ、米韓同盟の危機に関する議論をさまざまなメディアで見かける機会が少しずつ増えてきた気がします。昨日の『鈴置論考の「韓国核武装中立」が絶対容認できない理由』では、日本を代表する優れた韓国観察者の鈴置高史氏の最新稿を紹介しましたが、もうひとつ、韓国メディアにも、それなりに参考になる記事が掲載されていましたので紹介したいと思います。ずばり、「米国は韓国にFOIPへのコミットを求めるのか」という問題意識です。


危機の米韓同盟

●米韓両国の認識の大きなズレ

 少し古い話題ですが、『電話首脳会談に関する米韓両国の発表内容が違い過ぎる』では、2月4日(米国時間3日)に行われたジョー・バイデン米大統領と文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領の会談を巡る話題を取り上げました。

 それぞれの報道発表の原文は、次のリンク先から読むことができますが、両国の報道発表内容に注目すると、双方の発表内容があまりにも違い過ぎるのです。

 具体的には、米国側の報道発表に記載がないのに、韓国側の報道発表に記載があるという項目が、多すぎます。表現を整えたうえで要約したものを、逐一紹介していきましょう。

●「米韓同盟」は「責任同盟・包括的戦略同盟」?いい加減なことを…
 まずは、これです。
 

「文在寅大統領はバイデン大統領の『希望に満ちた米国』という就任演説に言及したところ、バイデン大統領は『その希望のひとつが韓国だ』、『韓米両国の関係は70年進展が続いて来たが、今後も多くの分野でこうした進展が続くだろう』と応じた」。

 こんな記述、ホワイトハウス側の発表にはありません。

 ただ、この部分は単なる挨拶という意味合いもあるため、この程度であれば両国の発表に齟齬が生じていたとしても、そこまで気にすべきではないのかもしれません。

 問題は、これ以降の記述です。

「両首脳は、韓米が域内の平和繁栄の重要な同盟であることを再確認し、価値を共有する責任同盟として、朝鮮半島とインド・太平洋地域の協力を越え、韓米同盟を民主主義・人権の増進に寄与する包括的戦略同盟に引き続き発展させていくこととした」。

 「価値を共有する責任同盟」だ、「インド・太平洋地域の協力を越えた包括的戦略同盟」だと唐突に言われても困りますね。ここ数年に限定して言えば、少なくとも米国政府関係者がそのように述べたという記憶はありません。

●米国側は韓国をオバマ政権時代の延長線上に位置づける

 ちなみに、これに相当すると思われるホワイトハウス側の報道発表は、次のとおりです。

“President Joseph R. Biden, Jr. spoke today with President Moon Jae-in of the Republic of Korea to stress his commitment to strengthening the United States-ROK alliance, which is the linchpin for peace and prosperity in Northeast Asia.”

たったこれだけです。

 ROKは “Republic of Korea” を略したものであり、英語に直訳すると「朝鮮共和国」ですが、「大韓民国」の英語表記です(漢字の「大」が英語表記で行方不明となるのはご愛敬でしょう)。

 ここでホワイトハウスは米韓同盟のことを「北東アジアにおける平和と繁栄のリンチピン」と表現していますが、これは朴槿恵(ぼく・きんけい)前大統領が次期韓国大統領に当選したばかりの2012年12月のタイミングで、バラク・オバマ米大統領(当時)が朴槿恵氏に対して使った表現とまったく同じです。

 つまり、米国は日本については「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」における「コーナーストーン」に位置付けているわけですが、韓国は「インド太平洋」ではなく、あくまでも「北東アジアにおけるリンチピン」に過ぎない、というわけです。

 いずれにせよ、韓国側の報道発表にある「70年にわたる同盟の深化」、「これからも他分野にわたって発展させていく」、「責任同盟」、「包括的戦略同盟」なる文言は、ホワイトハウス側の報道発表には一切出て来ていません。

 これに加えて、米国側の報道発表にない記述は、ほかにもあります。それが、これです。

「両首脳は、日韓関係の改善と韓米日協力が域内の平和と繁栄に重要であることに共感した」。

 こんな内容、米国側にはありません。

 もう少し正確にいえば、先月27日(米国時間26日)、茂木敏充外相とアンソニー・ブリンケン米国務長官と電話会談した際には、米国側の報道発表に「日米韓」という表現が含まれていましたが、28日(米国時間27日)の日米電話首脳会談の際には、この「日米韓」が取り除かれました。

 具体的には、外相会談の際には米国務省が「日米韓」と発表する一方、日本側は「日米韓」には触れずに「日米豪印」に言及した、ということが確認できます(詳しい比較は『米国務長官「日米韓」に茂木外相「日米豪印」で応じる』でも行っています)。

 しかし、1月28日(米国時間同27日)、菅義偉総理大臣とジョー・バイデン米大統領と電話会談をしたときに関しては、首相官邸とホワイトハウスの発表内容がほぼ一致しており、そして双方の発表に「日米韓」は含まれていませんでした。

 日米外相会談と日米首脳会談の1日のタイムラグがありますが、この1日の間にいったい何があったのかはよくわかりません。ここで重要なのは、「日米韓」という文言が日米首脳会談の報道発表に一切含まれていなかった、という事実です。

日韓関係改善は単なるポーズ

●文在寅氏はポーズだけでも「韓日関係改善」を騙る

 ただ、その後も韓国側の報道などを眺めていると、「米国が韓国に対し、日韓関係を改善すべきだと述べている」とする情報が多数見つかります。

 はたして本当に米国が韓国に対し、それを要求しているのかはわかりません。しかし、ここにきて、韓国側から「韓日関係改善」に向けたさまざまなサインが出てきているのは事実であり、その典型例が、文在寅大統領自身の1月18日付の記者会見でしょう。

2021新年の記者会見【※韓国語】


―――2021/01/18付 韓国大統領府ウェブサイトより

 文在寅氏は毎日新聞の堀山明子記者氏の質問に対し、次のような趣旨の回答をしました。

韓日関係を外交的に解決する努力をしているなかで、慰安婦判決問題がまた加わったことに、率直に少し当惑しているのが事実だ

・しかし、過去のことは過去のこととして、韓日は未来志向的に発展して行かなければならない

・韓国政府は、2015年の両国政府間での合意が両国政府間の公式的なものだったという事実を認める

 今から2~3年前の韓国の日本に対する態度を思い出すと、雲泥の差がありますね。見た目は文在寅氏が日本に対する態度をかなり軟化させているわけです。

 このあたり、日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏は、「単なるポーズだ」と見抜いており(一連の鈴置論考については『鈴置論考の「韓国核武装中立」が絶対容認できない理由』等参照)、個人的にはこの鈴置論考の見解にまったく同意します。
 
 しかし、もしそうだったとしても、「単なるポーズ」にせよ韓国から日本に対する関係改善への秋波が送られているという点については、あらためて注目しておく価値はあるかもしれません。

●ハンギョレ新聞「韓国のFOIP入りはない」

 こうしたなか、韓国の左派メディアとして知られる『ハンギョレ新聞』(日本語版)に昨日、こんな記事が出ていました。

 執筆者は、『日米豪印連携を強化しつつ対韓制裁の準備を進めるべき』などでも引用したことでおなじみの、ハンギョレ新聞の「統一外交チーム」記者である「キル・ユンヒョン」氏(※本稿ではあえてカタカナでこのように表記します)です。

 個人的に、キル・ユンヒョン氏の見解のすべてに無条件に同意するつもりはありませんが、それでも同氏の記事にはハッとさせられる気付きも多々あります。

 今回の「ニュース分析」、タイトルでもわかりますが、テーマはずばり、「バイデン政権は韓国にFOIPへのコミットを求めるかどうか」であり、結論的には「今すぐに要求することはないにせよ、米韓同盟にとっては『諸刃の剣』となりかねない」、というものです。

 リンク先記事、ハンギョレ新聞のほかの記事と異なり「ですます調」で書かれているため、多少慣れが必要ですが、内容自体は下手な日本のメディアの記事よりもよっぽど参考になります。

 これは、バイデン大統領が今月19日に開催された「ミュンヒェン安全保障会議」のテレビ演説を通じて、ドナルド・J・トランプ前政権時代の「アメリカ・ファースト」を廃棄し、「民主主義国との同盟を強化する」という方針を示したことが、米韓同盟にどう影響するか、という視点で書かれたものです。

 キル・ユンヒョン氏も指摘するとおり、現実に米国は北大西洋条約機構(NATO)の体制強化に加え、自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)の実現に向けた動きを進めています。日米豪印「クアッド」連携は、その典型例、というわけです。

●米国がこれから韓国に要求するもの

 これについてキル・ユンヒョン氏は、大変に興味深い視点を提供します。

 バイデン大統領本人を含めた米国の主要人物が過去1ヵ月間に発したとされる言葉をもとに、「具体的に要求したこと」と「まだ明示的には要求していないこと」を区別して把握すべきだ、というものです。

具体的には、次のとおりです。

・米国が韓国に対し、具体的に要求したこと…対北朝鮮政策の見直しに関する協力、現在最悪の状態で放置されている韓日関係の改善

・米国が韓国に対し、まだ明示的に要求していないこと…中国包囲網に加わること

 じつは、この両者を比較する際に、キル・ユンヒョン氏は当ウェブサイトと同じく、日本、米国などの報道発表を読み解くという作業をしています。そのうえでこんな趣旨のことを指摘します。

・米国は日米豪3ヵ国との首脳会談において、いずれも「インド太平洋」に言及し、さらに日豪両国に関しては中国を名指ししたうえで、地域の安全保障を議論したことを明らかにした

一方、韓国については「インド太平洋」ではなく「東北アジア」という表現を使い、米韓同盟についても「リンチピン」と述べたほか、直接・間接的に中国に言及する表現は使わなかった

 このあたり、韓国の主要メディアの論者でここまで踏み込んで指摘するというのも珍しい気がします(※皆無とまでは申し上げませんが…)。

 そのうえで、キル・ユンヒョン氏は、次のように暫定的に結論付けるのです。

「このような事実を幅広く見てみると、米国が韓国に期待するのは、他のクアッド3国のような『中国牽制』などの国際的な役割というより、『北朝鮮核問題への対応』のような地域的な役割だと注意深く結論を下すことができます。」

 要するに、米国から見た韓国の重要性がガクンと落ちている、というわけですね。

 そのうえで、キル・ユンヒョン氏は、「生半可な予断は禁物」としつつも「米国が直近の『近い未来』に、クワッドに参加してほしいと韓国に要求はしないだろう」と予測しています。

米韓同盟消滅と対韓制裁

●問題は「その次」だ

 さて、キル・ユンヒョン氏は「厳しい現実のなかで私たち(=韓国人)はどのような選択をしなければならないのか」と問題提起したうえで、次の趣旨の記述で文章を締めくくっています(箇条書きに要約しておきます)。

・今のままが良いのか、保守勢力の主張どおりクアッドなどの中国牽制の動きに積極的に参加しなければならないのかを巡って、はっきりした解答を出すには大変な「難題」である

・しかし、バイデン大統領も言及したように、世界はいま、国際秩序が揺れ動く変曲点にある

・いま、私たちが下す選択の結果は、今後の私たちの共同体全体が何代にもわたり担うことになり得るほど、影響を及ぼすことがあり得る

…。

 「今のまま」と「クアッドに入る」が選択肢としておかしいのはご愛嬌でしょう。

ただ、この記述、かなりマイルドな書き方に見えてなりません。

 これが鈴置氏であれば、もう一歩踏み込んで、「韓国が米国の傘から脱し、中国との同盟を目指す」、あるいは「南北朝鮮の統一と核武装中立を目指す」、などと指摘するのではないかと思いますが、さすがに韓国メディアの記者の立場では、そこまでは書けないのでしょう。

 しかしながら、現時点で韓国が下す選択は、何代にも及ぶ将来世代に深刻な影響を及ぼすものとなりかねません。その意味では、私たち日本人も韓国のことを笑っていられません。

●今こそ攻め時

 こうしたなか、現在は日本が「歴史問題」において韓国に反撃するチャンスが生じているという言い方もできます。なぜなら2015年12月の日韓慰安婦合意で、慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決した」と謳われているにも関わらず、韓国がこの合意を事実上反故にしたからです。

 バラク・オバマ政権下の副大統領だったジョー・バイデン氏が現在の米国大統領であるという事実は、日本が米国に対し、「日米韓3ヵ国連携」構想にノーを突きつけるタイミングとしては、ちょうど良いという言い方もできるでしょう。

 個人的には、バイデン氏に対しては政治家としての実務能力に大きな疑念を抱いている次第ですが、幸いなことに、安倍晋三総理大臣とドナルド・J・トランプ前大統領が日米同盟を大きく作り変え、いまや日米2ヵ国の同盟ではなく、汎インド・太平洋同盟を目指して発展し始めています。

 これこそまさに、『日米豪印連携を強化しつつ対韓制裁の準備を進めるべき』https://shinjukuacc.com/20210221-01/で述べた現状認識そのものです。

 ただし、自称「半万年」の歴史を持つ朝鮮半島国家のこと、すべてが一筋縄でいくわけではありません。韓国が追い込まれれば追い込まれるほど、これまで以上にインチキ外交(ウソツキ外交、瀬戸際外交、告げ口外交、二股外交、食い逃げ外交など)を強化して来るであろうことは、容易に想像が付きます。

 その意味では、日韓関係における最初の「ヤマ場」は、現在の文在寅政権が任期満了を迎える2022年5月前後にやってくる可能性があるといえるでしょう。

 厳密には、文在寅氏の後継者の選挙活動が、早ければ今年後半ごろから始まるでしょう。鈴置氏の指摘する、米国が韓国を「通貨でお仕置き」するうえでの絶妙なタイミングが到来するとしたら、まさに今年後半から来年前半、というわけです。

 我々日本人にも、相応の覚悟が求められることは間違いないでしょう。

 おりしも今週金曜日に新刊書『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』が発売されます。

■【参考】『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』(新宿会計士 著)

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 もしもこの書籍を手に取ってくださる方がいらっしゃれば、是非、アマゾンの書評欄にご感想をお寄せください。高評価をつけて欲しいとは言いません。重要なことは「議論すること」だと申し上げておきたいと思う次第です。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20210224-01/

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