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「不適応・差別」「郷愁」で再入北 脱北者が“地獄”に戻る理由

北の工作や文政権による送還も

 命を懸けて北朝鮮を脱出し、韓国にたどり着き、ようやく定着したのに、北朝鮮に戻ってしまう人がいる。韓国統一部によれば「2012年以降、再入北した脱北者は28人」だ。しかし月刊朝鮮(9月号)は「実際にははるかに多いと推定される」という。同誌が「彼らが“地獄”を選んだ理由」の記事を載せている。

 7月に一人の脱北者が北に帰った。江華島桐島近海の漢江河口を泳ぎ渡って行ったという。来た時と同じルートだそうだ。この再入北をきっかけに韓国では脱北者問題に関心が集まった。

 韓国民にしてみれば、自由と豊かさを求め死線を越えて来たはずの「同胞」がどうして再び“地獄”へ帰ってしまうのか、戸惑いがあるだろう。同誌は脱北者の話を聞き、境遇を調べることでその理由を探った。

 脱北者は韓国に来ると約3カ月「臨時保護」下に置かれ、その後定着支援施設「ハナ院」に入所、12週間の訓練を受ける。内容は「韓国社会への適応のための基礎教育。民主主義、市場経済、人権など社会理解のための授業を受け、職業体験」もする。

 だが、多くの脱北者がここでの訓練が「役に立たなかった」と証言しているという。現実の韓国社会は、北では体験したことのなかった激しい競争社会、学歴社会で、韓国人ですら生きづらい「ヘル朝鮮」である。弱肉強食の資本主義社会に放り出された脱北者はひとたまりもない。

 教育プログラム自体にも問題があるようだ。座学で民主主義体制、資本主義社会、契約社会を説明したところで頭に入るものではない。職業訓練にしても、北朝鮮にはないような「ネイルアート」だとか「製パン業」などで、それを受けたところで技術のない彼らを雇い入れる職場はない、といった具合だ。

 しかし、脱北者は期間が過ぎればここを出され、韓国社会で生活していかなければならない。職歴もない履歴書を持って仕事を探し、収入を得て、住居を借りて、独り立ちするのがどれほど大変なことかは部外者でも容易に想像がつく。

 韓国社会で挫折した脱北者は結局「郷愁」に襲われる。ハナ財団が調べた調査でも27・4%がこれだ。「競争社会について行けず」が18・6%、「差別・偏見」が18・3%と続く。

 「初期5年が定着のゴールデンタイム」と言われるそうだが、この間「言葉だけ通じる外国人」として、家族もなく一人で、慣れない文化、周辺との誤解・摩擦、低賃金、生活苦の中で暮らす。そこに家族の顔が思い浮かべば、北へ戻るな、というのが無理な話だ。

 北へ戻る理由の多くは「不適応・差別」と「郷愁」だが、中には北朝鮮による帰国工作もある。郷里に残してきた親兄弟を“人質”にして帰るよう強要し、北メディアに登場させて、南がいかに非情な世界だったかを“証言”させるのだ。

 また脱北仲介者が連れ戻すケースもあると同誌は紹介する。主に中国人や朝鮮族がこの脱北・韓国入国を“支援”しているのだが、宗教団体でなければ、ほとんどは「ビジネス」だ。この業者が中国当局や北朝鮮から脅されて、脱北させた人物を今度は韓国から連れ戻す仕事をやらされるケースもあるというから、半島での「人」の運命は苛烈(かれつ)を極める。

 北へ戻った人の処遇はどうなるか。北の体制宣伝に使われたとしても、脱北した罪は消えない。家族と共に収容所へ送られるのだという。

 文(ムン)在寅(ジェイン)政権はその脱北者を待つ運命を知りながら、北へ送還している。慰安婦運動で「私腹を肥やした」疑惑のある尹(ユン)美香(ミヒャン)国会議員の夫、元活動家の金(キム)三石(サムソク)氏などが脱北者に「北へ戻れ」と“勧めて”いたことも明らかになっている。もはや、人権弁護士出身の大統領、戦時女性の人権を訴えている団体の元代表が、そろって北送還という「非人道」的な業に手を染めているのだ。

 しかし、同誌はこの文政権と尹議員らについては触れていない。さらに言えば、脱北を生む根本的原因である北朝鮮体制の悲惨さにも言及していない。この点は物足りなさがある。

 編集委員 岩崎 哲

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