«
»

【対談】どう見る朝鮮半島急転

北 文政権への不満爆発

 最近、北朝鮮は韓国への強硬姿勢を際立たせ、かつての南北融和ムードは吹き飛んでしまった。北朝鮮の思惑は何か。韓国の文在寅政権はこれにどう対するのか。本紙で朝鮮半島問題を担当する上田勇実編集委員と岩崎哲編集委員(デジタルメディア編集長)が、このほど対談した。

【動画】金与正、連絡事務所爆破 どう見る急転の朝鮮半島 【パトリオットTV:083】

対談:岩崎デジタルメディア編集長(左)、上田編集委員(右)

対談:岩崎デジタルメディア編集長(左)、上田編集委員(右)

 岩崎 今月16日、北朝鮮の開城にある南北共同連絡事務所が爆破された。北朝鮮を批判するビラが南から飛ばされた事に対しての抗議だった。確かに「最高尊厳」の金正恩朝鮮労働党委員長に対する批判は北朝鮮では許し難い事だろうが、それがビルを爆破する理由になるとは思わない。本当の狙いは何か。

 上田 北朝鮮には相当不満が溜(た)まっていた。そもそも彼らの目的は対米交渉にあり、制裁の緩和・解除を引き出すこと。その仲裁役として文政権を利用した。18年1月の新年の辞で「われわれは平昌オリンピックに参加してもいい」と言ってきた。すでにそこから北朝鮮の戦術が始まっていた。しかし、戦略は最初から何も変わっていなかった。

 米国の要求は完全な非核化だが、それに応じる考えは最初からなかった。これは当初から多くの専門家が指摘しており、文政権に対しても「あまり北朝鮮ペースになり過ぎるのは良くない」と警告していたが、文氏はのめり込むように北朝鮮の要求を全て受け入れて、正恩氏とトランプ米大統領の首脳会談の橋渡しを買って出たわけだ。

 結果、うまくいかず破綻した。文政権は北朝鮮に対して、あたかもトランプ氏が北朝鮮の要求に応じるかのように説明していた可能性がある。このため正恩氏としては裏切られた形になり、しかもその後、韓国は北朝鮮への経済支援に踏み切れず、そのフラストレーションがかなり溜まっていた。それが今回爆発したとみられる。

正恩氏の妹、後継準備か
融和策捨てられぬ韓国政府

 岩崎 今回の行動では正恩氏の妹、与正氏が前面に出ていたが。

 上田 ここは非常に注目されているところだ。4月に正恩氏の動静が途絶えて死亡説や重体説が出たが、結局、姿を見せた。しかし、健康の不安が無いとは断言できない。遺伝的に心臓が悪いとか、足を手術した可能性があると言われている。その中で注目されることが起きた。党の機関紙である労働新聞に、今月前半だけで少なくとも3回にわたり「党中央」という言葉が出てきた。これは70年代に金正日氏が内部的に後継者として登場した際に登場した言い回しだ。

 10日の紙面には「偉大な党中央」や「代を継いでつなぐべきは革命伝統」という言葉が出ている。健康不安がある正恩氏に万が一の事があった場合に備え、与正氏を内部的に後継者として準備するため労働新聞でこういう表現をした可能性があり、与正氏に対韓国政策の総責任の立場を与えて権威付けもした。後継を視野に入れた動きの一環ではないか。

 岩崎 北朝鮮は今まで口汚く文政権を批判してきた。一時は金剛山にも軍を配備して軍事的緊張を高めると言ってきた。しかし、韓国政府は「対話の門は常に開いている」(文大統領)とか「爆破は予告されていたことだ」(金錬鉄統一相、後に辞任)と、非常にのんびりとした反応で危機感がない。理由は何か。

 上田 文政権は対北融和政策を当初から続けてきた。それは彼らの一つのイデオロギーであり、変わらない路線だ。北朝鮮がどんなに韓国に厳しい態度を取っても、その一線は崩さない。崩したら自分たちが今まで3年間やってきたことを否定することになる。だが、北朝鮮が韓国に対しどんどん強硬な姿勢を取れば、いかに韓国の世論が文政権を支持したくても、プライドもあるため、しっかり対抗すべきだという声が大きくなる。そういう意味で、北朝鮮にはある程度毅然(きぜん)とした態度を取らなければならない。ただ、だからと言って対北強硬策に180度転じることもできない。板挟み状態だ。

 岩崎 ある程度の軍事的緊張は高まり、韓国はそれに対応せざるを得ないという状況か。

 上田 北朝鮮はこれを機に文政権を完全に自分たちの言うことを聞かせる、言葉は悪いが「手なずける」ために圧迫してくるのではないか。

 岩崎 今後の展開はどのように見ているか。

 上田 強硬姿勢を見せて相手を萎縮させた上で、いずれは対話の主導権を握ろうとするだろう。今後の注目点は米大統領選挙。北朝鮮の最大の目標は米国から制裁緩和を勝ち取ることだ。

 岩崎 そのためには米国と直接交渉すると。

 上田 米朝が動かなければ、南北も動かない。米大統領選が数カ月後にあるが、ひとまずそこまで北朝鮮は強硬・融和の両路線で韓国を揺さぶり、文政権は難しい舵(かじ)取りを迫られるのではないか。

 岩崎 最近、米国のボルトン大統領元補佐官が回想録を出した。その中で米朝首脳会談は韓国が一番やりたかったのではないか、との内容があるが。

 上田 最初からわれわれ記者たちは、その可能性は大きいと思っていた。そもそも米朝首脳会談でシンガポール(2018年6月)やハノイ(19年2月)に取材に行っても、完全非核化の考えなど毛頭ない正恩氏と朝鮮半島非核化の主人公役を演じたいトランプ氏による「非核化ショー」に終わるのではないかと懸念していた。しかし、史上初の米朝首脳会談という歴史的現場に足を運ばないわけにもいかなかった。そのジレンマを抱えつつ取材した。2年経(た)ち、結局、予想した通り交渉は決裂した。北朝鮮の戦略は最初から最後まで変わらなかった。あの融和策は戦術にすぎなかったことがはっきりしたのではないか。

 岩崎 トランプ氏が韓国を訪問して、板門店でサプライズ的に正恩氏と会った時(19年6月)も、文大統領は自分があたかも仲介したかのように振る舞いたくて、同行させてくれるよう米当局に何度も頼んだが断られたようだ。それでも板門店までは行ったが、2人が会談する部屋には入れず目の前で扉が閉まるというシーンもあった。

 上田 文政権には北朝鮮に対する幻想を抱かないでほしい。金正恩独裁政権が考えていることは何なのか、あの体制を維持しようとすれば非核化はまず考えられないことに思いを至らせるべきだ。

 岩崎 韓国の保守メディアでも「偽りの平和から目覚めよ」という主張が見られる。今後とも半島情勢を注視していきたい。

2

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。