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【総論】韓国主権免除違反判決の現時点におけるまとめ

 当ウェブサイトではこれまで、「主権免除」に関する考え方や、韓国の裁判所による「主権免除違反判決」などに関し、三々五々、さまざまな場面で議論してきました。ただし、これらの記事が各所に散らばっていて、なかなか読み辛いのが実情です。

 そこで本稿ではこれらについて、これまでの当ウェブサイトの議論内容をあらためて箇条書きにしたうえで、情報を集約しておきたいと思います。

主権免除に関する考え方・まとめ

当ウェブサイトではこれまで、「主権免除」に関する考え方を、三々五々、さまざまな記事で記載してきました。ただし、これらの記事が各所に散らばっていて、なかなか読み辛いという状況です。

おりしも本日0時をもって、主権免除違反判決が確定したようです。

日本政府に慰安婦被害者への賠償命じた判決 23日確定へ=韓国
―――2021.01.22 17:08付 聯合ニュース日本語版より

ちょうど良い機会ですので、本稿では主権免除やこれに反する判決の問題点等の予定について、情報を集約しておきたいと思います。

主権免除に関する一般的な考え方

まずは、一般的な主権免除に関する考え方をまとめておきましょう。

■主権免除(国家免除)と制限免除主義


「主権免除」とは、「国家やその財産については、他の国の裁判からの免除を認める」という国際法上の原則のこと。「国家免除」と呼ぶこともある。

かつては「絶対免除主義」(主権免除は無条件に認められるとする考え方)が一般に受け入れられた国際ルールとされていたが、19世紀以降、国による経済活動が活発化するなどしたことを受け、現代では多くの国において「制限免除主義」(主権免除に例外を設ける考え方)が採用されるに至っている。

■国連国家免除条約の概要


制限免除主義に関連し、具体的にどの範囲まで主権免除が認められるかを巡っては、国際的なルールが確立されるに至っていない。

こうしたなか、1977年に国連総会が国際法委員会に対し、主権免除に関する国際法規の作成の検討を勧告し、2004年12月2日、国連総会において『国及びその財産権からの免除に関する国際連合条約(国連国家免除条約)』が採択された。条約の骨格は次のとおり。

  1. 原則として、国は他の国の裁判所の裁判権からの免除が認められる。
  2. 例外として、①当該国が明示的に同意した場合の裁判手続(※主権免除を主張する場合を除く)、②国連国家免除条約に定める裁判手続(商業的取引、雇用契約、身体傷害・財産損傷損傷)については、免除は認められない。
  3. 国の財産に対する強制的な措置(差押等)は当該国が明示的に同意した場合を除き取られてはならない
  4. 刑事手続、軍事的活動については本条約の対象外とする

■国連国家免除条約の締結状況


ただし、この国家免除条約自体は未発効である。

条約発効の条件は30ヵ国以上が締結することが必要であるが、条約締結に必要な手続(批准、加入、受諾、承認のいずれか)が完了している国は、2021年1月1日時点において日本を含めて22ヵ国に過ぎない。

・条約に署名しているが、締結手続が完了していない国…ベルギー、中国、デンマーク、エストニア、アイスランド、インド、マダガスカル、モロッコ、パラグアイ、ロシア、セネガル、シェラレオネ、東ティモール、英国の14ヵ国

・条約に署名し、締結手続(批准、受諾、承認のどれか)が完了している国…オーストリア、チェコ、フィンランド、フランス、イラン、日本、レバノン、メキシコ、ノルウェー、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スウェーデン、スイスの14ヵ国

・条約に署名しなかったが、締結手続(加入)が完了している国…赤道ギニア、イラク、イタリア、カザフスタン、ラトビア、リヒテンシュタイン、サウジアラビア、スペインの8ヵ国

【出所】国連ウェブサイト “PRIVILEGES AND IMMUNITIES, DIPLOMATIC AND CONSULAR RELATIONS, ETC” より著者作成

なお、わが国の場合はこの国連国家免除条約に従い、2009年に『外国等に対する我が国の民事裁判件に関する法律』が制定され、2010年4月22日に施行済み。

■国連国家免除条約は発効していないから無効なのか?


この国連国家免除条約自体は未成立であり、たとえば韓国などはこれに加入していない。しかし、この条約については「発効していないから無効」と考えるべきではない。

なぜなら、この条約自体、これまでの国際的な慣習法の考え方を取りまとめたものでもあり、また、国際司法裁判所(ICJ)もしばしばこの条約に言及しているからである。

■ICJの判例


一方、この国連国家免除条約がすべての主権免除の範囲を決めているというものでもない。実際、ICJはかねてより、「強行規範からの逸脱が許されない行為」に関しては主権免除は認められないとの考え方を示している。(ただし「強行規範」と認定されたのは、拷問とジェノサイドだけである)。

ただし、イタリアの最高裁が2004年にドイツ政府に対して損害賠償を命じた事件をめぐり、ICJは2012年、「慣習国際法によりドイツが享受すべき主権免除をイタリア裁判所が否定した行為は、イタリアがドイツに対して負う義務の違反となるものである」と断じている。

韓国の裁判所の主権免除違反判決

次に、韓国の裁判所が2021年1月8日、日本政府を相手取った損害賠償訴訟で下した判決の概要を、韓国メディアの報道や日本政府の発表などをもとに、まとめておきましょう(なお、文中で敬称は略しています)。

■裁判の経緯


2016年1月、自称元慰安婦らが日本政府を相手取り、損害賠償を求めて韓国・ソウル中央地裁に訴訟を提起した。2021年1月8日、日本政府に対し、原告1人あたり1億ウォンの損害賠償を命じる判決が言い渡された。

また、これとは別に2016年12月28日、やはり別の自称元慰安婦らが日本政府を相手取り、損害賠償を求める訴訟を韓国・ソウル中央地裁に提起している。当初、2021年1月13日に判決が言い渡される予定だったが、愛番所は判決期日を延期し、あわせて3月24日に弁論を再開すると決定した。

■日本政府の従前の立場


日本政府はもともと、これらの訴訟については「日本国政府が韓国の裁判権に服することは認められず、これらの訴訟は却下されなければならない」とする立場を韓国政府に対し伝達している。

また、日本政府は慰安婦問題を含めた日韓間の財産・請求権の問題に関しては「1965年の日韓請求権・経済協力協定で完全かつ最終的に解決済み」、慰安婦問題については「2015年の日韓合意において最終的かつ不可逆的な解決が日韓両政府の間で確認されている」としている。

■2021年1月8日の判決骨子


2021年1月8日のソウル中央地裁の判決要旨は次のとおり。

  1. 日本政府のこの事件の行為は合法的とみなしがたく、計画的、組織的に行われた反人道的行為で、国際強行規範に違反しており、特別な制限がない限り『国家免除』は適用されない
  2. 各種資料と弁論の趣旨を総合すると、被告の不法行為が認められ、原告は想像しがたい深刻な精神的、肉体的苦痛に苦しんだとみられるうえ、被告から国際的な謝罪を受けられていないため、慰謝料は原告が請求した1億ウォン以上と見るのが妥当
  3. なお、この事件で被告は直接主張していないが、1965年の韓日(※日韓)請求権協定や2015年の(日韓慰安婦)合意をみると、この事件の損害賠償請求権が含まれているとはみなしがたく、請求権の消滅はないとみる

■日本政府の反応


この判決に対し、内閣総理大臣・菅義偉は同日、次の趣旨の発言を行った。

「国際法上、主権国家は他国の裁判権には服さない。よって、この訴訟は却下されるべきと考える。日韓の慰安婦問題についても1965年の日韓請求権協定において、完全かつ最終的に解決済みである。よって、韓国政府として国際法上違反を是正する措置を採ることを強く求めたい」。

また、内閣官房長官・加藤勝信は同日の記者会見で、日本国政府が韓国の裁判権に服することは認められないとして、日本政府が控訴する考えはないと明らかにした。

ただし、記者会見の場で記者から日本政府が講じ得る対抗策について、ICJ提訴や大使召還などの可能性を尋ねられたところ、加藤はその具体的な内容に言及していない。

■日本政府が控訴しないことの意味


日本政府が韓国の裁判所で控訴しなかったことが妥当であるかを巡っては、当ウェブサイトの読者コメント欄でもさまざまな反応が見られる。

とくに国連国家免除条約第8条2の規定に基づけば、日本政府が主権免除を主張するためだけに韓国の裁判所に控訴したとしても、「韓国の裁判所による裁判権の行使に同意した」ことにはならないとの指摘もある。

ただし、このような解釈が成り立つことはたしかではあるが、おそらく日本政府の言い分は「そもそも日本政府が韓国の裁判権に服することは認められない」というものであり、この国連国家免除条約とは別次元の判断であろうと考えられる。

国外交部の報道官の判決当日における発言

最後に、本件に関する韓国政府の現時点までの反応をまとめておきましょう(ここでも敬称を省略しています)。

■2021年1月8日の判決骨子


韓国政府・外交部の報道官である崔泳杉は判決の当日、次のように語った。

  1. 政府は裁判所の判断を尊重し、慰安婦被害者の名誉と尊厳を回復するためにできる限りの努力を尽くす
  2. 政府は2015年12月の慰安婦問題を巡る韓日政府の合意が両国政府の公式合意である点を確認する
  3. 同判決が外交関係に及ぼす影響を綿密に検討し、韓日両国の建設的かつ未来指向的な協力が続くよう努力を傾ける

■韓国大統領・文在寅の1月18日における発言


韓国大統領・文在寅は1月18日、毎日新聞記者の堀山明子の質問に対し、日韓関係についての発言を行った。その発言について、順序を変更し、重複を削除するなどして整理すると、次のとおり。

  1. 過去の歴史は過去の歴史として、韓日関係は未来志向に発展させなければならない。韓日間には解かねばならない懸案があり、外交的に解決しようと両国はさまざまな協議をしている。
  2. こうしたなか、慰安婦判決が出た。率直に言って、少し困惑しているのが事実だ。2015年の韓日の慰安婦合意が両国政府の公式合意だった事実を認める。その土台の上で被害者も同意する解決策を見つけられるよう、韓日間で協議する
  3. こうしたなか、慰安婦判決が出た。率直に言って、少し困惑しているのが事実だ。2015年の韓日の慰安婦合意が両国政府の公式合意だった事実を認める。その土台の上で被害者も同意する解決策を見つけられるよう、韓日間で協議する

【参考】本記事のたたき台の記事

さて、冒頭に述べたとおり、この主権免除違反判決は、日本政府が控訴しなかったことによって確定してしまいました。

あくまでも個人的な感想ですが、これによって本当に困った立場に追い込まれたのは、じつは韓国政府なのかもしれません。自国の裁判所が、またひとつ、国際法に違反した判決を確定させてしまったからです。

もっとも、2018年10月の自称元徴用工判決に見るとおり、韓国の国際法違反判決は、べつにこれが初めてではありません。いずれにせよ、来週以降は、日本政府が本件について何らかの対抗措置を講じるのか(あるいは講じないのか)などについては、引き続き注目したいと思います。

参考までに、本記事でまとめた内容について、それぞれ詳しく議論した過去記事についても紹介しておきたいと思います。

『【総論】国家免除条約と「主権免除が認められる事例」』(2021/01/08 05:00)

『主権免除違反判決は一審で確定してしまう可能性がある』(2021/01/08 07:00)

『【速報】日本政府が韓国で敗訴、主権免除違反確定へ?』(2021/01/08 10:00)

『慰安婦巡る「主権免除」違反判決、韓国裁判所の言い分』(2021/01/08 12:40)

『判決は確定へ:「日本政府は控訴せず」=加藤官房長官』(2021/01/08 14:15)

『慰安婦判決巡っても無責任で当事者能力のない韓国政府』(2021/01/09 05:00)

『韓経、主権免除違反判決は「日本に対する最後通牒」』(2021/01/10 09:00)

『慰安婦判決で追い込まれたのはむしろ文在寅氏その人だ』(2021/01/11 05:00)

『文在寅氏「韓日協力」に菅総理「韓国が適切な行動を」』(2021/01/19 05:00)


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.ccom/20200918-03/

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