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また出た!韓国「日本は速やかに輸出規制を撤廃せよ」

 誠に勝手な見方で恐縮ですが、当ウェブサイトでは昨年7月1日に日本政府が講じた韓国に対する輸出管理適正化措置を巡って、「貿易報復」でも「経済制裁」でもなく、輸出管理上、必要な措置だったと考えています。ただ、その一方で、韓国政府側からは「我が国は日本の輸出『規制』に困っていない」としつつも、「今後脱日本化を進める」と言ってみたり、「日本は速やかに輸出『規制』を撤廃せよ」と言ってみたり、と、表面上は非常に支離滅裂な行動を取っています。


輸出管理

●旧ホワイト国・現「グループA」の考え方

 当ウェブサイトでかなり以前からしばしば取り上げている話題のひとつが、「輸出管理」です。

 これは、外為法第48条などの規定に基づき、軍事転用されかねない製品の輸出を、「リスト規制」、「キャッチオール規制」などによってコントロールするというものであり、これが発動されるのは、一般に相手国の輸出管理体制が杜撰であるなどの理由によるものと考えられます。

また、経産省は昨年8月、この輸出管理体制をそれまでの「ホワイト国」「非ホワイト国」という区分から、「グループA~D」という4つの区分に精緻化しました。具体的には次のとおりです(図表1)。

■図表1 輸出管理上の4つのカテゴリー
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(【出所】輸出貿易管理令および経産省『リスト規制とキャッチオール規制の概要』などを参考に著者作成)

 このうち、「グループA」は、輸出管理上もっとも「緩い」管理が適用されるカテゴリーですが、その理由は、これらの国が武器の輸出管理に関する4つの国際的な体制(図表2)に参加しているため、そもそも輸出管理が厳格だと期待されるからなのでしょう(著者私見)。

■図表2 4つの国際輸出管理レジーム
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(【出所】経産省『リスト規制とキャッチオール規制の概要』を参考に著者作成)

●韓国が「貿易安保政策官」新設へ

 なぜ唐突に、こんなややこしい話を持ち出したのかといえば、日本政府が昨年7月1日に打ち出した、韓国に対する輸出管理適正化措置を巡って、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日、こんな記事を発見したからです。

韓国、日本の輸出規制を機に「貿易安保政策官」新設…「日本は輸出規制の撤回を」

昨年7月に日本が韓国を対象に断行した半導体・ディスプレーの核心材料の輸出規制を契機に、韓国政府組織内の貿易安保機能が強化される。<<…続きを読む>>

―――2020.04.28 15:46付 中央日報日本語版より

 中央日報が「輸出『規制』」と呼ぶのは、日本政府が昨年7月1日に発表した、韓国向けの輸出管理の厳格化(あるいは適正化)措置のことです。

 中央日報によれば、韓国政府・産業通商資源部と行政安全部は28日、「貿易安保業務」を担当する「貿易安保政策官」を来月6日から新設すると明らかにしたのだそうです。

 しかも、この「貿易安保政策官」は「30人規模の正規組織」として構成され、「日本の輸出規制のような貿易安保懸念に対応する業務を引き受ける」としていますが、記事を読む限りでは、日本の輸出管理適正化措置を念頭に置いた対抗措置ではないかと思わざるを得ません。

実際、中央日報では

「青瓦台(チョンワデ、大統領府)の尹載寛(ユン・ジェグァン)副報道官はこの日、書面ブリーフィングを通じて『これで日本が輸出規制措置の原因として提起した事由を韓国政府はすべて解消した』とし『今後は韓国の制度改善に相応して、日本は輸出規制の原状回復などの措置を速やかに取らなければならない』と明らかにした。」

などと報じています。

 なにやらよくわからない国ですね。

●輸出「規制」ではない!

 ただ、この「輸出規制の原状回復」とやらを巡っては、そもそもの認識が大きく間違っています。くどいようですが、日本政府が講じた措置は、「輸出『規制』」ではありませんし、ましてや「貿易報復」、「経済制裁」などではないからです。

 韓国側では、日本のこの「輸出『規制』」が、2018年10月30日などの自称元徴用工判決(韓国側でいう「強制徴用工判決」)などに対する、日本側の意趣返しのようなものだと受け取られているようですが、これは輸出管理そのものを理解していない証拠でしょう。

 実際、日本が講じた措置は、韓国を輸出管理上の「(旧)ホワイト国」(現在の「グループA」)から除外して「グループB」に区分するものであり、それと同時にフッ化水素など3品目について、製品や製造装置等を含めた韓国への輸出を「個別許可」に切り替えるというものです。

 もしも日本が本気で貿易報復をするつもりならば、そもそもグルーピングを中国や台湾以下に位置付けるために制度設計をするのではないでしょうか。

 実際、この点、経済法令研究会というウェブサイトに掲載されている資料によれば、(旧)非ホワイト国であるグループB~Dについては、
 

・グループB…韓国、ウクライナ、トルコ、ブラジルなど16ヵ国
・グループC…中国、台湾など百数十ヵ国・地域
・グループD…イラン、イラク、北朝鮮など11ヵ国

とあります。

 この情報を信頼するなら、日本は台湾などを「グループC」に区分しているということであり、韓国はそれより上位の「グループB」ですから、韓国は依然として、中国や台湾よりも「優遇」(?)されているのです。

 そして、個別許可に切り替えるならば、3品目といわず、「個別許可」の対象となる品目を可能な限り増やすなど、地道な「嫌がらせ」(?)をするはずです。

「報復」という勘違い

●そもそも「報復」とは考えられない

 さらにいえば、日本政府がこの措置を発表した時点では、自称元徴用工問題を巡って、第三国仲裁手続の真っ最中でしたし、もしこの措置が「報復」か何かなのだとしたら、第三国仲裁手続の期日が到来する以前にこの措置を発表したことの合理的な説明が付きません。

 それよりも、日本政府はこの輸出管理適正化措置に踏み切った理由について、韓国との信頼関係を前提とした輸出管理に取り組むことが難しくなっていることに加え、韓国に関連する輸出管理をめぐり「不適切な事案」が発生したことを挙げています。

・信頼関係に基づく輸出管理が実施できなくなったこと
・韓国に関連する輸出管理を巡り不適切な事案が発生したこと

 ここでいう「不適切な事案」が何を意味するのか、経済産業省は本日に至るまで公式にはその内容を明らかにしていませんが、当時の世耕弘成経産相が8月8日付の記者会見で、

「あわせて、輸出許可申請についても引き続き厳格な審査を行って、迂回貿易ですとか目的外使用といった事例が出ることがないように、厳正に対処をしていきたいというふうに思っています」(※下線部は引用者による加工)

と発言したことなどと照らし合わせると、韓国が日本から輸入した品目を巡って、「目的外使用」「迂回貿易」などに流用していたのではないかとの疑いは濃厚です。

 また、事実関係を申し上げておくならば、「(旧)ホワイト国」は輸出管理上、最も優遇される措置の適用対象国ですが、日本、米国、欧州連合(EU)のなかで、韓国を輸出管理上の「(旧)ホワイト国」(またはこれに相当する優遇対象国)に指定していたのは日本だけでした。

 しかも、輸出管理上必要な日韓政策対話についても、2016年6月に開いたのを最後に、2019年12月に再開されるまで、じつに3年半もの間、開催されていませんでした(おそらく韓国政府側が開催を拒絶していたためでしょう)。

 自然に考えて、政策対話を拒絶する、不適切な事案を発生させる、というような国と、信頼関係に基づく輸出管理をまともに実施できるはずがありませんし、そんな国を「(旧)ホワイト国」として優遇し続けていれば、日本自体、欧米諸国から輸出管理上の優遇対象国から外されてしまうおそれすらあります。

 だからこそ、経産省は昨年、韓国を輸出管理上の優遇対象国から外し、「グループB」に落としたのだと考えて良いでしょう。

 そもそも輸出管理は経産省、自称元徴用工問題は外務省、と、日本側はそれぞれ担当官庁が異なりますので、それぞれ独立に動いていると見るのが自然な発想です(このあたり、詳しくは『輸出管理の「緩和」を「対韓譲歩」と勘違いする人たち』等もご参照ください)。

●実害が生じているのか、いないのか

 さて、もっと不可解なのは、この日本による「輸出『規制』」を巡り、韓国政府からはしばしば、「輸出規制の影響はない」、といった発言が出ていることです。韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)に今年2月に掲載された次の記事などが、その典型例でしょう。

韓国産業相「輸出規制の影響なし」 業務報告で「脱日本」強調

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は17日、青瓦台(大統領府)で経済関連の4官庁・機関から今年の業務報告を受けた。この席で産業通商資源部の成允模(ソン・ユンモ)長官は「脱日本」を数回にわたり強調した。<<…続きを読む>>

この報道によれば、産業通商資源部の成允模(せい・いんも)長官は

「日本が突然、輸出規制を行ったにもかかわらず、生産に支障をきたすことは1件もなかった/経済がすなわち安全保障であるという認識を基に国民、企業、政府が一致協力して成し遂げた成果」

などと説明したのだそうですが、具体的にどうやって「輸出『規制』」とやらを乗り切ったのかについては、なんら言及がありません。具体的なことに何ひとつとして言及しないのは、何か都合が悪いことでもあるからなのでしょうか。

 いずれにせよ、韓国側から聞こえてくるのは、「影響は出ていない」だの、「確実な脱日本を実現する」だの、「日本は輸出規制の原状回復をすべきだ」だのといった表面的な発言ばかりであり、「なぜ日本が韓国に対する輸出管理を厳格化したのか」についての省察はいっさい見えて来ないのです。

●フッ化水素の輸出は?

 さて、先ほどの『意外と堅調?3月の輸出は10%減、輸入は5%減に』では、昨日発表された『普通貿易統計』のデータをもとに、日本の輸出がコロナショックでどういう影響を受けているかについて概観しました。

 ただ、その「ついで」に計算した、輸出承認が「個別許可制」に切り替えられた「HS番号2811.11-000」(フッ化水素、フッ化水素酸)の推移をみる限り、フッ化水素自体の輸出は続いているようなのです(図表3)。

■図表3 HS番号2811.11-000の対韓輸出
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(【出所】『普通貿易統計』データをもとに著者作成)

 ただし、フッ化水素の輸出については、数量、金額ともに「輸出『規制』」以前と比べれば3分の1から6分の1に落ち込んでいるのですが、これについては、

「ちゃんとした用途確認が取れていないフッ化水素の対韓輸出ができなくなった(=ちゃんとした用途確認が取れているフッ化水素の対韓輸出は問題なく継続している)」

という仮定を置けば、輸出管理適正化措置以前においては、日本産のフッ化水素が韓国側で何らかの「目的外使用」されていた(あるいは迂回貿易などに使用されていた)、という可能性を排除することはできないのです。

「輸出規制撤廃」論を警戒すべき

 もっとも、先ほども触れたとおり、そもそも論として経産省が「不適切な事案」について、具体的に何だったのかを明らかにしていません。

少なくとも韓国側の反応を見る限りは、

・日本の「輸出『規制』」では韓国は困っていない。
・韓国は今後脱日本化を進める。
・日本は速やかに「輸出『規制』」を撤回すべきだ。

という3点がその主な主張です。

 「韓国は困っていない(が)脱日本化を進める」というのならば「どうぞ」としか言い様がありませんが、それならばなぜ、「速やかに輸出規制を撤回せよ」などと述べるのでしょうか。

 そもそもフッ化水素の輸出データからは、韓国向けの輸出がゼロになったわけではないにせよ、数量、金額ともにかなり減少していることは確認できます。

とてもうがった見方ですが、もしかすると韓国は本当に日本産のフッ化水素(高級品である必要はない)などを第三国(イランや北朝鮮など?)に横流しして儲けていたのに、それができなくなっているために、本気でイライラしている、という可能性はないのでしょうか。

 いずれにせよ、現在、多くの人が例の武漢コロナウィルス蔓延に気を取られていて、わが国でも輸出管理適正化措置の経緯を忘れた人たちを中心に、「日韓関係打開のために、日本は輸出『規制』で韓国に譲歩しなければならない」、といった主張が出てくる可能性には十分な注意が必要かもしれません


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20200429-02/

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