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北朝鮮だけ利した金正恩氏重病説

韓国紙セゲイルボ

メディアと政治家は責任感持て

 最近約1カ月の間、金正恩労働党委員長の健康異常説が韓国を揺るがした。身辺異常説は4月15日、金委員長が太陽節(金日成主席誕生日)に錦繍山太陽宮殿を参拝しなかったことで膨らみ始めた。太陽宮殿は金主席と金正日労働党総書記の遺体が安置された場所で、金委員長は権力継承後、太陽節の参拝を欠かさなかった。

金正恩朝鮮労働党委員長

1日、完工した北朝鮮の順川リン酸肥料工場(平安南道)を見て回る金正恩朝鮮労働党委員長(左から2人目)(朝鮮通信・時事)

 間もなく金委員長が手術を受けて重体だとの国内外メディアの報道が出てきて、健康異常説に関心が集中した。ユーチューブやSNSなど多様なネット媒体を通じても未確認情報があふれた。出所の分からない情報が出回り、ユーチューブでは重篤説や意識不明説、ついには死亡説までが飛び出し、徐々に深刻さを増した。

 フェイク情報は出所不明だったり最初からないものや、既知の事実と確認しにくい新事実が巧妙に織り交ざっているという特徴がある。それで大部分は細かく調べれば信頼性に疑いを抱くようになる。

 政治家など社会の指導層の発言となるとまた別の話になる。今回の総選挙で当選した未来統合党の太永浩、池成浩の両氏は今回の健康異常説をいっそう混乱させた。太永浩氏は、「金委員長は独りで立ったり、まともに歩くことができない状態」と言い、池成浩氏は「金委員長は死亡したようだ。99%確信している」と表明した。

 政府と大統領府は健康異常説について、何度も「特異な動向はない」と発表したが、両氏が政治家であり脱北者でもあるため、その発言がいっそう重要視された。しかし今月2日に金委員長が北朝鮮メディアに登場して健在を知らせると、すぐに彼らは謝罪に追い込まれた。

 北朝鮮は閉鎖的な体制の特性上、情報が得られるルートが制限されている。「対北消息筋」の名でさまざまな便りが伝えられるが、そのまま信じることはできない。われわれはこの事実をよく知りながらも、今回もまた無策のまま振り回された。北朝鮮の変化には常に備えなければならないが、希薄な根拠で不安を煽(あお)ってはならない。

 北韓大学院大学の梁茂進教授は、「交差検証できない北朝鮮ニュースの特性上、同じようなことが繰り返されている」と述べ、報道機関と政界は責任感を持って北朝鮮関連情報を扱う必要があると強調する。

 顧みれば、金日成主席や金正日総書記も周期的に健康異常説や死亡説が浮上したが、その都度、北朝鮮問題があらゆる懸案を覆い隠して国内情勢は動揺し、われわれは不必要な社会的費用を払ってきた。

 その半面、北朝鮮は韓国の報道内容を見て情報提供者をあぶり出し、韓米中など周辺国の北の急変事態に対する本音を把握できる。国際舞台で一気に注目を集める効果も享受できる。この騒動が終わって、果たして誰が笑っているだろうか。

(ペク・ソヨン外交安保部次長、5月8日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

異常に冷静だった韓国政府

 金正恩重病説が飛び交い、各種情報や分析、憶測があふれ出たが、北朝鮮メディアが「金正恩」とみられる人物の「現場視察の様子」を報じて、一気に決着がついた。この太って特異な髪形をした男性が「金正恩」かどうかは置くとして、今回の騒動で意外だったのは韓国政府の異常なまでの冷静さだ。

 金正恩重病説に対して「特異な動向はない」と言下に否定した。それも大統領府、外交部、統一部が異口同音にだ。だから不測の事態に対応して軍に特別な警戒態勢を敷かせるわけでもなく、外交的動きを取るわけでもなかった。まるで何ごともないかのように、ことさら平静を装っていたのが印象的ですらあった。

 文在寅政権は「親北政権」と言われる。北朝鮮の罵倒を受けながらも、北に課せられた国連制裁の解除に動いたり、偶発にせよ銃弾を撃ち込まれても緊張を高めたりせず、ひたすら南北交流の再開を目指している。

 そうなると、記者が指摘するように、金正恩重病説は各国の情報力を測ったり、情報ルートを炙り出したりする目的があったのかもしれない。確実に成果を上げたのは脱北者出身の国会議員(当選者)の信用を見事なまでに失墜させたことだ。今後、この2人の北情報や分析は見向きされないだろう。

 しかし、一方で姿を現したのが本当に金正恩その人なのかの疑問はまだ残っている。韓国政府の装う冷静さは、この疑問を寝かすためのものというのは穿(うが)ちすぎか。

(岩崎 哲)

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