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やさしい先払い運動

韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 幼い頃に母と一緒に行っていた町の小さな店は不思議なところだった。豆腐、タマゴなどのおかずと駄菓子を取ってもお金は出さない。「チブチェク」と書いた出納帳に、主人がいてもいなくてもそのまま“帳付け”してくれば事が足りる。その店は近所の開かれた客間でもあり、番人役をする場所でもあった。町の大小事の折には集いの場所にもなる。行き来して世間話を伝えあい、夜には暗い路地を照らして家路を急ぐ人を助けてくれるありがたい存在だった。いつまでに払ってという話もなく、お金がある時にもらえばいいという店の主人の心遣いがありがたい。みんなが貧しかった時代に主人と隣人が共感して疎通するこの場所をつなぐ媒介体は、手あかがついたよれよれの帳付けノートだった。

 生活が良くなって、クレジットカードが幅を利かせている現在、帳付けノートは遠い昔のかすかな思い出だ。その話をすると、ラテ(「私が若い頃はね」と昔話する人を風刺した言葉)という責めを受けてしまいそうだ。帳付けノートの記憶を蘇らさせたのは、新型コロナウイルスだ。

 新型コロナのため自営業者が大騒ぎしている。忠清南道の食べ物屋の社長が大統領に「(景気が)めちゃめちゃだ」と言ったことで、大統領の熱烈な支持者たちから袋叩きにあったりした。こんな状況の中で“やさしい賃貸人(大家)運動”(大家が自発的に部屋代を割引するキャンペーン)に続き、“やさしい先払い運動”が起こっている。

 行きつけの食堂や美容室、コーヒーショップなどで一定金額を先払いし、証明写真をアップするキャンペーンだ。国土交通部は航空業界のために国内旅行費のうち航空運賃予算の85%に当たる15億ウォンの国内航空券を先払いした。政府・地方自治体に続いて企業や大学を中心に同運動への参加が爆発的に増えている。

 クレジットカードを利用した先払いは厳密にみると、支払期限がない帳付けノートとは違う。それでも昔も今も難局を一緒に勝ち抜こうという“信頼”の共通分母を持っている。切迫した状況に陥った自営業者の立場からすると、先払いは店の経営を助けてくれる“千軍万馬”だ。困難な時期さえ越えればより良いサービスで客を迎えるはずだ。顧客の立場からも、馴染(なじ)みの店がなくなると、新しいアジトを探すのは大変煩わしいものだ。近所に心置きなく話ができる行きつけの店が1軒ぐらいはあった方がいいだろうから。

 (5月13日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

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