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GSOMIA破棄 韓国は本当に「苦悩」しているのか

 今月22日をもって終了する日韓GSOMIAを巡って、昨日、韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)に、「韓国政府の苦悩が深まっている」という記事が掲載されました。しかし、当ウェブサイトとしては、こうした見方に対しては懐疑的です。というのも、おもに先週の韓国メディアの記事に接し、韓国政府(というよりも文在寅政権)は本質的には「反日政権」ではなく「反米政権」であり、日韓GSOMIA破棄についても米韓同盟破棄を狙い、「確信犯」として仕掛けているのではないか、とする仮説を持つようになったからです。


協定破棄まであと10日

 先週からしばしば言及していますが、日韓包括軍事情報保護協定(日韓GSOMIA)を巡って、最近、韓国メディアからさまざまな報道が相次いでいます。

 事実関係だけを改めて確認しておくと、韓国政府は8月22日、日韓GSOMIA(正式名称は『秘密軍事情報の保護に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定』)の破棄を決定し、翌日、書面で日本側にその意思を伝達しました。

 これにともない、同協定第21条第3項に従い、日韓GSOMIAの効力は今月22日に満了し、終了します。


■日韓GSOMIA第21条第3項


この協定は、一年間効力を有し、一方の締約国政府が他方の締約国政府に対しこの協定を終了させる意思を九十日前に外交上の経路を通じて書面により通告しない限り、その効力は、毎年自動的に延長される。


破棄の「真の狙い」

●「韓国政府の苦悩が深まる」、本当ですかね?

 こうした状況を踏まえ、韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)に日曜日、こんな記事が掲載されました。

迫るGSOMIA終了期限 韓国政府の苦悩深まる(2019.11.10 15:43付 聯合ニュース日本語版より)
 聯合ニュースは日韓GSOMIA破棄を巡り、「韓国政府の苦悩が深まっている」と述べます。

 なぜなら、日韓GSOMIA維持を求める米国からの圧力が強まっている一方で、韓国が日韓GSOMIA終了の「立場を変える条件はまったくそろっていない」からだそうです。

 聯合ニュースの見立ては、こうです。


・韓国政府は日韓GSOMIA終了を日本に通告することにより、米国が日本の輸出規制措置に積極的に介入するように誘導しようとした

・日韓GSOMIA終了決定から実際に失効するまでの90日間で、日韓GSOMIAを日米韓安保協力の象徴と認識している米国がより積極的な役割を果たすとの期待感だ


 わかりやすくいえば、韓国政府が「日韓GSOMIA破棄ね!」と宣言すれば、日本政府も米国政府も大慌てになり、日本が韓国に対して適用した「輸出規制(※)」を撤回するだろうし、米国も日本に対し、それを撤回させようとするだろう、と期待していたが、そのアテが外れた、ということでしょう。

(※「輸出規制」とは、正しくは輸出管理適正化措置のこと。詳しくは『総論対韓輸出管理適正化と韓国の異常な反応のまとめ』参照)

 しかし、現実には聯合ニュースが


 「しかし、状況は思い通りにはならなかった。米国は韓国に対し『GSOMIAが維持されるべきだ』と圧力を加えながらも、韓日間の対立は両国が解決すべき問題だとして積極的な介入は難しいとの立場を維持した」


 などと指摘するとおり、日本は韓国政府による日韓GSOMIA決定を「残念だ」のヒトコトで済ます(『GSOMIA破棄「残念」で終わらす日本に韓国逆ギレ』参照)一方、米国がむしろ韓国に対して激怒している状況にあるからです。

 つまり、米国が積極的な仲裁に乗り出そうとせず、日本も「頑として態度を変えない」という状況にあるがために、韓国政府としても原理原則を強調するより方法がなく、結局、日韓の膠着状況を打開するのが容易ではなくなっている、という指摘でしょう。

 そのうえで聯合ニュースは、


「残り時間は少ないが、韓米日は最後までGSOMIA終了を巡り激しい外交戦を展開するとみられる」


と述べています。

 さて、この聯合ニュースの分析は、正しいのでしょうか?

●日韓GSOMIA破棄の目的とは?
 これを考えるうえで考えなければならないのは、

 「なぜ韓国政府は日韓GSOMIAを破棄するという決断に及んだのか」

という命題です。

 当ウェブサイトの勝手な見解ですが、その理由としては、


①日本政府が7月1日に発表した韓国向け輸出管理適正化措置を撤回させるための瀬戸際外交

②米韓同盟消滅をにらんだ韓国政府による動き


という2つの仮説を抱いています。

 このうち①が正しかったとすれば、先ほどの聯合ニュースの記事は、正鵠を射ているといえます。

 しかし、どうも韓国側の報道などを冷静に読んでいくと、どうも②の理由もあるのではないかと思わざるを得ません。

 ①と②、どちらが正しいのか。あるいは①と②がどちらも正しいのか。さらには①も②も間違っていて、それ以外に理由があるのか。この正確なについては、正直、よくわかりません。なぜなら、この日韓GSOMIA破棄自体が現在進行形の事象だからです。

 一般に「歴史が動くような局面」では、各当事者らがそのときにどういうつもりでどういう行動を取り、その結果、どうなったのかについてトータルで分析しなければなりませんが、残念ながら、現時点においてそれらをすべて正確に理解することはできないのです。

 ただし、現時点で何となくわかっているのは、「日韓の歴史問題」(というよりも、「歴史」で日本に言い掛かりをつける韓国という国の問題)もさることながら、韓国が結局のところ米国につくのか、中国につくのかという問題と大きく関わっているらしい、という点でしょう。

●左派メディア「中国は脅威ではない」

 これを考えるうえでひとつのヒントとなるのが、『GSOMIA破棄で「反米」の正体を現した文在寅政権』/でも紹介した、左派メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)に10月17日付けで掲載された『韓日GSOMIA終了、その先にある問題』という記事です。

 ごく簡単に内容を振り返っておきましょう。


・韓日GSOMIAを巡り、保守マスコミは韓米同盟亀裂を理由に、これを元に戻さねばならないとの世論を煽っているし、文在寅政権内にも条件付きで韓日GSOMIA終了を再検討しようとする意見が存在している

・しかし、韓日GSOMIAの終了決定は、「果たして韓国にとって高度な韓日安保協力が必要なのか」という問いに対する返答でもある

・韓国または韓米同盟が米日同盟と結びつけば、韓国は中国の脅威に対応するための前哨基地に追い込まれてしまう。韓日安保協力が高度化すれば、日本は戦略基地、韓国は最前線の戦闘基地になることを意味するからだ

・日本政府は米日同盟を「公共財」と位置付けているが、この米日同盟の利益を韓国が「無料」で享受することはできない。米日同盟は韓国の「無賃乗車」を拒否し対価を要求する。韓日GSOMIAはその最初の請求書であり、THAADは2番目の請求書だった

・こうした「米日同盟公共財論」は、冷戦期に米国がアジアに構築しようとしていた反共同盟の延長線上にあり、中国牽制・中国封鎖という意味を持つ。韓国はそのような公共財を享受する必要がないので対価を支払う必要もない


 要するに、韓国は中国(あるいは北朝鮮)の脅威というものを認識する必要はないので、日米同盟は韓国にとって恩恵のあるものではない、というロジックですね。

 このハンギョレ新聞の記事では、「韓国の安保に必要なのは米韓同盟であり日米韓同盟ではない」などと主張していますが、さすがに「米韓同盟は必要ではない」とまでは断言していません。

 しかし、行間を読んでいくと、この記事の著者が本心では米韓同盟まで破棄し、中韓同盟を締結すべし、とでも言いたいのではないかと疑ってしまうのです。

具体的な証拠


●韓国大統領府、GSOMIA延長の意思なし?

 どうして当ウェブサイトでこのハンギョレ新聞の記事を何度も取り上げるのかといえば、このような記事が出て来ること自体、韓国国内の世論が現在、「親北派」と「親米派」に割れていて、「一枚岩」ではない証拠だからです。

 そもそも論として、現在の韓国政府(というよりも文在寅政権)の姿勢は、このハンギョレ新聞の記事に近い立場であるように思われます。というのも、韓国政府は「日本が『輸出規制』を撤回しない限り、GSOMIA破棄を撤回することはない」と言い続けているからです。

 その直近の事例としては、聯合ニュースに日曜日に掲載された、次の記事がわかりやすいでしょう。

韓日関係正常化すればGSOMIA延長を検討=韓国国家安保室長(2019.11.10 17:25付 聯合ニュース日本語版より)


 リンク先の記事によれば、韓国大統領府の鄭義溶(てい・ぎよう)国家安保室長は10日、合同記者会見でメディア側から「GSOMIA終了を猶予するなどの解決策を模索することは可能か」と問われ、次のように答えたのだそうです。


・韓日関係が正常化されれば、政府としてはGSOMIA延長を検討する用意がある

・こうしたわれわれの立場は日本に何度も説明した
このあたりは、すでに何度も報じられている韓国政府高官らの発言とさほど異なる点はありません。


なにより、鄭義溶氏は「日韓関係が最近悪化した根本的な理由は日本に由来する」などと述べたそうですが、こうした発言が出て来ること自体、韓国大統領府には日韓GSOMIA破棄を積極的に覆す意思がないという証拠に見えてなりません。

 こうした韓国の政権関係者などの発言を読んでいくと、やはり、日韓GSOMIAを巡っては、表向きは「日本が韓国に対して輸出『規制』を仕掛けて来たので、それに対してわが国も報復措置を取った」というふうにみえますが、個人的にはこの日韓GSOMIA破棄が

輸出管理適正化措置を撤回させるための「瀬戸際外交」

という性格を持っているだけでなく、

米国との関係を清算するための布石

としての側面があるように思えてなりません。

●保守系メディアは先週頃から反発を強める

 さて、この聯合ニュースの記事についてはのちほどもう少し深く掘り下げるとして、ここでは先に、もうひとつ紹介しておきたい論点があります。それは、韓国国内で現在、保守派メディアから「悲鳴」にも似たGSOMIA延長論が出て来ている、という話題です。

 これについては当ウェブサイトでも先週の『韓国保守系メディアの危機感と「GSOMIA延長論」』で紹介したとおり、日韓GSOMIAを巡る保守系メディアの報道姿勢には、違和感を禁じ得ません。

 というのも、普段、韓国メディアは、保守メディアであろうが左派メディアであろうが、「日本が悪い」という議論で凝り固まっていることが多いのですが、日韓GSOMIA延長を巡っては、どうも今までと状況が違うからです。

 たとえば、韓国メディア『中央日報』(日本語版)が11月7日付で掲載した社説『韓米同盟基盤であるGSOMIAの廃棄、迅速に撤回を』では、「日韓GSOMIA破棄はやりすぎ」、「韓国政府は今すぐ無条件でGSOMIA破棄を撤回せよ」、と求めています。

 また、同じく保守系と見られている韓国メディア『東亜日報』(日本語版)も、11月4日付で掲載した社説『GSOMIA終了目前なのに、韓日対立を放置するのか』で、韓国政府は「日本の態度変化を待つだけでなく、対話の糸口を模索せよ」と述べているのです。

 これらの記事に共通しているのは、普段の「日本に対する恨み節」がほとんど目立たず、米国との関係悪化を極端に懸念している、という点にあります。

●本質は親米派と親北派の対立

 あえて語弊を恐れずに申し上げるならば、日韓GSOMIA破棄は、韓国国内では「親米派」と「親北派」の対立の象徴となっているフシがあるのであり、それに対して日本が勝手にダシに使われているのです。

 ここで、先ほどの聯合ニュースの記事に戻り、鄭義溶氏の重要な発言を紹介しておきましょう。


「日本が安全保障における協力で(韓国が)信頼を失ったとの理由で輸出規制措置を施行したため、こうのような状況でGSOMIAを延長できないという立場は国民にも理解してもらえると思う。」


 おそらく、これこそが韓国大統領府のホンネでしょう。

 韓国側のロジックによれば、日本が「安全保障」の分野で「韓国に対する信頼を失った」などと難癖をつけ、不当な輸出規制を韓国に対して仕掛けて来たので、韓国側も「安全保障分野における協力の象徴である日韓GSOMIAの延長はできない」と判断した、ということです。

 そして、そのことを韓国の有権者に対してわかりやすく見せることで、「日韓GSOMIAを延長するためには日韓関係悪化の原因を作った日本政府による問題解決が先だ」、「日韓GSOMIAがなくなったとしてもそれは日本のせいだ」、というロジックで押し通そうとしているのではないでしょうか。

問題は「その次」

 さて、マーク・エスパー米国防長官が15日に訪韓する際、韓国政府に対して日韓GSOMIA破棄撤回を促すと見られるなど、これからの10日間で、韓国政府が土壇場になって日韓GSOMIA破棄撤回を表明する可能性は残されています。

 これに加えて、『突如浮上の「GSOMIA延長」は米国にとっても悪手』でも報告したとおり、ハンギョレ新聞は先週、「米国が日韓に対し水面下でスタンドスティル協定を締結することを呼びかけている」といった趣旨の報道をしていますので、まだまだ油断はできません。

 ただし、現段階で当ウェブサイトとして現在考えられる一番可能性の高いシナリオを提示しておきますと、日韓GSOMIAの破棄は、少なくとも韓国国内では「決定事項」です。なぜなら、日韓GSOMIA破棄は米韓同盟を少しずつ破棄に持っていくための布石でもあるからです。

 もちろん、日本に輸出管理適正化措置を撤回させることができれば「儲けもの」ですが、どちらかといえば米韓同盟の終了を加速させる効果が狙いであり、ついでに「米韓関係悪化はわが国が日韓GSOMIAを破棄せざるを得ない状況に追い込んだ日本のせいだ」と強弁するための材料でもあります。

 この見立てが正しければ、日韓GSOMIA破棄後に浮上するのは、高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の追加配備拒否、戦時作戦統制権の返還加速、在韓米軍基地の用地返還要求、さらには駐留費用負担増の拒絶といった諸論点でしょう。

 日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏が著書『米韓同盟消滅』のなかでも説明しているとおり、米韓同盟は現在、何らかの理由をつけて消滅する方向に向かっていると考えられますが、日韓GSOMIA破棄は「日本のせいで米韓同盟が破綻した」と説明するにはちょうどよい材料です。

 もっとも、「韓国の文在寅政権が米韓関係を清算しようとしている」、「日韓GSOMIA破棄もその一環だ」といった見立てが正しいかどうかについては、もう少し見極めが必要です。とくに、


・先月末から今月初にかけて、李洛淵(り・らくえん)韓国首相が日本にやって来て文在寅(ぶん・ざいいん)大統領の親書を安倍晋三総理大臣に手渡した(『日韓会談サプライズなし、一方でリスの銅像問題急浮上』等参照)

・安倍総理がASEAN+3会合で文在寅氏との「ソファ歓談」に応じたシーンが韓国政府高官(鄭義溶氏?)のスマートフォンによって「盗撮」された可能性がある(『韓国首相、日韓首脳「歓談」を無視する日本に不快感?』等参照)


といった話題を眺めていると、韓国側は現在、日韓関係の改善を無理やり演出しようとしているようにも見えますし、これだけを見ていると、韓国政府の行動は、一見すると本稿の主張内容と矛盾しているからです。
20191104abe-bun
【参考】韓国大統領府による「盗撮」(?)ココをクリックで拡大

(【出所】韓国大統領府

(※もっとも、文在寅政権に首尾一貫した行動を求める方が難しい、という事情もあるのかもしれませんが…。)

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ついでにいつもの主張を繰り返しておきましょう。

現在の日韓間には日韓GSOMIA破棄問題だけでなく、自称元徴用工問題など、さまざまな懸案が横たわっています。そして、これらの諸懸案を巡っては、究極的には


①韓国が国際法や約束をきちんと守る方向に舵を切ることで、日韓関係の破綻を避ける

②日本が原理原則を捻じ曲げ、韓国に対して譲歩することで、日韓関係の破綻を避ける

③韓国が国際法を破り続け、日本が原理原則を貫き続けることで、日韓関係が破綻する


という3つの帰結しかあり得ません。

 日本国内では「日韓関係が破綻して困るのは日本の方だ」、「何があっても日韓関係の破綻を避けねばならない」などと主張する勢力も多く、酷い場合には「輸出規制は安倍外交の敗北だ」などと述べる論客もいるほどです(なぜか保守系の論客にもこの手の主張をする人がいます)。

 ただ、当ウェブサイトの見立てでは、日韓関係は日本経済にとってそこまで重要ではないと考えており、それどころか、日韓関係はいまや利点よりも害悪のほうが大きくなっているとすら懸念しています。

 もちろん、当ウェブサイトとしては、シンプルな「日韓断交論」に与するつもりはありませんが、それと同時に、日韓関係の破綻を見据えた行動が必要だとも考えています(その典型例が、韓国国民に対する入国・在留ビザの厳格化でしょう)。

 したがって、普段の主張の繰り返しで恐縮ですが、日本がこれからやらねばならないことといえば、


・日韓関係が今すぐ無秩序に破綻することは何とか避ける
・日韓関係がいつ破綻しても良いような準備を今から開始する


という2点ではないかと思う次第なのです。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20191111-02/

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