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終わり告げるか平和演出、米大統領選後の朝鮮半島情勢

 米大統領選で民主党候補のバイデン氏が「勝利」宣言した中、朝鮮半島情勢の行方にも関心が集まっている。トランプ米大統領の逆転の可能性が残ってはいるが、バイデン氏が大統領に就任するという事態になれば、トランプ氏と金正恩朝鮮労働党委員長による3度の首脳会談で演出された平和ムードはひとまず終わりを告げるとみられる。北朝鮮は対米交渉戦略の見直しを迫られ、韓国も米朝対話を前提にした対北融和路線が壁にぶつかるのは避けられない。
(ソウル・上田勇実)

北、対米交渉見直しも
韓国の対北融和も“壁”に

金正恩委員長(朝鮮通信・時事)

金正恩委員長(朝鮮通信・時事)

 バイデン氏が勝利宣言した8日、元北朝鮮外交官で保守系野党・国民の力の太永浩議員は自身のフェイスブックに「これまでトランプ氏が金正恩氏と繰り広げた非核化ショーは幕を下ろした。北朝鮮の核問題を解決するつもりなのか、しないつもりなのかをめぐりこれ以上全世界を混乱させるショーはないだろう」と記した。

 韓国保守派の間でトランプ・金正恩会談は不評を買ってきた。正恩氏が見せ掛けの非核化でトランプ氏から制裁緩和を引き出そうとしていたにもかかわらず、トランプ氏が自身の政治的思惑からそうした会談に応じたためだ。太議員の書き込みにはトランプ時代が終われば正恩氏との「ショー」は終わる、という安堵(あんど)感がにじみ出ている。

 今のところ北朝鮮は米大統領選に対する公式見解を示していないが、「すでにバイデン新政権を想定した対策づくりに入っている」(北朝鮮消息筋)とされ、対米交渉戦略の見直しに入ったものとみられる。

バイデン氏(AFP時事)

バイデン氏(AFP時事)

 バイデン氏は選挙期間中、トランプ氏とのテレビ討論会で正恩氏のことを「悪党」と呼び、正恩氏との首脳会談に臨んだトランプ氏を非難。北朝鮮が核能力を縮小するなら正恩氏と会うと述べた。バイデン氏は「核能力の縮小」という前提条件を精査する実務者レベルの協議を積み上げた後に正恩氏との会談に応じる可能性が高く、北朝鮮としてはトランプ氏個人の判断に懸けた対米交渉戦略は通じなくなる。

 韓国の文在寅政権も軌道修正を余儀なくされそうだ。政権寄りとされる左派紙ハンギョレ新聞は文政権に対し、バイデン新政権発足を念頭に「朝鮮半島平和プロセスと米朝交渉が好循環になるよう韓国が主導する明確なビジョン」を求めているが、そもそも韓国主導には無理がある。

 残り任期約1年半となった文政権にとって最優先課題は朝鮮半島の平和定着で、それは文氏が最近、終戦宣言の必要性を繰り返し強調していることからも分かる。だが、昨年2月のハノイでの米朝首脳会談が決裂して以降、米朝対話が事実上途切れた上、原則重視のバイデン氏が大統領に就任すれば米朝の橋渡し役をすることで平和を定着させようとした構想を再び実行に移すのは容易ではない。

文在寅大統領(EPA時事)

文在寅大統領(EPA時事)

 これまで北朝鮮は米国で新政権が発足するたびに、その出方を見極めるまで様子見の構えを見せてきた。このため来年前半までは北朝鮮が米国との交渉に積極的に乗り出すかは不透明との見方もある。仮に北朝鮮が再び米朝対話に乗り出したとしても、北朝鮮側の非核化意志に対する検証が遅れれば、文氏の方が時間切れになる可能性がある。

 朝鮮半島の平和定着はどこまでも北朝鮮が核攻撃はじめ各種兵器による軍事挑発路線を放棄するか否かに懸かっている。しかし、先月の労働党創建75周年の軍事パレードでは機動性の高い固体燃料式の各種新型短距離ミサイルが何種類か登場するなど、逆に韓国の安保危機が深まっている。

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