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経産相発言から読む:韓国のWTO提訴は悪手中の悪手

 本稿では、これまでと少し毛色を変えて、いままであまり提示したことがない仮説を、あえて紹介したいと思います。それは、「じつは日本政府は本心では韓国に対する輸出管理を緩和したいと思っていたのではないか」、という仮説です。この仮説には確たる根拠があるわけではありませんが、ただ、日本政府のこれまでの動きを眺めていると、数少なくなった「韓国擁護派」の意向を尊重しようとする姿勢が垣間見えます。そして、韓国による対日WTO提訴は、こうした数少ない希望の芽を、韓国がみずから摘み取ってしまった、という仮説が成立する余地があるのです。


政策対話巡る日本政府の失望

●まったく予想どおりの梶山経産相の発言

 日本の韓国に対する輸出管理適正化措置と、これに対する韓国の対日WTO提訴については、『裏目に出るか?WTOがパネル設置=対韓輸出「規制」』などを含め、当ウェブサイトではすでに何度も取り上げてきた論点のひとつです。

裏目に出るか?WTOがパネル設置=対韓輸出「規制」


昨日の『日本の対韓輸出「規制」、本日にもWTOパネル設置か』では、日本の対韓輸出管理適正化措置を「輸出『規制』」だと述べる韓国側が日本をWTOに提訴する手続を進めている、という話題を取り上げました。<<…続きを読む>>
―――2020/07/30 06:00付 当ウェブサイトより

 上記記事などを含め、当ウェブサイトではこれまで、「韓国がパネル設置を推進したこと自体、日本の対韓輸出管理緩和を遠のかせるだけでなく、むしろ対韓輸出管理のさらなる厳格化を招きかねないという意味で、韓国にとっては裏目に出るかもしれない」、と申し上げてきました。

 こうした当ウェブサイトなりの見方が正しかったことを示す「続報」が出てきました。

 昨日のロイターの記事によれば、梶山弘志経産省は昨日の閣議後の会見で、このパネル設置を巡る韓国側の対応を「極めて遺憾」としたうえで、こうした状況下での政策対話開催は難しいとの見解を示したのだそうです。ロイターの記事から、梶山氏の発言を抜粋すると、次のとおりです。

「韓国側の一方的な対応は、日韓双方が対話とコミュニケーションを通じて懸案を解決するとした輸出管理政策対話での合意を反故にしかねないものであり、このような状況下での政策対話開催は困難だ」。

 まさに、当ウェブサイトが予想したとおりの反応ですね。

●日本の対韓輸出管理強化の目的とは?

 改めて経産省が昨年7月に発表した韓国に対する輸出管理の厳格化・適正化措置を振り返っておくと、①韓国を輸出管理上の「(旧)ホワイト国」(現「グループA」)から「グループB」にランクダウンすることと、②ウラン精製などに用いられる物資などを個別許可に切り替えること、などで構成されています。

記者会見を行う梶山 弘志経済産業大臣(経済産業産Yotubeチャンネルより)

記者会見を行う梶山 弘志経済産業大臣(経済産業産Yotubeチャンネルより)

 あくまでも当ウェブサイトの理解に基づけば、日本政府がこの措置を発表した理由は、韓国に輸出された日本産の一部品目について、何らかの不正利用がなされていた(あるいはその疑いがある)と日本政府が考えているからでしょう。

 そう考える根拠はいくつかあるのですが、それらを裏付ける証拠は、公表された客観的な事実関係だけでも多数あります。そのほんの一部を紹介しましょう。

 たとえば『日本産フッ化水素、韓国が全世界にばら撒いていた?』でもお伝えしたとおり、財務省の普通貿易統計を確認してみると、『HS番号2800.11-000』の対韓輸出高が異常に膨らんでいた、などの事実が確認できます。

 また、日本政府がこの措置を発表した2019年7月1日時点といえば、日韓間の懸案事項である自称元徴用工判決問題を巡り、日本政府が韓国に対し、問題解決のための「第三国仲裁」を呼びかけていた時期であり、この時期に日本政府が何らかの対抗措置を取るとは考えられません。

 以上のような事実を積み上げていくと、結局、日本政府がこのような措置を講じた最大の理由は、(自称元徴用工判決問題やレーダー照射事件などの)韓国の不法行為に対する「意趣返し」ではなく、純粋に韓国の輸出管理体制が「信頼に値しない」と判断するに至ったからだ、と考えるのが自然でしょう。

●韓国の支離滅裂な反応と「政策対話」

 しかし、これを韓国政府側は、(少なくとも公式には)こうした見方をしておらず、日本のこの輸出管理適正化措置を「不当な輸出『規制』だ」などと述べたうえで、その全面撤回などを求めていることは、すでに当ウェブサイトでも何度も触れてきたとおりです。

 ただ、韓国政府の言い分はなにかと支離滅裂で(※下記参照)、とくに下記の「②韓国は日本の輸出『規制』では困っていない」とする主張と、「④日本は今すぐ輸出『規制』を全面撤回せよ」とする主張が正面から矛盾していて、思わず乾いた笑いが出てしまうのです。

■韓国政府の輸出「規制」論


①日本の対韓輸出「規制」措置は強制徴用問題に対する報復である
②韓国は順調に「脱日本化」を進めているため、日本の輸出「規制」では困っていない
③日本の輸出「規制」はノージャパン運動を通じむしろ日本に打撃を与えている
④日本は今すぐこの輸出「規制」を全面撤回すべきだ

(※「強制徴用問題」とは自称元徴用工問題のこと。)

 実際、韓国政府はすでに日本を相手取り、世界貿易機関(WTO)に提訴する手続を済ませ、7月29日には紛争解決小委員会(パネル)が設置されてしまいました(『韓国のWTO提訴は成績不良な学生の裁判のようなもの』等参照)。

 この点、当ウェブサイトの理解が正しければ、日本政府が昨年7月に発表した一連の措置は、あくまでも安全保障に基づくものです。したがって、これを「全面撤回」(?)するためには、「韓国の輸出管理体制は信頼に値する」と日本政府が確信するための、何らかの合理的な理由が必要です。

 もちろん、それを証明する義務は、韓国政府にあります。そして、おそらく日本政府は「韓国の輸出管理体制が問題ないものである」という合理的な確信を求めており、そのための手段のひとつが、「輸出管理を巡る日韓政策対話」ではないでしょうか。

 だからこそ、WTOを通じた対決的な姿勢ではなく、日韓双方の政策対話により、政策当局者同士の信頼関係を深める方が、日本の韓国に対する輸出管理緩和には有益なのです。

●政策対話を巡る韓国政府の支離滅裂さ

 ただ、この政策対話自体は2016年前半ごろまでは開催されていたのだそうですが、その後は日本政府の求めに韓国政府が応じずに対話が途絶え、2019年12月に政策対話が復活するまで、およそ3年半のブランクがあったのだそうです。

 また、日本政府側の要求は、おもに「キャッチオール規制」の整備や輸出管理に携わる体制(とくに組織・人員など)の拡充などだったと伝えられていますが、これらの報道が確かなら、日本政府の要求はきわめて穏当かつまっとうなものだといわざるを得ません。

 そして、何に関してもいえることですが、体制を整えるだけではダメであり、実際にそれらが運営され、ちゃんと機能しているという実績が積み上がることが必要です。一般に「陣容を整えました」、で終わることではないのです。

 それなのに、韓国政府は5月12日になって、突如として、「日本が昨年講じた輸出『規制』をどう解決するのか、5月末までに回答せよ」と要求してきたのです。控えめに言って韓国政府の行動は支離滅裂と言わざるを得ませんね。

 そのうえで、日本政府が韓国政府の要求する回答期日までに、これに回答しなかったとして、韓国政府は6月2日になって、日本の「輸出『規制』」を巡って世界貿易機関(WTO)への提訴手続を再開すると表明しました(『韓国に対する輸出管理はむしろ「厳格化」もあり得る!』等参照)。

 このように経緯を振り返っていくと、韓国政府の行動は支離滅裂でめちゃくちゃだということがよくわかります(まるで日本の某野党のようですね)。

日本政府の「ホンネ」とは?

●なぜ日本政府は政策対話を求めているのか?

 ただ、「日本の輸出『規制』は強制徴用問題に対する経済報復である」とする韓国政府の主張が正しければ、ここで根本的に大きな疑問が出てきます。それは、「なぜ経産省が韓国との輸出管理に関する政策対話を積極的に呼びかけているのか」、という点です。

 そもそも日本が韓国に対し、経済報復をする目的で今回の措置を打ち出したのであれば、韓国に政策対話を呼びかけるはずがありません。また、日本政府が韓国を輸出管理上、さらにランクダウンしようとしているならば、なおさら日本政府のこうした行動は説明がつきません。

 やはり、経産省が韓国に対する政策対話を粘り強く求め続けている理由は、「日本政府としてはこれ以上、韓国に対する輸出管理を強化したくはないから」ではないでしょうか。

 実際、日本政府が昨年発動した措置は、輸出「規制」の一種だとみるならば、あまりにも緩すぎます。

 たとえば、韓国を「グループA」から除外したことは事実ですが、引き続き韓国は「グループB」という優遇対象国に位置付けられており、これは中国や台湾を含めたほかのアジア諸国と比べても、非常に優遇された地位にあります。

 また、一部品目の輸出が「個別許可」に切り替わったことは事実ですが、基本的には「禁輸措置」ではありませんし、『普通貿易統計』上、個別品番が特定されている『2811.11-000』(フッ化水素とフッ化水素酸)については、2019年8月を除いて、毎月継続的に、韓国に輸出されています。

 さらに、個別許可に切り替わったのは3品目に限定されていますし、3品目のうちのレジストについては、昨年12月に「特定包括許可」という仕組みが使えるように緩和されています(『【速報】「韓国向け輸出管理を一部緩和」報道の意味』等参照)。

 こうした日本政府の姿勢を眺めていると、むしろ本心では韓国に対する輸出管理を緩和しようとするベクトルが働いているように思えてなりません。
●韓国が政策対話に応じたことの意味

 この、「日本政府はホンネでは韓国に対する輸出管理を緩和したいと思っている」とする仮説が正しいのかどうかについては、正直、よくわかりません。ただ、このような仮説を立てると、日本政府の行動や世耕弘成・前経産相、梶山弘志・現経産相らの発言が、非常にすっきりと説明できることもまた事実です。

 ということは、韓国政府がもし真面目に日本の求めに応じて政策対話に臨み、日本の求めに応じて輸出管理体制を拡充し、きちんと運用するようになったとしたら、日本政府としては韓国を「グループB」に落としたうえ、3品目の輸出を個別許可に切り替えた理由がなくなるはずです。

 そして、万が一、日本政府が韓国を再び「(旧)ホワイト国」に戻すとなれば、日本国民の世論の強い反発に遭うことでしょう。この点、昨日の『日本の国民感情を積極的に傷つけることで墓穴掘る韓国』でも説明しましたが、政策の推進力としては、国民の支持がどうしても必要です。

 その意味で、韓国政府が昨年12月の段階で3年半ぶりに政策対話に応じたこと、今年3月にも再び政策対話の開催にこぎ着けたことは、どちらも、日本が韓国に対する輸出管理を緩和するうえでは、間違いなくポジティブな材料だったはずです。

 経産省としては、産業界の要望などもあり、韓国を輸出管理上の最優遇対象国に戻したいと考えているものの、国民世論を納得させるためにも、なんとしても韓国には政策対話に戻ってもらわなければならない、というジレンマに陥っているのかもしれません。

●韓国のグループA復帰は困難?

 すなわち、日本側がここまで誠意を尽くして手を差し伸べているにも関わらず、韓国側がその手を振り払うような行動を取るならば、韓国に対する輸出管理を優遇する方向への推進力は間違いなく失速するでしょう。

すなわち、韓国による対日WTO提訴は、韓国が自分で自分の首を絞めることにつながります。というのも、こんな状況だと、輸出管理を巡る政策対話が実現できないからです。いや、むしろ韓国政府の「ファイティングポーズ」自体、輸出管理上の措置をさらに厳格化することにもつながりかねません。

 そもそも日韓政策対話が昨年12月に3年半ぶりに再開したことは事実ですが、対話が中断している間に、日本政府の韓国政府に対する信頼は損なわれているわけですし、また、日本が輸出した品目の横流し、目的外使用などが行われていないという保証もないでしょう。

 さらに、政策対話が今年3月にもう1回行われたのみであるにも関わらず、韓国がWTO提訴手続を取ってしまったというのは、もはや韓国が日本との政策対話に応じないという意思表示そのものでもあります。

 このように考えるならば、今回の韓国政府による対日WTO提訴をもって、日本政府は韓国の輸出管理上の位置付けを、さらに引き下げるべきでしょう。差し当たって、中国や台湾、多くの東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国などと同等のグループC相当にすることが妥当です。

 当たり前の話ですが、政策対話を拒否していきなりWTOに提訴してくるような国を信頼しろという方が難しいのであり、そのような行動に出るという事実自体が、韓国が物資の横流し、目的外使用などを行っているのではないかとの疑いを高める行為でもあるからです。

 冒頭で紹介したロイター記事によれば、梶山経産相は「今回のパネル設置についてはWTOの手続きに従って粛々と対応する」などと発言したそうですが、こうした発言からは、日本政府側のウンザリ感がプンプン漂ってきます。

 政界の日韓議連、外務省のコリア・スクール、経済界では一部の経団連企業など、日本国内には韓国擁護派がいるのは間違いありませんが、梶山経産相の発言からは、日本政府内でもさすがに韓国を擁護しきれなくなっている、という兆候を濃厚に感じる次第です。

●日本人はいきなりキレる

 さて、本来ならば、あまり予断をもって申し上げるべきではない事項ですが、個人的には、今月4日に予定されている、自称元徴用工判決問題における日本製鉄の資産差し押さえにかかる「公示送達」の期日到来は、イベントとしては注目に値すると考えています。

 自称元徴用工判決問題と対韓輸出管理適正化措置は、本来、まったく別次元の問題ですし、管轄している官庁・閣僚も、外務省・茂木敏充外相と経産省・梶山弘志経産相ですので、少なくとも日本政府は両者を混同していないはずです。

しかしながら、韓国が対日WTO提訴に踏み切ったこと、8月4日に公示送達の期日が到来することは、どうしても日韓関係の崩壊を早めているようにしか見えないのです。

 実際、数日前には安倍晋三総理大臣を侮辱したような造形物に菅義偉官房長官が「報道が事実なら、日韓関係に決定的な影響を与えることになる」と警告したことは、個人的には非常に意外な気がしました。

 というのも、たしかにその造形物自体、非常に下品ですし、日本に対しても侮辱的ですが、ただ、私人が私有地に設置しただけの造形物に、内閣官房長官という立場の人物が「決定的な影響」などと強い口調で警告すること自体、いままでの日本政府の対応からすれば異例だからです。

 このことは、菅官房長官、あるいは安倍総理ら政権幹部のあいだで、韓国に対するフラストレーションが限界に達しつつある可能性を示唆しているように思えてなりません。

 なにより、日本人という民族は、いきなり「キレる」という特徴があります(私見)。韓国に対し我慢に我慢を重ねて重ねて重ねて重ねまくって、それが耐えられない重圧になり、ある日突然プッツンとキレてしまう、というわけですね。

8月4日にビザ免除廃止を!

 このように考えていくならば、8月4日に日本企業の資産の現金化が行われようが、行われまいが、日本政府としては韓国に対する何らかの対抗措置を講じるタイミングが到来する、という言い方をしてもよいかもしれません。

 個人的な願いを申し上げるなら、日本政府が一時の感情で変なことをやってしまうリスクには警戒が必要だと思っていますが、それと同時に私たち日本国民も人間ですから、韓国に対し、国際法違反にならない範囲で、何らかの対抗措置を講じてほしいという気持ちもなくはありません。

 こうしたなか、個人的なおススメは、韓国国民に対するビザ免除の廃止です。

 現在、武漢コロナ禍の影響で停止している韓国国民に対する短期上陸ビザの免除制度については、正式に廃止し、日本入国に際しては、韓国国民に「だけ」入国ビザ取得を義務付ける、という対抗措置を講じてはいかがでしょうか。

 理由はいかようにもつけられますが、そもそもどこの国民にいかなるビザを発給するかはその国の自由ですから、韓国には文句のつけようがありません。

 また、こうした措置には、もし近い将来、文在寅(ぶん・ざいいん)政権の政策運営の失敗により、韓国経済が崩壊した際、韓国人が観光ビザで日本に大挙して入国してくるのを防ぐ、という積極的な意味合いもあります。

 さらには、日本政府がこのような措置を講じれば、韓国も対抗上、日本人に対する入国ビザ免除制度の廃止に踏み切らざるを得なくなるかもしれません。

 そうなれば、日本人の技術者が韓国に入国する際のハードルが上がるかもしれず、日本製の半導体製造装置を使用している韓国の半導体産業などを含め、韓国の産業のさまざまな面にじわじわと打撃が生じることにつながるかもしれません。

 また、非常にはしたない話ですが、個人的にはこうした「日本政府が取り得る韓国への対抗手段」、「日本政府がそれらの対抗措置を講じた場合の韓国経済への打撃」などを想像するのは、非常に知的好奇心をそそられる気がしてならないのですが、いかがでしょうか。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20200801-01/

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