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GSOMIA消滅目前で韓国メディアから悲鳴が上がる

 日韓包括軍事情報保護協定(日韓GSOMIA)消滅まで、あと5日を切りました。昨日、タイで行われた日米韓3ヵ国防衛相会談の直後、記者側から「日韓GSOMIA延長という『前向きな成果』は出るのか」と聞かれ、「べつに日本側から延長について、とやかく申し上げていない」と答えるなど、「日本にとっては日韓GSOMIA延長は死活問題ではない」との立場を改めて示した格好となっています。こうしたなか、韓国メディアからは「韓国政府は無条件にGSOMIAに回帰すべきだ」と主張する一方、朝日新聞などの日本のメディアは「日本が救命ブイを投げるべきだ」と主張するなど、それぞれの立ち位置が明白になって来ました。


日米の思惑


●GSOMIAを巡る日米韓の立場

 日本と韓国の秘密軍事情報保護に関する協定(正式名称『秘密軍事情報の保護に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定』、俗に「日韓GSOMIA」)の破棄を巡る話題については、当ウェブサイトでも、ここ数日は連続で取り上げています。

 とくに米国政府は日韓GSOMIA破棄が米韓同盟そのものを危機にさらすとして強く反発しており、つい先週末も、マーク・ミリー米統合参謀本部議長、マーク・エスパー米国防長官という、制服組と政治家のツートップが相次いで韓国を訪問したほどです。

 ただ、結局これらの米国側の働きかけもむなしく、おそらく今週末で日韓GSOMIAが期限切れを迎えることがほぼ確実になりつつありますが、この問題を巡っては、当事者である米国、日本、韓国のそれぞれの動きを追いかけておくことは有益でしょう。

改めて振り返っておきますと、『そもそもなぜ、米国は「韓国にだけ」圧力を掛けたのか』のなかでは、米国が韓国に対して日韓GSOMIA延長を巡り圧力を掛けていることは、いわば、米国としては単なるアリバイ作りではないか、との仮説を提示しました。

 一方、昨日の『GSOMIA問題は「省益の抑え込み」に成功した好例』では、日本政府の日韓GSOMIAに対する反応が極めて冷淡(というよりもほぼ無関心)であることについて、その具体的背景に関する予想とともに議論しています。

●河野防衛相「べつに日本から延長は求めていない」

 これに加えてひとつ、新しい情報(?)があります。

 昨日はタイで日米韓防衛相会談が行われ、河野太郎外相が鄭景斗(てい・けいと)韓国国防長官との2者会談、エスパー長官を交えた3者会談をそれぞれ実施。会談直後に2回にわたって臨時記者会見を実施しました。

防衛大臣臨時記者会見(令和元年11月17日(日)13:02~13:07(日本時間))
防衛大臣臨時記者会見(令和元年11月17日(日)17:40~17:47(日本時間))

 もっとも、肝心の日韓GSOMIAを含め、河野氏は「韓国側の賢明な対応を求めた」と述べるにとどめ、日本を除く米韓両国からどのような発言が出たのかについては、頑なに口を閉ざしました。とくに、次の下りはなかなか興味深いものです。


Q:前向きな成果という点ではどうでしょうか。そういうものは今回あったのでしょうか。GSOMIAに関して。
A:前向きな成果とは。

Q:日本側からすれば延長について。
A:別に日本側から延長について、とやかく申し上げておりません。日韓・日米韓の連携のために韓国側が賢明な措置をとる必要があるということを申し上げただけです。


 メディア側は「GSOMIA延長が日本にとっての成果だ」と決めつけて誘導尋問的に質問を行っているのですが、河野氏は「べつに日本側から延長についてとやかく申し上げていない」とバッサリ切り捨てているあたり、日本政府の立場は(少なくとも表面上は)以前から一貫しているといえるでしょう。

 (なお、韓国側で興味深い動きがあれば、本日以降の報道をベースに別稿にて紹介したいと思います。)

保守メディアの悲鳴

●保守派と左派に分断される韓国

 米国、日本と来れば、残るは韓国です。

 以前から何度か報告してきたとおり、どうも日韓GSOMIA(というよりも米韓同盟)を巡っては、韓国国内は大きくふたつの見解で対立しているように思えるのです。

現在、韓国国内で主流派を占めていると思しき、文在寅(ぶん・ざいいん)政権の関係者の発言や、あるいは同政権に近い左派メディアの論調などを眺めていると、そもそも米韓同盟自体の存在意義に疑問を抱いているフシがあります(『GSOMIA破棄で「反米」の正体を現した文在寅政権』等参照)。

 また、『GSOMIA破棄 韓国は本当に「苦悩」しているのか』でも報告しましたが、そもそも文在寅政権や一部の左派メディアは、日韓GSOMIA破棄が米韓同盟の弱体化をもたらすということを、「知っていてわざとやっている」のではないか、という気がしてなりません。

 しかし、これとは対照的に、韓国国内の保守派(あるいは用日派、親米派)は、日韓GSOMIAの破棄を含めた文在寅政権の動きに危機感を強めています。とくに『中央日報』(日本語版)は文在寅政権による日韓GSOMIA破棄決定後、ただちにこれを批判する論考を掲載したほどです。

【社説】何のためのGSOMIA破棄なのか懸念される=韓国(2019年08月23日06時48分付 中央日報日本語版より)


 『GSOMIA破棄巡るメディアの反応』でも紹介したとおり、「韓国政府が日韓GSOMIAを破棄せざるを得ない状況に追い込んだのは日本の安倍政権にも責任がある」といった論調は、少なくともこの中央日報の社説からは感じ取ることはできません。

以上より、少なくとも韓国国内でも、日韓GSOMIAの破棄が(日韓関係ではなく)米韓関係を大きく傷つけるものであるという認識は存在するようであり、とくに中央日報などの保守系紙は文在寅政権を強く批判しているのです。
●中央日報が本質的な社説

 韓国メディアの報道を読んでいると、ことに日韓関係を巡っては虚報も多く、また、「何でもかんでも日本が悪い」といった結論に強引につなげる式の歪曲報道もあるため、正直、辟易することも多々あります。

 しかし、こと日韓関係以外の分野では、日本のメディアよりもはるかにマトモな論調であることも多く、こうした「マトモな論調」の社説が土曜日、中央日報に掲載されています。

【社説】GSOMIA延長して韓米同盟の正常化を=韓国(2019.11.16 09:57付 中央日報日本語版より)


 内容を要約し、箇条書きにしておきましょう(※日本語表現は整えています)。


・米国防長官、統合参謀本部議長が同時に訪韓したのも異例の事態だが、米政府内でタブー視されてきた在韓米軍撤退論が米統合参謀本部議長から提起されたことで、韓国国民からは米軍戦術核再配備や核武装論まで飛び出している

・韓米間では防衛費分担金問題やGSOMIA終了、戦時作戦統制権など、米韓同盟自体を揺るがす事案も多く、これらのうちトランプ大統領が仕掛けた分担金問題を除けば、GSOMIA破棄と戦時作戦統制権返還は我々がみずから招いたという側面もある

・そもそもGSOMIAは、中国を牽制する目的で米国が推進するインド太平洋戦略の基盤となる協定であり、仮に韓国政府がGSOMIAを延長しなければ、米国はインド太平洋戦略に対する韓国のコミットを信頼しないだろう

・エスパー長官はGSOMIA終了で「中国と北朝鮮を喜ばせる」と指摘するが、70隻にのぼる北朝鮮の潜水艦を韓国軍だけで防ぐのも、1000発にもなる北朝鮮の弾道ミサイルに対応するのも、日韓GSOMIAに基づく日本からの情報提供が必須だ


…。

 いかがでしょうか。

 この一連の下りを確認していくと、稀に「?」と思う下りはないではないものの、主張の大筋は正論であり、正当なものです。

 そのうえで中央日報は、韓国政府が北朝鮮と中国に配慮するあまり、安保問題をないがしろにしていると指摘。社説の末尾をこう締めくくっています。


「非核化の意志を見せず挑発を繰り返す北朝鮮に堂々とした態度で対応する必要がある。そして何よりも韓米同盟を立て直さなければならない。その試金石がGSOMIA終了の撤回だ。」


●今さら無条件撤回は無理でしょう

 早い話が、中央日報は今回の社説で、「韓国政府は日韓GSOMIA破棄決定を無条件で今すぐ撤回しなければならない」と主張しているのです。

 仮に韓国政府が米韓同盟を大事だと思っているのだとすれば、この主張は正論というほかありません。米国の政権幹部や軍の制服組トップらが、何度も何度も繰り返して伝えてきたとおり、日韓GSOMIAの破棄は日韓関係ではなく、むしろ米韓同盟を揺るがせるものだからです。

 このあたり、韓国政府と米国政府の受け止めがまったく異なっているのは、とても重要なポイントでしょう。

 「日本が韓国に輸出規制(※)を仕掛けて来たから、そんな国と日韓GSOMIAを維持するわけにはいかない」、というのが韓国政府としての言い分です(※「輸出規制」とは、正しくは「輸出管理適正化措置」のこと)。

 その一方で、米国政府としては、日韓GSOMIA破棄は米国の負担が重くなることを意味するため、何としてでも避けたいものであるものの、今回ばかりは日本に対して強く出られない、という事情もあります。

 つまり、日本が7月1日に発表した輸出管理適正化措置自体、国際的な輸出管理体制の要請によるきわめて正当な措置であり、米国としては、日本に対して「輸出管理適正化措置を撤回しろ」とは口が裂けても要求できないのです。
 そうなると、輸出管理適正化措置の撤回ができない以上は、米国としては韓国に対し、無条件で日韓GSOMIA破棄の撤回をしろと言い続ける以外に方法はなくなります。

 しかし、韓国政府も「日本の輸出規制に対抗する」などと勇ましいことを言って日韓GSOMIA破棄を決定してしまった以上、日本から何らかの譲歩がなければ、無条件で日韓GSOMIAを破棄すれば、韓国国民から突き上げを喰らうことになるでしょう。

 したがって、どう考えても韓国の文在寅政権が日韓GSOMIA破棄を「無条件に撤回」することは不可能であるというのが、現時点での結論なのです。

救命ブイ

●朝日新聞「日米韓はいずれも冷静さを」

 さて、ここまで来れば、昨日の「救命ブイ議論」につながります。

 これについて議論する前提として、中央日報の社説を紹介したついでに、わが国のメディアの社説についてもひとつ、紹介しておきたいと思います。

(社説)日韓情報協定 文政権は破棄の撤回を(2019年11月16日05時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より)


 リンク先は朝日新聞デジタルに土曜日に掲載された、日韓GSOMIAを巡る社説です。

 記事タイトルと社説冒頭では、「文在寅政権は」、破棄の決定を撤回すべきと記載しています。

 朝日新聞の社説の主張は、こうです。


・日韓GSOMIAは、日本と韓国の両政府とも、国民の安全の確保に役立つと考えている

・しかし文政権が決定を覆さない限り、23日午前0時に失効し、日韓関係のみならず、日米韓3ヵ国連携にも打撃となる

・米国にとってもこれは世界に広がる米軍展開のネットワークの一部を担う取り決めだし、韓国国内でも協定を維持する方が賢明だと専門家が指摘している
・韓国・文在寅政権は、この協定破棄の決定を撤回すべきだ


 なかなか珍しいですね。朝日新聞の社説で、主語の部分に明確に「韓国政府は」ないし「文在寅政権は」と明確に述べた記事は、あまり記憶にありません。

 このこと自体、日韓GSOMIAの破棄が本当に韓国にとってきわめて重篤な事態を招きかねないことを、朝日新聞が韓国に警告しているのです。

●朝日新聞さん、誰の味方なのですか?

 ただ、「平常運転」でしょうか、朝日新聞の社説では、途中から「日本政府もかたくなな態度を緩める必要がある」だの、「歩み寄りのジェスチャーを発することで、ひとまず協定の継続を図れないか」だのといった具合に、「日本も韓国側に譲歩すべきだ」とでもいわんばかりの論調に転化します。

とくに、

「いま双方に求められるのは、自己主張への頑迷な固執ではなく、安保・経済両面での不毛な傷つけ合いを止めるための良識ある外交である」

の下りについては、自称元徴用工問題にせよ、上皇陛下侮辱事件にせよ、レーダー照射事件にせよ、日韓関係を破壊する非合理で非友好的な動きを一方的に取り続けてきたのが韓国側であるという事実をあまりにも軽視しており、到底、受け入れることはできません。

 また、米国政府が駐留経費の5倍増を韓国政府に要求した姿勢を巡り、朝日新聞は「そんなトランプ政権の同盟軽視こそが、米国主導の国際秩序を脅かす要因になっている」と「逆ギレ」しており、このあたりは現在の朝日新聞が韓国の立場に立っていることは明白でしょう。

 もっとも、

「駐留経費をめぐっては、日本も来年以降に対米協議に臨む。不当な米国の態度は本来、日韓が肩を並べて対処していい問題だ。日米韓のいずれもが、冷静さを取り戻さねばならない。」

といった下りを読んでいると、「冷静さを取り戻さねばならない」のは日米両政府ではなく韓国政府であり、かつ、朝日新聞の社説の執筆者ではないか、といったツッコミを入れざるを得ないのですが…。

●「救命ブイを投げてやれ」

 つまり、同じ社説でも、少なくとも中央日報の社説に限定すれば、「日本が悪い」式の発想はまったく存在していないのですが、むしろ日本のメディアである朝日新聞の社説の方が、「日本が韓国に対して配慮しなければならない」と主張しているのが滑稽です。

もっとも、この朝日新聞の社説の主張、朝日新聞が勝手に暴走しているとは言い切れません。というのも、『GSOMIA問題は「省益の抑え込み」に成功した好例』でも紹介したとおり、どうも外務省内部には、「韓国に救命ブイを投げてやれ」と考えている勢力がいるような気がしてならないからです。

 ここでいう「救命ブイ」とは、「韓国の文在寅政権が日韓GSOMIAの破棄を撤回すると言い出しやすくするために、日本が韓国に対して何らかの譲歩をすること」を指していることは明らかでしょう。

 では、具体的にどんな「救命ブイ」を、日本政府は考えているというのでしょうか。

 いちばんわかりやすいのは、朝日新聞編集委員の牧野愛博氏が指摘する、「日韓の諸問題を解決するためのハイレベル級協議の設置」です。

 これは、今月4日にタイで開かれたASEANプラス3サミットの控室で文在寅氏が安倍晋三総理大臣に提案したとされる構想ですが、「ハイレベル協議を設置することで合意できそうだから、日本の今後の努力に期待して、今回は日韓GSOMIA破棄を撤回する」、という「名分」のことです。

 この「ハイレベル協議の設置」で日韓両国政府が合意すれば、緊急直下、日韓GSOMIAの破棄を土壇場で撤回する、という展開も韓国政府にとっては可能だ、というのが牧野氏らの説明です。

 また、『突如浮上の「GSOMIA延長」は米国にとっても悪手』でも報告したとおり、11月4日の日韓「ソファ歓談」直後、韓国の左派メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)には「米国が日韓に対し水面下でスタンドスティル協定を締結することを呼びかけている」といった趣旨の記事も掲載されました。

 こうした「スタンドスティル協定」構想も、いまになって思えば「救命ブイ」の一種のようなものでしょう。

日本政府よ、毅然とあれ!

 さて、これまでに日本政府には、さまざまな方面から、「救命ブイを韓国に投げてやるべきだ」といったメッセージ(あるいは圧力?)が飛んできたのではないかと思います。

 個人的に思い出深いのは、『マイケル・グリーン氏、「日本が譲歩すべき」の無責任』でも取り上げた、米戦略国際問題研究所(CSIS)上級副所長兼日本部長であるマイケル・グリーン氏の「日韓関係破綻を避けるためには日本も譲歩すべき」とする極めて無責任な主張です。

 また、『GSOMIA破棄、いよいよ米韓同盟が崩壊の瀬戸際に』でも紹介したとおり、日本でも外務省の元職員が朝日新聞系のウェブサイトに「日韓GSOMIAを巡って日本が譲歩すべき」とする無責任な提案を寄稿しているようです。

 しかし、たしかに日韓GSOMIAが米韓同盟の無秩序な崩壊につながるようなことがあっては困りますが、それと同時に、日本が原理原則を捻じ曲げてまで、韓国のGSOMIA破棄という「瀬戸際外交」につきあうべきではありません。

 なぜなら、仮に今回、韓国側との「交渉に応じる」と表明してしまえば、これが悪しき前例となり、韓国政府にとっては「気に喰わないことがあればいつでも日韓GSOMIAの破棄を打ち出せば良い」、という外交カードに変化してしまうからです。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ただし、私自身は安倍政権の関係者ではありませんので、安倍総理が本心で何を考えているのかについては知り得る立場にはありません。

 少しだけ嫌な観測を申し上げておきますと、安倍総理(あるいは河野防衛相)が、「今回1回だけ、日韓GSOMIAを延長するための『救命ブイ』を投げてやる」という決定をしないという保証は、どこにもありません。

全体を俯瞰する立場にある安倍総理からすれば、総合的な手駒のひとつとして、米国に恩を売るために、ひとつくらいは韓国に対し、何らかの「救命ブイ」を投げてやる、という決定をしてもおかしくないからです。

 実際、安倍政権にも昨年10月30日の自称元徴用工判決以降表面化した「自称元徴用工問題」を巡り、韓国政府に1月9日に外交的協議を申し入れ、5月20日まで時間的猶予を与えた、という実例があります。

 このため、たとえば半年や1年、時間を稼ぐために、韓国側が「日韓GSOMIA破棄決定」を撤回するような「名分」を韓国側にわざと与えてやる、という可能性がゼロではない、とだけは一応申し上げておきたいと思います。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20191118-02/

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