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「安倍政権の強硬策で韓国の日本離れ」説への違和感

 「日本政府が昨年7月に発表した、韓国に対する輸出管理の適正化措置を、韓国に対する経済報復だと勘違いする人たちがいる」という論点については、以前から当ウェブサイトではしばしば取り上げているとおりです。事実関係を調べもせずに、頑なに「輸出規制だ」、「経済報復だ」などと言い続けている時点で非常に残念だとしか言いようがないのですが、その一方、最近のコロナウィルス騒動などで人々の輸出管理適正化措置に対する記憶が薄れている(ように見える)ためでしょうか、再び「安倍政権が選んだ強硬措置はよって失われる代償はとてつもなく大きい」などと述べる人が出現しつたようです。


●輸出管理適正化措置のそもそも論

 最近、コロナウィルス関連の報道が多くて、どうしても忘れられがちなのが、昨年7月1日に発表された、日本の韓国に対する輸出管理適正化措置に関する続報です。

 そもそも輸出管理とは、わかりやすくいえば、基本的に自由貿易という原則を採用しつつも、放っておけば軍事転用されてしまうかもしれない製品については特別に許可を受けることを義務付けるという、外為法第48条第1項等に規定されているルールのことです。

 その際に話題となったのが、「(旧)ホワイト国」というカテゴリーです(現在は「グループA」に名称が変更されています)が、これはいわば、「この国に輸出しても軍事転用されるリスクは低い」と日本政府が信頼している相手国のことです。

 旧ホワイト国、つまり現在の「グループA」諸国は、そもそも論として輸出管理体制がしっかりしている(と日本政府が判断している)ため、たとえばフッ化水素などの物資を相手国に輸出しても、それがイランや北朝鮮に横流しされてウラニウムの精製に悪用される、という可能性は低いと考えられます。

 いわば、日本政府としてはこの「グループA」諸国を信頼しているわけですが、同様に、これは国同士(あるいは政府間)の信頼関係がなければ成り立たない仕組みでもあります。

 この点、日本政府の7月の発表では、韓国に対する信頼関係が著しく損なわれたことに加え、輸出管理を巡る「著しく不適切な事例」があったとしていますし、実際の措置も「韓国を(旧)ホワイト国から除外する」、「フッ化水素など一部品目の輸出許可を個別承認制に切り替える」、というものでした。

●不適切な事例の状況証拠

 ところで、このうちの「不適切な事例」については、すでにいくつかの状況証拠があります。

 韓国の2018年下半期におけるフッ化水素等の輸入が数量・金額ともに激増していたという事実もそのひとつですが、なにより世耕弘成経産相(当時)による8月8日付の記者会見の場における、

「あわせて、輸出許可申請についても引き続き厳格な審査を行って、迂回貿易ですとか目的外使用といった事例が出ることがないように、厳正に対処をしていきたいというふうに思っています」(※下線部は引用者による加工)

 という発言などに照らすならば、やはり韓国において、何らかの不正行為が行われたことは間違いないと見て良いでしょう。

 ちなみに、『総論 対韓輸出管理適正化と韓国の異常な反応のまとめ』『輸出管理の「緩和」を「対韓譲歩」と勘違いする人たち』でも述べましたが、輸出管理適正化措置とは戦略物資の軍事転用などを防ぐための輸出管理上の措置に過ぎず、貿易報復でもなければ経済制裁でもありません。

 いや、それどころか、当ウェブサイトとしては、輸出管理適正化措置のもとになった「不適切な事例」について、米国あたりが日本に対し、「日本から韓国に輸出された物資が第三国に転売されている」と通告(あるいは警告)したことで発覚したものではないか、とすら見ています。

 逆に言えば、日本が韓国を「(旧)ホワイト国」から除外しなければ、日本自身が欧米諸国から「ホワイト国」(あるいはこれに類する国)から除外されるという制裁を喰らう可能性すらあったのではないでしょうか。

 なお、これらについては、化学的な知見を持つ方からのコメントを元にした『韓国が欲しがったのはフッ酸よりも「容器」だった?』という記事や、現実の貿易統計からフッ化水素の輸出量と金額を元に単価を計算した『予想どおり韓国へのフッ化水素輸出が量・金額とも増加』などの記事もご参照ください。

●堂々と輸出「規制」と騙る人たち

 ただ、輸出管理適正化措置の発表から半年以上が経過したにも関わらず、いまだにこれを「輸出『規制』」としつこく誤報し続けているメディアがあります。そのメディアのひとつが、朝日新聞です。

 いや、ここまでしつこいならば、もはや単なる「誤報」ではなく「捏造」といっても良いでしょう。というのも、世耕弘成氏が経産相だった時代に、しつこいほど、「輸出『規制』」ではない、と述べ続けていたからです。

■世耕経済産業大臣の閣議後記者会見の概要(抄)


(「輸出規制の対象品目拡大」という質問に対して)輸出規制ではありません。貿易管理上の措置であります。
―――2019/08/08付 経産省HPより

以上を踏まえて、次の記事を紹介したいと思います。

■安倍政権の強硬策が生んだ韓国市民の「日本離れ」

韓国社会のパンドラの箱を開けてしまったのか。徴用工問題で韓国の文在寅(ムンジェイン)政権を動かそうと日本政府が踏み切った輸出規制強化は<<…続きを読む>>
―――2020年02月05日付 ウェブ論座より
(※下線は引用者による加工)

 はい。

 この記事、みごとに輸出管理のことを「輸出規制」と誤記していますね。この時点で、この記事を執筆した人物が輸出管理を①正しく理解していないか、それとも②わざと誤った用語を使っているか、のいずれかであることは明らかです。

 この記事を執筆したのは、朝日新聞論説委員の箱田哲也氏です。

 箱田氏といえば、「日本企業の資産が売却されてしまうという『日韓Xデー』が到来してしまえば、日本としてもさらなる対抗措置を取らざるを得ない」、などと述べた件について、つい先月も『「日韓Xデー」が到来しても、それは韓国の責任だ』で取り上げたばかりです。

 その箱田氏は、今回の論考で、安倍政権がこの輸出「規制」を発動した狙いについて、「徴用工問題」(※自称元徴用工問題のこと)を巡って韓国の文在寅(ぶん・ざいいん)政権を動かすことにあった、などと述べているようですが、この時点で本当に残念であるとしか言いようがありません。

●軍事転用防止を「強硬措置」とは恐れ入る

 箱田氏の論考から、小見出しを拾っておきましょう(念のため、各小見出しにリンクを付しておきます)。

 それぞれの小見出しの箇所で論じられている内容について興味があるという方は、それぞれのリンクをクリックしてください。

 もっとも、念のため、箱田氏の論考に「外為法」「ワッセナーアレンジメント」など、輸出管理を議論する際に絶対にはずせないキーワードが出ているのかどうかを調べてみたのですが、その肝心のキーワードは見当たりません。あえていえば、

「自国の安全保障にかかわる問題で、世界貿易機関(WTO)など国際ルールにも違反しないと理論武装。とはいえ、さすがに世界の首脳らが大阪に集い、『自由で公平かつ無差別な貿易』を宣言にまとめたG20サミットの前に踏み切るのは、ためらわれた。ビッグイベントの終了直後の発表も予定通りだった。」

のあたりが、それに一番近い記述といえなくはないのですが、「理論武装」もなにも、日本政府が講じた措置の根拠規定である外為法第48条自体が軍事転用防止条項そのものです。事実関係を調べればすぐにわかることを、なぜ箱田氏は頑なに無視するのでしょうか。

 箱田氏の論考の末尾には、こんな文章もあります。

「日韓関係が改善すると、民間の交わりはいくぶんか持ち直すだろう。だが、以前のような活発さを取り戻すのは極めて難しくなった。日本の世論調査では高く評価される韓国への対応であるが、安倍政権が選んだ強硬措置によって失われる代償はとてつもなく大きい。」

 軍事転用防止のための輸出管理適正化措置が「強硬措置」とは、恐れ入りますね。

 もっとも、軍事転用を防止するための対応を「韓国への強硬措置」、「失われる代償はとてつもなく大きい」と主張されても、「日韓関係よりも世界の平和と安全の方が大事です」としか言いようがないのですが…。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 もっとも、公正さのために付言しておきますと、輸出管理適正化措置を自称元徴用工問題への報復だとする勘違いは、世間一般に「保守派の論客」だと思われている人にも見られます。たとえば当代を代表する高名な保守系の国際関係アナリストの方であっても、

「半導体材料の輸出管理強化が『徴用工問題への報復』であることは、全日本国民が知っている。政府高官もそう語り、全マスコミがそう報じていた。」

など、とんでもない無知を晒してしまっているほどです(『「日韓関係悪化は中国を利する」、その何が問題なのですか?』参照)。

 もちろん、韓国が日本の輸出管理適正化措置を「輸出『規制』強化」と勘違いして、それに反発し、日本製品などの不買運動が生じているというのは事実ですが、そもそも日本の韓国に対する輸出品目を分析すると、最終消費財よりも生産財(モノを作るためのモノ)の輸出が多い、という事情もあります。

 こうした事実に基づかずに、「韓国における日本製品不買運動は日本経済に対して取り返しがつかない打撃を与える」、などと決めつける姿勢に対し、違和感しか抱かないのです(※もっとも、唯一救いがあるとしたら、ウェブ論座の記事にある読者投稿を眺めると、まともなコメントが多いことでしょうか)。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20200206-03/

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