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文在寅政権は北の国民を見捨てるな

 韓国聯合ニュース日本語版は1日、「北朝鮮の平均寿命は韓国より11年短く、出生率1・9にとどまる」という見出しで国連人口基金(UNFPA)と韓国の人口保健福祉協会が1日に公表した2020年の「世界人口現況報告書」の内容を報告していた。それを読んで少し怒りを覚えた。

北で女性への性暴力が蔓延している実態を記した国際人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」報告書

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 北の国民の平均寿命が同胞の韓国国民のそれより11年短い、ということは何を意味するのか。北の金王朝が国民の命を奪ってきたことを端的に実証しているのだ。これは大きな犯罪だ。聯合ニュース記者も少しは怒りを発し、金正恩労働党委員長に対し、「我々の同胞の命を返せ」と叫んでもいいのではないか。同胞が食事も満足に取れず、明日は良くなるという希望すら持てない日々を暮らしていることを知らないはずがないだろう。

 当方は5年前、このコラム欄で北朝鮮国民の寿命が韓国より余りにも短いことについて「北の金王朝は国民の寿命を奪った」(2015年12月22日参考)という見出しで記事を書いた。5年前の韓国統計庁の「2015年北朝鮮主要統計指標」によると、韓国の平均寿命は男性が78.2歳、女性が85.0歳、北朝鮮は男性が66.0歳、女性が72.7歳で、南北の差は男性が12.2歳、女性が12.3歳だった。2020年のデータによると、北朝鮮の平均寿命は72歳で、韓国の83歳に比べ11年短い。5年間で南北の平均寿命の格差は1年余り短縮したが、それにしても同民族でありながら、ため息が出るほどの格差だ。

 朝鮮半島が南北に分断された直後、北側の国民経済は韓国のそれより発展していたが、70年余りで南北の経済は逆転し、韓国は先進諸国入りした一方、北側は国民に3度の食事も満足に与えることができない最貧国に落ちた。北の金王朝を創設した故金日成主席は、「国民が白米を食べ、肉のスープを飲み、絹の服を着て、瓦屋根の家に住めるようにする」と約束したが、果たせずに終わった。金正恩氏も2014年12月17日、「軍隊の兵士に肉を食べさせたい」と呟いたが、その願いはこれまで実現されていない。

 金日成、金正日、金正恩と3代続く金王朝は世襲独裁国家だ。国民の福祉、生活向上、自由の保障は民主主義国では当然の基本的な権利だが、北ではそれらはことごとく蹂躙されてきた。政治犯を強制収容所に送り、宗教者に対してはさまざまな弾圧を繰返してきた。迫害されるキリスト者救援組織「オープン・ドアーズ」(本部・米カリフォルニア州サンタアナ)によれば、北朝鮮は「最も宗教迫害がひどい国」という。

 金大中、盧武鉉、そして文在寅の3人の韓国大統領は太陽政策や南北融和政策を標榜して、北に対して支援政策を行ってきたが、北の金王朝はそれで幾分潤ったかもしれないが、国民の生活は改善されなかった。特に、文大統領は人権弁護士として名を売ったにもかかわらず、大統領に就任すると北朝鮮の人権問題には完全に沈黙を守り、脱北者に対しては北側の目を気にして意地悪する体たらくだ。これでは人権弁護士出身のキャリアが泣く。

 ここにきて、南北融和政策を実施する文政権に対し、北側は金正恩氏の実妹・金与正党中央委員会第1副部長を通じて厳しい韓国批判を展開し、南北間で軍事衝突の危機さえ一時囁かれた。文政権の過去2年半の対北政策は完全に行き詰ってきている。

 朝鮮半島の政情に大きな影響を与える米国はオバマ政権の8年間、「戦略的忍耐」と呼ばれる無策政策を取り、北朝鮮問題への直接の関与を避けてきた。その間、北側は通算6回の核実験を実施し、「核保有国入り」を要求するまでになった。米国の対北政策が劇的に変わったのはトランプ大統領が就任してからだ。同大統領は就任後、対北外交を積極的に推進し、これまで3回の米朝首脳会談が実施された。しかし、巧みな言動で米国を誘いながら、肝心の非核化では一歩も譲歩しない金正恩氏との交渉は暗礁に乗り上げた。11月の米国大統領選が終わり、新しい大統領が選出されるまでは北朝鮮の非核化交渉は停滞することが必至だ。

 北朝鮮のソフトランディングのシナリオを描くのがこれまで以上に難しくなってきた。国際社会は過去、朝鮮半島問題では北の非核化問題を第一課題としてきたが、北の国民への支援、人権問題にこれまで以上に関心と注意を注ぐべきだ。相手が譲歩する考えのない非核化に多くの時間を投入しても、メディアのカメラフラッシュを受ける機会はあるが、実質的な解決は期待できないからだ。

 人権外交は非核化交渉のような華やかさは期待できないが、人権問題を追及される側にとっては嫌なテーマだ。高姿勢の外交を展開する中国共産党政権を見ても、そのことが分かる。ボディブローを受け続けたボクサー選手はラウンドを重ねるにつれ、体力を消耗し、時が満ちれば倒れる。

 ちなみに、スイス・ジュネーブの国連人権理事会で昨年5月9日、「普遍的・定期的審査」(UPR)の北朝鮮人権セッションが開かれたが、北側は15頁からなる人権に関する政府報告者をUPR作業グループに提出した。北はその中で、「人権の改善の最大の障害は対北制裁だ。わが国は人民が主人とする主体思想を実施している国だ。人民の利益を最優先の課題とし、最高レベルのベストな文明を享受できるよう人権のセーフガードを完全なものにする努力を重ねている」と表明している。(「北政府『人権報告書』は嘘だらけ!」2019年5月11日参考)。

 いずれにしても、北の国民の平均寿命が韓国のそれに近づくためには、独裁国家・金王朝の体制崩壊がない限り、実現の見通しはないのかもしれない。新型コロナウイルスの感染拡大という新しいハードルも加わり、北の国民は1990年後半の飢餓時(いわゆる「苦難の行軍」)を上回る厳しい状況に直面しているはずだ。

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