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GSOMIA破棄が外交カードにならなくて焦る韓国

 数日前から他サイトで取り上げられてきた記事の日本語版が、昨日、『中央日報』のウェブサイトに掲載されました。といっても、一部、日本語として意味が通じにくい下りがあるなど、不十分な代物ですが、それでも先月22日に日韓GSOMIA破棄を決断した時点の韓国政府の思惑と、日本や米国が1ミリたりとも動かないことで本気で焦っている現在の韓国政府内の雰囲気をうかがい知ることができます。ただ、本件について深く考察していくと、結局は「いつもの問題」に帰着するようです。


●中央日報、本気で焦る!
 韓国メディア『中央日報』(日本語版)に本日、こんな記事が掲載されていました。

■1カ月になろうとしているのに少しも動かない日米…GSOMIA「心肺蘇生」は可能か(2019年09月17日15時56分付 中央日報日本語版より)


 すでにいくつかのサイトでこの記事の韓国語版が紹介されていたようですが、リンク先はその日本語版です。

 日本語を整えて内容を要約すると、


 「先月22日の日韓包括軍事情報保護協定(日韓GSOMIA)から1ヵ月近い時間が経過したが、日本が少しも動かないため、「GSOMIAカード」の実効性に対する疑問が韓国政府内にも広がっており、加えて予想より強い米国の反発に懸念まで生じている」


と主張する記事ですが、正直、読んで呆れてしまいます。というのも、韓国政府や韓国メディアが、今の今まで、日韓GSOMIA破棄を「外交カード」だと本気で勘違いしていたようだからです。

 自慢ではありませんが、当ウェブサイトではすでに8月5日の時点で、日韓GSOMIAが「外交カード」ではなく「地雷」だと報告していました(『「日韓GSOMIA破棄検討」?それカードやない、地雷や!』参照)。

 当ウェブサイトごときが事前に予想していた内容を、なぜ韓国メディアや韓国政府が予想できていなかったのかが不思議でなりません。

 実際、『韓国が日本をホワイト国除外:瀬戸際外交は無視に限る』『自称元徴用工問題巡る換金は「お手並み拝見」』などでも報告したとおり、韓国は苦境に陥ったときに、たいていの場合は「ウソツキ外交」「瀬戸際外交」「コウモリ外交」「告げ口外交」などの手段に出て、相手国を揺さぶろうとします。

 しかし、現在の日本政府(というよりも安倍政権)は、韓国政府の仕掛けてくるこれらの瀬戸際外交に対し、口先では非難しながらも、実質的にはことごとく静観しています。

 だからこそ、韓国政府は焦っていて、「GSOMIA破棄」「ホワイト国からの日本の除外」「差押え資産の売却手続」など、次から次へと日本を揺さぶるネタ外交を仕掛けて来ているのかもしれませんね。

●現在の韓国政府内の雰囲気

 さて、ここで中央日報の記事に戻ります。

 中央日報は現在の韓国政府内の雰囲気について、「事情に詳しい消息筋」の話として、次のように述べます(ただし、中央日報日本語版の記事の原文がかなりわかり辛いので、当ウェブサイト流に解釈し、筋道を立ててわかりやすく言い換えています)。


・韓国政府は「日本が経済報復を撤回すれば、韓国政府もGSOMIA終了決定を再検討する」という筋道を立てており、実際、康京和外交部長官も国会外交統一委員会に出席して、そのようなことを述べている

・ただ、GSOMIA終了発表直後は強硬だった韓国政府は現在、「日本に対して不当な経済措置撤回を繰り返し求めている」としつつも、「GSOMIA破棄の撤回」そのものを巡っては、日本政府と交渉しているかどうかすら明らかにできないほど用心深い状況にある

・さらに、米国務省や国防総省で韓国政府の決定を批判する反応が相次いでおり、また、実際にGSOMIA終了日(11月23日)までまだ時間が3ヵ月残っていることから、韓国政府内では次第に「GSOMIAの条件付き再開」に傾いている

・実際、今月2日に就任した金峻亨・国立外交院長も、「日本の態度変化があればGSOMIA再開も可能」と話している


 このあたり、個人的には、ある程度は予想が付いていたことでもあります。
 韓国政府は日韓GSOMIA破棄を、いつもの瀬戸際外交のノリで、「外交カードを切った」つもりだったようですが、現実には、日韓関係ではなく米韓関係そのものの「地雷」を踏んだだけの話だったのです(『もう日本は関係ありません、今後は米韓間で直接どうぞ』参照)。

 もちろん、米国政府の中には、この期に及んで、「日韓が直接話し合え」などと寝言を言ってくる者もいるようですが(『日韓GSOMIA破棄問題、米国の「逃げ得」を許すな』参照)、今回の日韓GSOMIA破棄は韓国の「オウンゴール」であり、日本にできることはなにもありません。

●日本政府は「戦略的・丁寧な無視」

 ところで、中央日報の記事は、ここから迷走し始めます。というのも、日韓GSOMIAという国際協定を、韓国国内の民法の規定によって無理やり解釈しようとし始めるのです(※次の下りは原文ママ)。


 「GSOMIA協定文上、『終了意思撤回』に関する明確な規定はないが、技術的に再検討することが不可能なわけではない。民法上、契約解除の意志は原則的に撤回されることができないが、契約解除の意思を表わす時に重大な錯誤や欺罔、強圧などの取り消し理由があるなら撤回できるというのが大法院の判例だ。しかし錯誤・欺罔などを政府が認めない限り、その可能性は低い。」


 おそらく、この下りについては、書いている人にもよく分かっていないのだと思いますが、韓国政府による日韓GSOMIA破棄決定は、「錯誤」でも「欺罔」でも「強圧」でもありません。

 れっきとした政治的な責任を伴う決定です。

 当然、GSOMIA破棄については、その全責任を負うべきは破棄を決定した韓国政府の側であり、日本政府の側ではありません。そして、中央日報は、肝心の日本政府側が「日韓GSOMIAはすでに終わった問題」という考え方が優勢だとしたうえで、次のように述べます。


 「必要なことは名分だが、日本が不動の姿勢だ。9月11日の内閣改造後に安倍晋三首相は、韓国に対する外交基調に対する質問を受けて『みじんも変わらない』と答えた。韓国が動く空間を最初から遮断したのだ。」(※原文の日本語表現を一部修正)


 要するに、韓国が翻意しようがしまいが、もう日韓GSOMIAの終了は既定路線だ、というわけです。

●残念ながら、米国も動けない

 それだけではありません。

 残念ながら、韓国が期待する「米国の仲裁」とやらも、期待できる状況ではありません。

 先ほども紹介したとおり、どうも韓国政府内では「日韓GSOMIA破棄」の撤回と引き換えに、日本の対韓輸出管理適正化措置を撤回させようとする雰囲気があるようですが、輸出管理適正化と日韓GSOMIA破棄はまったく別次元の問題であり、そもそも交渉になるものではありません。

 「米国の仲裁」とやらが何を意味しているのかは定かではありませんが、もしそれが


・日本に対して対韓輸出管理適正化措置の撤回を要請する
・韓国に対して日韓GSOMIA破棄決定の撤回を要請する


ということを意味しているのだとしたら、米国が日本に対し、日本政府の判断に基づく輸出貿易管理措置を撤回しろと命じているのと同じであり、それは明らかな内政干渉でもあります。

 もちろん、米国にとって「日韓GSOMIAがどうしても破棄されては困るものだ」という性質のものであれば、米国であれば内政干渉と受け取られてもそれを遂行するかもしれません。

 しかし、現在の日本側の政権を率いているのが、内閣総理大臣としての通算在任日数が史上最長となることが視野に入った安倍晋三総理大臣であり、防衛相に河野太郎氏、外相に茂木敏充氏といったコワモテのタフネゴシエーターを取り揃えているという点を考えると、あからさまな内政干渉は難しいでしょう。

 さらに、米国から見て、日韓GSOMIAとは「米国が介在せず、日韓で自動的に軍事情報をやり取りしてもらう」という意味での法的基盤であり、これを破棄されるのは厄介な話ですが、逆にいえば、それ以上でもそれ以下でもありません。

 米国が日本のタフネゴシエーターたちを納得させ、日本に内政干渉してまで、韓国のために、日韓GSOMIA破棄を撤回させようと骨を折るとは思えないのです。

 ちなみに文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領は国連総会に出席するため、今月22日から訪米し、ドナルド・J・トランプ米大統領と首脳会談を行うそうです(『韓国の新金融委員長から日韓スワップ待望論、なぜ?』参照)が、今回、文在寅氏はどれほど米国から冷遇されるかわかりません。

 実際、中央日報の記事でも、


「ワシントンでは『日本の経済報復=韓日両者が解決する問題』、『GSOMIA終了決定=韓国が取り下げるべき問題』という公式から動かないという。今月11~13日にワシントンを訪問した尹相現・国会外交統一委員長も『ホワイトハウス・国務省・議会問わず韓国政府のGSOMIA決定に強い懸念をにじませていた』『今回の国連総会韓米首脳会談でトランプ大統領が直接言及する雰囲気』と伝えた」


とあるとおり、現状で米国が日韓GSOMIA破棄問題に手を突っ込む可能性は非常に低いと見て良いでしょう。

●外交オンチの米国:米韓同盟消滅までひと波乱ありそう

 ただし、米国の側に、いまだに「韓国は米国の同盟国だ」「韓国は米国と価値や利益を共有している」「韓国は自由で開かれたインド太平洋戦略に参加し、日米とともに中国や北朝鮮を牽制する役割を担うべきだ」とする甘ったれた考え方が蔓延していることは事実でしょう。

 実際、『「米韓同盟は成り立たない」といい加減気付いたら?』でも報告したとおり、米国政府内ではこの期に及んで「日米韓3ヵ国連携」が機能していると本気で信じている人もいるほどです。

 これについては「りょうちん」のハンドルネームを使う読者の方の、こんな趣旨のコメントが、問題を正確に言い表しています(大意を変えない範囲で、表現を変更し、箇条書きにしています)。


・「日本が論理的に正しい内容を米国に対して主張すれば、米国人が日本の立場を理解する」との考えは幻想に過ぎない

・米国は非常に強大な国であり、超一流の外交専門家が育つ土壌がない

・よって、米国内の自称外交専門家はあくまで米国の論理フレームでしか思考できず、外交の専門家としてはみな二流以下である


りょうちん様、相変わらず冴えていらっしゃいますね。

 だからこそ、自称「外交専門家」(たとえば米戦略国際問題研究所=CSISの研究員ら)は、「日米と同じ自由主義陣営に属する民主主義国家である韓国があれだけ怒っているのだから、日本にも悪いところはあるのだろう」、といった間違った判断を下し続けるのです。

 そういえば、米国務省内にも、「日韓はそれぞれ内省すべきところがある」、「日韓関係悪化には双方に責任がある」と言い放つ、マーク・ナッパー米国務副次官補(日韓担当)のようなボケた人物がいるようです(『日本政府はナッパー国務副次官補の更迭を要求すべき』参照)。

 当然、米国側から「日本が譲歩すれば韓国は日韓GSOMIA終了を再考するはずだから、日本は譲歩すべきだ」などとふざけたことを言い出す輩が出てこないとは限りませんので、その意味では、直前まで気を抜くことはできません。

 いずれにせよ、米国が日韓関係悪化を巡って「日韓双方に責任がある」という認識を持ち続けるのは、日本との信頼関係を損ねる原因でもあります。だからこそ、日韓GSOMIA破棄を契機に、米国の怒りの矛先が韓国にのみ向けられているという現在の状況は、日本にとってはむしろ好都合と言えるのです。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20190918-01/

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