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改めて読みたい名著『米韓同盟消滅』

 鈴置高史氏といえば、日本を代表する優れた韓国観察者ですが、鈴置氏の仕事の画期的な部分というのものは、韓国を「米国との関係」で論じている点にあります。とくに、鈴置氏の著書『米韓同盟消滅』は、すべての日本人が読まねばならない「必読書」ではないかと思う次第です。

【参考】『米韓同盟消滅』

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(【出所】アマゾンアフィリエイトリンク)

 では、なぜこれが「画期的」なのでしょうか。

 それは、並み居る「韓国論」とは一線を画しているからです。

日本国内の韓国論

●嫌韓論
 これについて考える前に、世間に蔓延する「嫌韓論」について、少々触れておきたいと思います。

 自称元徴用工判決問題や日韓GSOMIA破棄、火器管制レーダー照射や当時の国会議長による上皇陛下に対する侮辱発言など、韓国の日本に対する常軌を逸した振る舞いを見て、韓国が嫌いになったという日本人は多いのではないかと思います。

 また、「日韓関係が壊れては困る」という立場の人であれば、「どうすれば韓国に正気に戻ってもらえるか」、「どうすれば日韓関係を壊さないで済むか」といった点から、「日本にできることは、いったい何があるのか」とやきもきしているのかもしれません。

 こうしたなか、個人的な印象ですが、インターネット上ではとくに自称元徴用工判決の直後あたりから、ウェブ評論サイトや個人ブログ、あるいは動画サイトやSNSなどを中心に、「嫌韓」的なコンテンツが激増したのも事実でしょう。

 これらの「嫌韓」的なコンテンツのなかには、「韓国は異常な国だ」、「こんなことをしている韓国は絶対に滅びるに違いない」などと叩いたり、「日韓断交だ!」、「韓国に対する経済制裁だ」、「倍返しだ」などと叫んでみたり、と、内容はさまざまでしょう。

 (※余談ですが、韓国の行動が常軌を逸していることはたしかですが、だからといって差別的な用語を使って韓国を貶めるようなコンテンツはいかがなものかと思いますし、嫌韓が高じてフェイクニューズを発信するのは明らかに行き過ぎでしょう。)

●韓国論の2類型

 これらの「嫌韓論」的なコンテンツを見ていると、日韓関係を壊そうとする韓国の行動をもとに、韓国が主張する「日帝36年の蛮行」の捏造ぶりを糾弾するものや、「日韓関係の真っ暗な未来」を憂うものもある一方、単純に韓国を小バカにして楽しむようなコンテンツも見受けられます。

 それらの典型例は、いまや世の中に腐るほど存在する「まとめサイト」です。

 これは、某匿名掲示板に転載された韓国メディア日本語版(中央日報、朝鮮日報、ハンギョレ新聞など)や日本の左派メディア(朝日新聞、毎日新聞、東京新聞など)の記事や、それらに対する罵詈雑言を、そのまま転載したブログサイトのことです。

 (※余談ですが、これらの「まとめサイト」について、「まとめサイト」管理人のまとめ方が巧みな場合は非常に興味深く読めるのですが、残念ながら、最近では、「他人が交わした議論を転載するだけ」、「PVを稼ぐために必要以上に過激なタイトルを付す」、といったものも多いようです。)

 一方、こうした「嫌韓論」の裏返しにあるのが、「朝鮮半島生命線説」とでもいえば良いのでしょうか、「日本にとって韓国は地政学的にどうしても必要な場所だ」、などとする議論です。「韓国の行動は腹が立つが、日本は我慢しなければならない」、とする主張だと言い換えても良いでしょう。

 たとえば、一般に「保守的」とされ、独自の視点が高く評価されている高名な某戦略家の方などは、「日米は中国を喜ばせすぎないよう、文在寅政権崩壊後の韓国に親日・親米政権が立つよう努力すべきだ」などと主張されています(『「日韓関係悪化は中国を利する」、その何が問題なのですか?』参照)。

 また、とある著名な(自称)保守派の論客も、「韓国を敵陣営に回してはならない」、「安倍政権下で日本は蚊帳の外に置かれている」などと主張したほどです(『「日韓GSOMIA破棄は安倍外交の失敗」という珍説』参照)。

 これらの主張に共通点があるとしたら、「朝鮮半島生命線説」とでも言えば良いのでしょうか、「韓国は日本に近い国だから、どんなコストを払ってでも、絶対に敵対国にしてはならない」という固定観念にとらわれているという点にあります。

 すなわち、「韓国は腹が立つ国だが、日本の未来のことを考えたら無碍に扱うことはできない」、という発想ですね。

●日韓関係だけを取り上げても意味がない

 ただ、個人的な不満を正直に申し上げるなら、彼らがそういう行動を取ることについて、表層的なところをなぞるだけのサイトは、あまり参考になりません。なぜなら、これらについてはいずれも「日韓関係」のみに焦点を当てているのが特徴ではないかと思います。

 しかし、外国との関係を論じる際には、必ず織り込まねばならない視点が2つあります。1つ目は縦軸、つまり「歴史」であり、2つ目は横軸、つまり「地理」です。

 まずは「縦軸」です。

 韓国は「半万年」の歴史を持つ悠久の国家だと自称していますが、その韓国、あるいは朝鮮半島は、歴史的には長い間中国の属国であり続け、自らの力で独立を達成していた時期はほとんどありません。だからこそ、自力で国を運営することはできません。

 日清戦争で19世紀末に大清帝国から独立させてもらったにも関わらず、自力で国家運営ができなかったことは、その証拠でしょうし、日本が下手に朝鮮半島や大陸に関わると、やらなくて良い戦争に巻き込まれるというのが歴史の教訓だと思います。

 次に「横軸」に関して。

 朝鮮半島は歴史的に、中国という超大国と、海を隔てた日本という大国に挟まれ、両国の緩衝地帯のような役割を果たしてきたという側面がありますが、現代でもその構造は基本的に変わりません。
 韓国は38度線で北朝鮮と接する陸の孤島であり、米国に独立させてもらったという経緯もあるため、日米との関係が強くならざるを得ないという性質を持っているのですが、それと同時に黄海と北朝鮮を挟んで隣り合う中国から大きな圧迫を受け続けているという国でもあります。

 当然ながら、地理的、歴史的に見て、韓国は中国を取るか、日本(と米国)を取るか、という「二者択一」を迫られる立場にありますし、長い目で見て中国というブラックホールに吸い込まれていくことも、仕方がない話なのかもしれません。

 そして、韓国を無理やり私たち日米の陣営に留めようとしたら、私たち・日本も中国に吸い寄せられる可能性もありますし、経済規模が大きな日本が不法侵略を続ける中国と下手にくっつくと、東アジア全体の不安定化につながりかねません。

 だからこそ、私たち日本としては、もしも韓国がいずれ中国に呑まれるのならば、それに備えて日本に被害が及ばないように準備をしなければならないのであり、その準備は待ったなしなのです。

米韓同盟消滅が現実化?

●鈴置氏の画期的な部分

 以上の議論は、わが国に蔓延する「嫌韓論」や「朝鮮半島生命線説」には根本的に欠落しています。

 つまり、相手が日本と同じような価値観を持ち、同じような行動原理に立脚しているという「勘違い」が、問題を複雑化しているのです。

 だからこそ、日韓関係からいったん離れ、少し俯瞰的な目でこの半島を見てやる必要があるのですが、これこそ冒頭で申し上げた、鈴置論考が画期的だったという部分なのです。

 (※肝心の『米韓同盟消滅』の内容については、当ウェブサイトでは『名著『米韓同盟消滅』でレーダー照射問題を読み解いてみる』などでも少しだけ触れているものの、詳しくは実際に同著を購入するか、図書館などで借りるかして、是非とも読んでいただきたいと思います。)

 この点、当ウェブサイトが好んで用いる「縦軸」、「横軸」、「朝鮮半島生命線説」などの用語が鈴置氏の議論で出てくるわけではありませんが、いずれにせよ、鈴置氏の議論を当ウェブサイトなりに解釈した結果、韓国について論じるときには必ず「日米同盟」という視点がなければならないと思い至った次第です。

 そして、この「米韓同盟消滅」という不気味な予言が、少しずつ成就し始めているように思えてならないのが気になる点です。というのも、最近、米韓同盟に関し、看過できない記事がいくつか出て来ているからです。そのひとつが、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に掲載された、次の記事です。

米国防長官「韓国は中国に対抗する同盟国」

 マーク・エスパー米国防長官が16日(現地時間)、「韓国は米国と共に中国に対抗する同盟国」と述べた。18日に就任予定の徐旭(ソ・ウク)新国防部長官と初めて会う韓米定例安保協議(SCM)を控えてだ。<<…続きを読む>>
―――2020.09.17 15:55付 中央日報日本語版

 これは、マーク・エスパー米国防長官が現地時間の16日、米シンクタンクのランド研究所が主催した講演会で、「韓国は米国とともに中国に対抗する同盟国だ」と発言した、とするものです。

 中央日報がやや「書きすぎ」かもしれないが…
中央日報によると、エスパー長官は18日に徐旭(じょ・きょく)新国防長官と初めて会い、米韓定例安保協議(SCM)に臨みます(※徐旭氏は退任した鄭景斗(てい・けいと)国防長官の後任です)が、この報道が事実なら、これは明らかに中国に対してというよりも、韓国に対する牽制でしょう。

 中央日報が報じたエスパー氏の発言は、次のようなものです(日本語としてやや意味が通じ辛い部分もありますが、基本的に原文のままで抜粋しています)。

「中国が米国と潜在的な葛藤を考える時、単に米国だけを考慮してはいけない。米国と日本、オーストラリア、韓国、シンガポールなども考えなければならない。多くの欧州のパートナーもこの戦区(theater)に該当するかもしれない」。

 もっとも、これについて、米国防総省のウェブサイトに掲載されている “Secretary of Defense Speech at RAND (As Delivered)” のページをチェックしてみたのですが、「韓国は米国の同盟国」という発言は確認できませんでした。

 このため、「韓国を名指しした」という中央日報の報道は、もしかすると「勇み足」という可能性はありますので、注意が必要です(といっても、質疑応答のセッションなど、米国防総省HPには掲載されていない部分で、そういうやりとりがなされていたのかもしれませんが…)。

 ただ、エスパー氏の講演内容は、「インド太平洋が米国にとって最も優先して力を入れるべき地区」とするものであるため、「米国の同盟国は米中対立局面で米国の側に着いてほしい」というニュアンスが含まれていることは間違いないでしょう。

 いや、もう少し正確に言えば、こうした発言は、「この局面で米国ではなく中国の側に着くというのがどういう意味か、わかっているだろうな」という脅しだ、と見るべきでしょう。

●クアッド=アジア版NATO?

 さらに、中央日報は次のようにも述べます。

「トランプ大統領が再選される場合、米国の対中国安保包囲網の『クアッド』(Quad、インド太平洋戦略の核心となる米日豪印4カ国の安全保障協議体)に対する参加要求がさらに強まるという見方も出ている。」

 この「アジア版NATO」は、まことに僭越ながら、当ウェブサイトではかなり以前からしばしば言及しているものであり(たとえば『鈴置論考「共通の敵のない同盟の存在意義は薄い」』等参照)、潜在的には対中・対露包囲網としての性質を持ちます。

 あるいは、「クアッド」だけでなく、いわゆる「ファイブアイズ」に日本を加えて「シックスアイズ」(『中国共産党が恐れる「シックスアイズ」こそ日本の進路』等参照)などの同盟が重層的に積み重なることも、日本にとっては決して悪いものではありません。

 ただし、このような構想が動き出したときに、慌てるのが韓国です。なぜなら、当たり前の話ですが、米国にとっては高いカネを払って守ってやっている同盟国が、自国と中国を値踏みするような動きを取れば、黙ってはいないと思われるからです。

 それこそ『鈴置論考が示唆する「日韓関係破綻」の在り方』などでも触れたとおり、米国は中立を嫌いますし、中立国を明確に「敵」と位置付けるでしょうし、もしかしたら中立国に「金融締め上げ」という「サイレント型経済制裁」を加えるかもしれません。

同盟の意義を強調するわけ

 おそらくその理由は、米韓同盟が消滅の危機に瀕していることを米国側もしっかりと認識しているからなのだと思います。つまり、米韓同盟が消滅の危機に瀕しているからこそ、わざわざ「同盟は堅牢だ」と主張するのでしょう。

 いずれにせよ、もし本当に、近い将来、米韓同盟が消滅するのであれば、米韓同盟や日韓基本条約の存在を前提とした日韓関係は、もはや維持できません。そのことを、果たしてどのくらいの人が理解しているのかは、はなはだ怪しいものがあります。

 だからこそ、当ウェブサイトを継続しなければならないのかもしれませんね。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.ccom/20200918-03/

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